◆【映画】『イニシエーション・ラブ』(2015年)の作品情報
キャッチコピー:最後の5分、全てが覆る。あなたは必ず、2回観る。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 監督 | 堤幸彦 |
| 脚本 | 井上テテ |
| 原作 | 乾くるみ『イニシエーション・ラブ』 |
| 出演 | 松田翔太、前田敦子、木村文乃、 三浦貴大、前野朋哉ほか |
| 配給 | 東宝 |
| 公開 | 2015年 |
| 上映時間 | 110分 |
| 製作国 | 日本 |
| ジャンル | 恋愛ミステリー/ラブサスペンス |
| 視聴ツール | U-NEXT、自室モニター、nwmヘッドフォン |
◆キャスト
- 鈴木:松田翔太 代表作『ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ』(2010年)
- 成岡繭子(マユ):前田敦子 代表作『もらとりあむタマ子』(2013年)
- 石丸美弥子:木村文乃 代表作『ザ・ファブル』(2019年)
- 海藤:三浦貴大 代表作『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』(2010年)
- 梵ちゃん:前野朋哉 代表作『桐島、部活やめるってよ』(2012年)
◆あらすじ
ネタバレなしのあらすじ
1980年代後半、バブル景気に沸く静岡。就職活動中の大学生・鈴木は、友人に誘われて参加した合コンで、歯科助手として働く成岡繭子、通称マユと出会います。恋愛経験がほとんどなく、太った体形に自信を持てない鈴木でしたが、明るくかわいらしいマユにひと目で心を奪われます。
マユも素朴で誠実な鈴木に興味を示し、二人は少しずつ距離を縮めていきます。鈴木はマユにふさわしい男性になろうと毎日走って減量し、髪形や服装も変えていきました。やがて見違えるほど洗練された鈴木は、マユから「たっくん」と呼ばれるようになり、二人は恋人同士になります。
しかし、鈴木が勤務先の東京本社へ転勤したことで、二人は遠距離恋愛を始めることになります。鈴木は週末ごとに東京と静岡を往復しますが、仕事の疲れや移動の負担によって、二人の間には少しずつすれ違いが生まれていきます。さらに東京で、知的で洗練された同僚・石丸美弥子と出会った鈴木の心は揺れ始めます。純粋な恋愛物語に見える二人の関係には、ある重大な秘密が隠されていました。

ここからネタバレありです
東京で働き始めた鈴木は、遠距離恋愛の寂しさと仕事の忙しさから、マユへの態度を次第に変化させていきます。そんな中、美弥子から積極的に誘われ、二人は男女の関係になりました。鈴木はマユとの交際を続けながら美弥子とも付き合い、ついにはマユを「美弥子」と呼び間違えてしまいます。傷ついたマユと激しく言い争った鈴木は、彼女に別れを告げ、美弥子を選びます。
ところが、物語の最後に驚くべき事実が明かされます。これまで連続しているように見えた「Side-A」と「Side-B」は、実際には異なる二人の鈴木を描いた物語でした。Side-Aで太った大学生として登場した鈴木夕樹と、Side-Bで東京勤務をしていた鈴木辰也は、同一人物ではありません。マユは二人の男性をどちらも「たっくん」と呼び、同じ時期に交際していたのです。

Side-AとSide-Bは、単純に時系列どおり並んだ物語ではありません。辰也との関係が悪化していく一方で、マユは合コンで出会った夕樹との関係を育てていました。夕樹にダイエットや服装の改善を勧めた行動も、真相を知ったあとでは、次の恋人を自分好みの男性へ変えていたように見えてきます。
鈴木が美弥子との浮気を隠していた一方で、マユも別の男性との関係を進めていました。恋愛の始まりを意味するように見えたタイトルは、人生における最初の本格的な恋愛だけでなく、次の恋へ移るための通過儀礼を示していたのです。
◆考察と感想
俺の考察と感想
『イニシエーション・ラブ』を観終わった直後、俺が最初に感じたのは、「なるほど、そういうことだったのか」という驚きよりも、「俺は完全に思い込まされていた」という悔しさでした。映画の中で大きな嘘が語られていたわけではありません。登場人物の言葉や行動が不自然に隠されていたわけでもない。それなのに俺は、Side-Aの鈴木とSide-Bの鈴木を、勝手に同じ人物だと決めつけていました。
