命を救うはずの病院で、なぜ誰も彼を止めなかったのか。
【監督】トビアス・リンホルム
【脚本】クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
【原作】チャールズ・グレーバー『The Good Nurse』
【出演】ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメインほか
【配信】Netflix
【公開】2022年
【上映時間】121分
【製作国】アメリカ
【ジャンル】サスペンス、犯罪、実話、ドラマ
【視聴環境】Netflix、吹替、IRIS OHYAMAモニター、nwmヘッドホン
◆主要キャスト・登場人物
エイミー・ローレン/ジェシカ・チャステイン
代表作『タミー・フェイの瞳』(2021年)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)。
ニュージャージー州の病院で夜勤勤務を続ける看護師。
二人の娘を育てるシングルマザーでありながら、自身も重い心臓病を抱えている。
患者に寄り添う優秀な看護師だが、健康保険に加入するためには、あと数カ月働かなければならず、身体に大きな負担を抱えながら勤務を続けている。
新しく配属されたチャーリーに助けられ、次第に彼を信頼するようになるが、病院で相次ぐ患者の不審死をきっかけに、思いもよらない真実と向き合うことになる。
チャーリー・カレン/エディ・レッドメイン
代表作『博士と彼女のセオリー』(2014年)、『ファンタスティック・ビースト』シリーズ。
エイミーの勤務する病院へ新たに配属された経験豊富な看護師。
穏やかで人当たりがよく、患者にも同僚にも優しく接する人物である。
心臓病を抱えるエイミーの体調を気遣い、仕事を手伝うだけでなく、彼女の娘たちにも親切に接する。
エイミーにとって頼れる友人となっていく一方、病院で続く不可解な患者の死と、彼の過去との間に不穏なつながりが見え始める。
ダニー・ボールドウィン刑事/ナムディ・アサマア
代表作『クラウン・ハイツ』(2017年)。
病院で起きた患者の不審死を捜査する刑事。
ブラウン刑事とともに病院関係者への聞き取りや投薬記録の調査を進めていく。
しかし病院側は捜査に対して積極的とは言えず、必要な情報も簡単には開示しない。
そうした対応に強い疑念を抱きながら、エイミーの協力を得て事件の核心へ近づいていく。
ティム・ブラウン刑事/ノア・エメリッヒ
代表作『トゥルーマン・ショー』(1998年)。
ボールドウィンとともに患者の不審死事件を担当する刑事。
慎重に証拠を積み上げながら、病院内部の記録やチャーリーの過去の勤務歴を調査していく。
複数の病院を転々としてきたチャーリーの経歴と、その周辺で起きていた患者の死亡に疑問を抱き、病院側の壁に阻まれながらも真相を追い続ける。
リンダ・ガラン/キム・ディケンズ
代表作『ゴーン・ガール』(2014年)、ドラマ『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』。
エイミーたちが勤務する病院のリスクマネジメントを担当する人物。
患者の不審死について警察と病院側の間に立ち、捜査への対応を行う。
一方で、病院の責任問題や信用を守ろうとする姿勢が強く、警察への情報提供にも慎重な態度を取る。
チャーリー個人の問題だけではなく、事件を大きくしてしまった「組織の怖さ」を象徴する重要な人物である。
◆あらすじ
ニュージャージー州の病院で夜勤看護師として働くエイミーは、二人の娘を育てるシングルマザーである。
患者に寄り添う優秀な看護師だったが、実は重い心臓病を抱えていた。医師からは早急な治療が必要だと告げられているものの、勤務先の健康保険に加入するためには、あと数カ月働かなければならない。
身体は限界に近い。それでも仕事を辞めるわけにはいかなかった。
そんなエイミーの職場に、新しい看護師チャーリー・カレンがやって来る。
経験豊富で患者にも優しく、エイミーが体調を崩した時には仕事を手伝ってくれるチャーリー。娘たちにも自然に接してくれる彼は、追い詰められていたエイミーにとって頼れる同僚となっていく。
ところが病院では、容態が安定していた患者が突然死亡する不可解な出来事が相次いでいた。
警察が捜査を始める中、患者の体内に本来投与されるはずのないインスリンなどが使われていた可能性が浮上する。
そして捜査線上に浮かび上がったのは、エイミーが最も信頼していた男、チャーリーだった。
ここからネタバレありです。
▼ ネタバレあらすじを読む
患者アナ・マルティネスの突然死をきっかけに、病院へ警察の捜査が入る。
ところが病院側が警察へ連絡したのは、アナが死亡してから7週間後だった。しかも遺体はすでに遺族へ返され、火葬されている。
病院側は内部調査を行ったと説明するものの、その資料は7週間を費やしたとは思えないほど不十分な内容だった。
さらに警察による職員への聞き取りにも病院側の担当者が同席し、捜査への協力にも消極的な姿勢を見せる。
そんな中、エイミーはアナの投薬記録に不自然な点を発見する。
糖尿病患者ではないアナに、インスリンが投与されていた可能性があったのだ。
その後も病院では患者の不審死が続く。
エイミーは以前チャーリーと同じ病院で働いていた元同僚から、彼が勤務していた時期にも患者の急死が相次いでいたという話を聞く。
さらに、生理食塩水のバッグを確認すると、注射針を刺したような小さな穴が残されていることに気づく。
エイミーはここで初めて、自分が信頼していたチャーリーが患者の死に関係しているのではないかと本気で疑い始める。
病院の薬品管理システム「ピクシス」の記録を調べると、チャーリーがインスリンやジゴキシンを選択してはキャンセルする操作を何度も繰り返していたことが判明する。
チャーリーは、キャンセル扱いにすることで薬を取り出しても正規の投薬記録を残しにくくするシステム上の抜け穴を知っていた。
警察はチャーリーの過去の勤務先についても調査する。
すると彼は複数の病院を転々としており、勤務していた病院では患者の不自然な死亡が起きていた可能性が浮かび上がる。
しかし、過去の病院はいずれも積極的に情報を提供しようとしなかった。
決定的な証拠を得るため、エイミーは警察への協力を決意する。
その後、死亡した患者の遺体を調べた結果、インスリンとジゴキシンが検出される。
証拠が積み上がり、チャーリーはついに逮捕される。
しかし取り調べでは、彼は犯行についてほとんど語ろうとしない。
刑事たちが追及しても、チャーリーは「できない」と繰り返すだけだった。
そこでエイミー自身が取調室へ入る。
彼女はチャーリーを殺人鬼として罵倒するのではなく、かつて自分を助けてくれた友人として話しかける。
自分の病気を支えてくれたことへの感謝を伝えながら、それでも一つだけ聞きたいと問いかける。
なぜ、こんなことをしたのか。
やがてチャーリーは重い口を開き、こう答える。
「誰も止めなかったから」
彼を止めたのは巨大な病院組織でも、過去に彼を雇っていた病院でもない。
自身も病気を抱えながら患者の命を守ろうとしていた、一人の看護師エイミーだった。
◆考察と感想
『グッド・ナース』を観て一番怖かったのは、チャーリー・カレンではなかった。
病院という組織だった。
もちろん、患者にインスリンや薬物を投与し、命を奪っていたチャーリーが恐ろしいのは間違いない。
だが、この映画を観ていると途中から別の疑問が大きくなってくる。
「こんな人間が、なぜこれほど長い間、看護師として働き続けることができたのか?」
俺はそこが一番怖かった。
チャーリーは、いかにも殺人鬼という人間ではない。
むしろ逆である。
優しい。
患者に寄り添う。
亡くなった患者の身体も丁寧に扱う。
同僚が困っていれば助ける。
エイミーが心臓病で苦しんでいると知れば仕事をフォローし、彼女の娘たちにも優しく接する。
俺が同じ職場にいたとしても、チャーリーを疑ったとは思えない。
おそらく、
「いい人が入ってきたな」
くらいに思っていただろう。
ここが本当に怖い。

momoko
「チャーリーが最後まで黙っていたのは何故やろうね。サイコパスのように人が死ぬのが好きとか?こんなに患者想いのサイコパスがいたらお目に掛かりたいわ。」

yoribou
「周りが言わなかったからって言うのは分からないけど置いておいて、一番最初は何故殺し始めたんだろうね。何かはっきりした理由は有るだろうね。」
エディ・レッドメインの演技も凄まじい。
大げさな狂気をほとんど見せない。
声も穏やかで、表情も柔らかい。
正体が明らかになった後も、チャーリー自身の振る舞いはそれほど大きく変わらない。
変わるのは、観客である俺たちの見方だ。
前半では優しさに見えた表情が、後半になると突然不気味に見えてくる。
同じ顔なのに、まったく違う男に見える。
そこにエディ・レッドメインの凄さがある。
しかし、それ以上に俺が腹立たしく感じたのが病院側の対応だった。
患者が不自然に死亡している。
投薬記録にも疑問がある。
以前の勤務先でも問題が起きている可能性がある。
それでも病院は積極的に真相を明らかにしようとはしない。
警察への連絡は遅れる。
提出する資料は不十分。
職員への聞き取りにも病院側の人間が同席する。
遺体はすでに火葬され、重要な証拠まで失われている。
見ているこちらとしては、