太っていて恋愛経験のない鈴木が、マユと出会い、彼女にふさわしい男になるために痩せて、髪形や服装を変え、やがて都会的な男性へ成長する。そういう物語だと思い込んで観ていました。おそらく多くの観客も同じように考えたはずです。人は物語を見るとき、途切れている情報を自分の中で自然につなぎ合わせます。この作品は、その習性を利用して観客自身に“間違った物語”を完成させているのです。

momoko
「今は、ださださの男性でも、整形したり化粧したりする時代だから思い込むよね。」

yoribou
「木村文乃が、イニシエーション・ラブの話をした段階で、頭では確認するんだけどね。はめられるわ。」
最後の仕掛けが明かされたことで、前半の純粋な恋愛物語はまったく別の意味を持ち始めます。マユは、恋愛に不器用な鈴木夕樹を優しく励まし、ダイエットを勧め、服装や髪形を変えさせます。初見では、それは好きな男性を応援する健気な行動に見えました。しかし真相を知ったあとでは、マユが次の恋人を自分好みの男性へ作り替えていたようにも見えます。
ここで怖いのは、マユが最初から悪意だけで行動していたとは言い切れないことです。鈴木夕樹への好意も、おそらく嘘ではなかったと思います。ただし、その一方で辰也との関係を完全には終わらせず、別の恋を同時進行させていました。つまりマユは、現在の恋が終わってから次へ進むのではなく、次の恋を準備してから現在の恋を終わらせようとしていたのです。
恋愛では、相手への気持ちが冷めたからといって、すぐに一人になれる人ばかりではありません。寂しさや不安から、次の相手を確保しておきたいと思う人もいます。マユの行動は誠実とは言えませんが、人間の弱さとしては妙に現実的です。だからこそ、単純な悪女として片づけられない不気味さがあります。
一方で、Side-Bの辰也も被害者としてだけ描かれているわけではありません。遠距離恋愛が始まると、彼は仕事や移動の疲れを理由にマユとの時間を負担に感じるようになります。そして東京で美弥子と親しくなり、マユとの関係を続けながら浮気をします。辰也は自分が裏切る側に回っていながら、マユには変わらず自分だけを愛していてほしいと考えていました。
俺はこの姿を見て、恋愛における男の身勝手さも強く感じました。自分は新しい刺激に流されるのに、相手が同じことをしている可能性までは考えない。マユは自分を待っている、いつでも自分を受け入れてくれると思い込んでいる。その安心感に甘えて、関係を雑に扱ってしまいます。
辰也がマユを美弥子と呼び間違える場面は、二人の関係が決定的に壊れる瞬間です。もちろん名前の呼び間違いそのものもひどいのですが、問題はそれ以前から始まっていました。東京と静岡の距離よりも、二人の気持ちの距離が離れていたのです。連絡や移動が負担になり、会うことが義務のようになった時点で、恋愛はすでに変質していました。
作品のタイトルである「イニシエーション・ラブ」は、一般的には若い頃に経験する、人生最初の本格的な恋愛を意味します。その恋は本人にとっては真剣でも、後から振り返れば次の恋愛へ進むための通過儀礼だったと気づく。マユにとって辰也との恋も、夕樹との恋も、人生の中で永遠に続くものではなく、次の自分へ進むための一段階だったのかもしれません。
ただ俺は、このタイトルにはもう少し残酷な意味もあると思いました。恋愛を始めるたびに、人は相手との関係を通して、嘘のつき方、相手の引き止め方、別れの準備の仕方まで覚えていきます。初めての恋では純粋だった人も、傷ついた経験を重ねるうちに、次第に自分を守る術を身につけます。マユの計算高さも、もしかすると過去の恋愛の中で獲得したものなのかもしれません。
そしてこの作品が面白いのは、結末を知ったあとでも、誰が本当に一番悪いのかを簡単には決められないところです。マユは二股をかけています。辰也も浮気をしています。夕樹は真実を知らず、純粋にマユを信じています。しかし、その夕樹もこれから恋愛を経験する中で、いつか誰かを傷つける側になる可能性があります。
恋愛では、自分は誠実なつもりでも、相手から見れば残酷なことがあります。はっきり別れを告げずに距離を置くことも、期待させたまま次の相手を探すことも、忙しさを理由に相手を後回しにすることも、すべて小さな裏切りになり得ます。本作は大きなどんでん返しで観客を驚かせますが、本当に描いているのは、そうした恋愛の中の小さな不誠実さだと思います。