「患者を守りたいのか。それとも病院を守りたいのか」
と言いたくなる。
病院側にも事情はあったのだろう。
訴訟。
責任問題。
評判。
経営への影響。
もし自分たちの病院で看護師による連続殺人が起きていたとなれば、病院そのものの信用を揺るがす大問題になる。
だから問題のある職員を静かに辞めさせる。
そうすれば自分たちの病院から問題はいなくなる。
だが、その人物は別の病院へ行く。
そして同じことを繰り返す。
俺はここに、この映画最大の恐怖があると思った。
一人の異常者よりも、「自分たちのところからいなくなればいい」と考える組織の方が、結果的には多くの人間を危険にさらす。
これは病院だけの話ではない。
会社でも似たようなことは起こる。
問題のある社員がいる。
周囲は薄々気づいている。
上司も分かっている。
それでも大事にはしたくない。
だから注意だけで終わらせる。
部署を変える。
退職したなら「これで終わった」と考える。
もちろん殺人とはまったく次元が違うが、問題を直視せず、自分のところから消えればいいと考える構造そのものは同じである。
だからチャーリーが最後に発する、
「誰も止めなかったから」
という言葉が非常に重い。
この言葉でチャーリーの殺人が正当化されるわけではない。
人を殺した責任は、当然チャーリー自身にある。
しかし同時に、
「なぜこれほど長い間、犯行を続けることができたのか」
という問いへの答えでもある。
誰かがもっと早く踏み込んでいれば。
過去の病院が次の勤務先へ警告していれば。
患者の異常な死亡数を真剣に調査していれば。
少なくとも、その後の犠牲者の一部は救えた可能性がある。
俺はこの映画を観て、悪人そのものよりも、
「面倒なことには関わりたくない」
という普通の人間が持っている心理の方が怖いと感じた。
そして、もう一つ印象的だったのがエイミーとチャーリーの対比である。
二人とも看護師だ。
二人とも患者のすぐ近くにいる。
二人とも、一見すれば優しい人間に見える。
しかし、命への向き合い方は完全に正反対である。
エイミー自身も重い病気を抱えている。
心臓は限界に近い。
仕事を辞めれば保険に入れない。
娘二人も育てなければならない。
他人の命を守る仕事をしながら、自分自身の命が危険な状態なのだ。
普通なら自分のことで精いっぱいになってもおかしくない。
それでもエイミーは患者を守ろうとする。
一方のチャーリーも、人に優しくできる男ではある。
俺は、エイミーに対する彼の優しさまで全部が演技だったとは思えなかった。
本当にエイミーを心配していた部分もあったのではないか。
だからこそ分からなくなる。
人に優しくできる人間が、なぜ別の人間の命を平然と奪えるのか。
善人と悪人が完全に別々に存在しているわけではない。
同じ一人の人間の中に、善と悪が同居することもある。
その意味では『グッド・ナース』というタイトルも非常に面白い。
普通に考えれば、「良い看護師」はエイミーだ。
しかし映画の前半だけを見れば、チャーリーも間違いなく「グッド・ナース」に見える。
患者に優しい。
同僚を助ける。
亡くなった患者を丁寧に扱う。
では、本当に良い看護師とは何なのか。
優しい人なのか。
仕事ができる人なのか。
患者から好かれる人なのか。
それとも、患者の命を最後まで守る人なのか。
映画を最後まで観れば、その答えは明確だ。
そして俺がエイミーに最も強さを感じたのは、最後の取調室だった。
彼女はチャーリーを怪物として扱わない。
警察が何を言っても口を割らなかった男に、かつての友人として話しかける。
自分を助けてくれたことへの感謝まで否定しない。
そのうえで、彼がしたことから目を背けない。
ここが凄い。
人間は相手を完全な悪人にしてしまった方が楽である。
「あいつは最初から異常だった」
そう考えてしまえば、自分が騙されたこととも向き合わなくて済む。
しかしエイミーはそうしない。
優しかったチャーリーも本物。
患者を殺したチャーリーも本物。
その両方を受け入れたうえで、彼と向き合う。
俺はここで、
本当に強い人間とは、相手を憎むことではなく、相手の人間性を認めたまま間違いを止められる人なのかもしれない
と思った。
この映画には派手な銃撃戦もない。
犯人と刑事が街中を追いかけ回す場面もない。
患者が殺される瞬間を刺激的に見せる作品でもない。
むしろ全体的には淡々としている。
だからこそ怖い。
普通の病院。
普通の廊下。
普通の点滴。
普通に働いているように見える看護師。
その日常の中で人が殺され続けていた。
『グッド・ナース』は殺人鬼の心理を楽しむ映画というより、
「悪を見つけた時、人は本当にそれを止められるのか」
を描いた作品である。
俺に最後まで残ったのは、チャーリーの狂気ではなかった。
誰か一人が声を上げるまで、巨大な組織の中で誰も責任を取ろうとしなかったという事実だった。
◆似ている作品・おすすめ映画

【映画】ロストケア(2023年)
人に寄り添う優秀な介護士が、実は多くの命を奪っていたという構図が『グッド・ナース』と非常に近い。犯人を単なる怪物として描くだけでなく、なぜ殺人を止められなかったのか、その背景にある介護制度や社会の問題まで問いかける社会派サスペンスである。

【映画】湖の女たち(2024年)
介護施設で起きた一人の入所者の不審死から、過去に隠された薬害や組織の秘密へと捜査が広がっていく。人の命を預かる場所で真実が隠されていく怖さと、個人だけではなく組織そのものへ疑いが向かう点が『グッド・ナース』と似ている。
◆もて男目線で考察
チャーリーは一見すると、人から好かれる要素をかなり持っている。
穏やかで、優しい。
困っている人を助ける。
相手の体調を気遣う。
子供にも自然に接する。
表面だけを見れば、かなり「いい男」である。
だが、人間の価値は優しい言葉や態度だけでは分からない。
大切なのは、誰も見ていないところで何をするかだ。
逆にエイミーは派手ではない。
身体も弱っている。
生活にも余裕がない。
それでも誰かの命を守るために、自分が危険を負って行動する。
俺はこの映画を観て、本当に魅力のある人間とは、人前で優しく振る舞える人ではなく、自分にとって不利益でも正しいことを選べる人なのだと思った。
モテるための優しさと、人間としての優しさは違う。
結局最後に信頼されるのは、後者なのである。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 18 / 20 | 連続殺人と病院組織の問題を同時に描く 構成が秀逸。 |
| 演技 | 19 / 20 | 主演二人の静かな演技が、物語の不気味 さを際立たせる。 |
| 映像・演出 | 17 / 20 | 淡々とした演出が、実話ならではの現実 的な怖さを生む。 |
| 感情の揺さぶり | 18 / 20 | 信頼していた相手を疑うエイミーの葛藤 が重く残る。 |
| テーマ性 | 19 / 20 | 殺人鬼だけでなく、彼を止めなかった 組織の責任まで問う。 |
| 合計 | 91 / 100 | 静かな恐怖が後を引く、完成度の高い 実話サスペンス。 |
◆総括
『グッド・ナース』は、実在した連続殺人犯チャーリー・カレンを描いた犯罪映画だが、単純な「恐ろしいシリアルキラーの物語」ではない。
本当に恐ろしいのは、一人の異常な人間が患者を殺したことだけではなく、その異常に気づく機会が何度もありながら、彼を止める仕組みが機能しなかったことである。
チャーリーは怪物の顔をしていない。
優しく、穏やかで、困っている同僚を助ける「良い看護師」に見える。
だからこそ、エディ・レッドメインが演じるチャーリーは怖い。
一方のエイミーも特別なヒーローではない。
自身の心臓病、子育て、過酷な夜勤に苦しむ、ごく普通の看護師である。
それでも彼女は最後に、自分のすぐそばに存在していた悪から目を背けなかった。
「誰も止めなかったから」
チャーリーのこの言葉こそ、本作を最も端的に表している。
悪人が存在すること自体は防げないかもしれない。
しかし、その悪を放置するかどうかは周囲の人間や組織にかかっている。
俺にとって『グッド・ナース』は、殺人鬼の心理を楽しむ映画ではなかった。
「自分が異常に気づいた時、本当に声を上げることができるだろうか」
そんな問いを観ている側に突きつけてくる、静かだが非常に怖い実話サスペンスである。
◆映画の余韻を楽しみながら、こちらもどうぞ
『グッド・ナース』のような重い作品を観たあとは、内容を振り返りながら考察を書いている時間も自然と長くなる。
俺自身、映画を観る時間だけでなく、こうしてレビューを書く時間もかなり長い。そこで最近あらためて感じているのが、長時間座るなら、モニターやキーボードだけでなく「椅子」もかなり重要だということだ。
今回紹介するのは、長時間のデスクワーク向けとして定番のエルゴヒューマン プロ2 オットマン。
ヘッドレストや4Dアームレストに加え、身体を預けて休みたい時に使えるオットマンも内蔵されている。映画を観る時は少し身体を倒し、レビューを書く時はデスクワーク姿勢へ戻す、といった使い分けができるのも魅力だ。
映画鑑賞もブログ作業も、結局は長時間座る。
デスク周りを少しずつ快適にしていきたい人は、候補の一つとしてチェックしてみてほしい。


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