俺はマユを見ていて、怖い女性だと思う一方で、恋愛において非常に現実的な人物だとも感じました。彼女はただ待っているだけではなく、自分が愛される状況を作り続けます。辰也との関係が不安定になれば、夕樹との関係を育てる。相手に合わせるだけではなく、相手そのものを自分好みに変えていく。その行動力は恐ろしいですが、恋愛の主導権を握る強さでもあります。
結局、この映画で最も騙していたのはマユではなく、映像の順番と観客自身の思い込みです。俺たちは見た目が変わり、時代が少し進み、名前が同じであれば、それを同一人物の成長だと勝手に解釈します。その思い込みが崩れた瞬間、何気ない会話や小道具、日付、人物の反応がすべて違って見えてきます。
一度目は恋愛映画として観て、二度目は答え合わせをするミステリーとして観る。宣伝文句どおり、二度観たくなる作品でした。ただし二度目に強く感じるのは、仕掛けの巧さだけではありません。誰かを好きになる純粋さと、関係が壊れていく醜さが、同じ恋愛の中に同時に存在していることです。
俺にとって『イニシエーション・ラブ』は、単なる「最後に驚く映画」ではありませんでした。恋愛は始まった瞬間が最も美しく、その後は相手との距離や欲望、自分の弱さが少しずつ入り込んでくる。永遠に続くと思っていた気持ちも、環境が変われば簡単に揺らいでしまいます。だから恋愛で本当に難しいのは、相手を手に入れることではなく、手に入れたあとも誠実であり続けることなのだと思いました。
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モテ男目線の考察
モテる男ほど、この映画のマユを単純な悪女とは見ないはずです。相手の気持ちが離れ始めたとき、追いすがるだけでは関係は戻りません。辰也はマユを安心させる努力をせず、美弥子という新しい刺激に流されました。その間にマユも次の相手との関係を育てていたのです。恋愛では、付き合えた時点がゴールではありません。会えない時間にも相手を不安にさせず、言葉と行動で愛情を示し続ける必要があります。モテる男は女性を疑う前に、自分が相手を大切にできていたかを考えます。
◆教訓
恋愛では、相手を手に入れることよりも、関係が始まったあとに誠実であり続けることのほうが難しいのです。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 18 / 20 | 恋愛物語に巧妙な仕掛けを組み込み、最後に 印象を一変させます。 |
| 演技 | 18 / 20 | 前田敦子と松田翔太が、恋人同士の甘さと すれ違いを自然に演じています。 |
| 映像・演出 | 19 / 20 | 時代背景や場面のつなぎ方を利用し、観客 の思い込みを巧みに誘導します。 |
| 感情の揺さぶり | 20 / 20 | 終盤の真相によって、それまでの恋愛模様 がすべて違って見えてきます。 |
| テーマ性 | 19 / 20 | 恋愛の不誠実さ、人間の思い込み、次の恋 へ移る残酷さを描いています。 |
| 合計 | 94 / 100 | 王道の恋愛映画に見せかけて、観客の思い 込みを利用した恋愛ミステリーです。 結末を知ったあとに、最初からもう一度 確かめたくなる完成度の高い作品でした。 |
◆総括
『イニシエーション・ラブ』は、懐かしい1980年代の恋愛模様を描くラブストーリーでありながら、最後に物語全体の見え方を覆す恋愛ミステリーです。
太った鈴木がマユとの恋をきっかけに自分を変えていく前半は、純粋な青春恋愛映画として楽しめます。一方、東京転勤後のすれ違いや浮気を描く後半では、恋愛を続けることの難しさや、人間の身勝手さが浮かび上がってきます。
そして終盤に明かされる真相によって、観客が当然だと思っていた時間軸や人物関係が崩れ、それまでの何気ない会話や行動にも別の意味が生まれます。大きな嘘を見せるのではなく、観客自身の思い込みを利用して騙す演出が、本作品最大の魅力です。
ただし、本作品の面白さはどんでん返しだけではありません。相手を愛しているつもりでも、寂しさや環境の変化、新しい出会いによって気持ちは簡単に揺らぎます。マユと辰也の双方にある不誠実さが、恋愛の甘さと残酷さを現実的に映し出していました。
一度目は恋愛映画として、二度目は伏線を確認するミステリーとして楽しめる作品です。結末を知ったあとに冒頭から見返したくなる、仕掛けと人間ドラマがうまく組み合わされた一本でした。
※本ページにはプロモーションが含まれています。
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