◆作品紹介
介護は、誰にとっても決して他人事ではありません。親が高齢になり、日常生活に支援が必要になったとき、誰が介護を担うのか、仕事と両立できるのか、施設に入る費用を準備できるのかなど、家族はさまざまな問題と向き合うことになります。
映画『ロストケア』は、介護に苦しむ高齢者と家族を「救うため」に、42人もの命を奪った介護士と、彼を法によって裁こうとする検事の対決を描いた社会派ヒューマンドラマです。
介護殺人を行った男は、冷酷な殺人鬼だったのでしょうか。それとも、社会の支援からこぼれ落ちた人々を救おうとした救世主だったのでしょうか。本作は、殺人を肯定することなく、その背景にある介護、貧困、孤立、自己責任という重い問題を観客に突きつけます。
◆作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 監督 | 前田哲 |
| 脚本 | 龍居由佳里、前田哲 |
| 原作 | 葉真中顕『ロスト・ケア』 |
| 出演 | 松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士、坂井真紀ほか |
| 主題歌 | 森山直太朗「さもありなん」 |
| 公開 | 2023年 |
| 上映時間 | 114分 |
| 製作国 | 日本 |
| ジャンル | 社会派ヒューマンドラマ、サスペンス |
| 視聴環境 | U-NEXT、自室モニター、nwmヘッドホン |
◆キャスト
- 斯波宗典:松山ケンイチ 代表作『聖の青春』(2016年)
- 大友秀美:長澤まさみ 代表作『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年)
- 椎名幸太:鈴鹿央士 代表作『蜜蜂と遠雷』(2019年)
- 羽村洋子:坂井真紀 代表作『461個のおべんとう』(2020年)
- 斯波正作:柄本明 代表作『ある男』(2022年)
◆あらすじ
前半:ネタバレなし
訪問介護センター「ケアセンター八賀」で働く斯波(しば)宗典は、利用者やその家族に親身に寄り添う献身的な介護士です。若くして髪が白くなっていますが、仕事ぶりは丁寧で、同僚からも利用者からも厚い信頼を得ていました。
ある日、センターを利用していた高齢男性と、センター長の団元晴が民家の中で死亡しているのが発見されます。当初は、借金を抱えていた団が窃盗目的で家に侵入し、その途中で階段から転落した事故だと思われていました。しかし、現場に残された注射器や防犯カメラの映像から、斯波が事件に関わっている可能性が浮上します。
事件を担当する検事の大友秀美は、斯波が勤めるようになってから、センターの利用者の死亡率が異常に高くなっていることに気づきます。さらに調査を進めると、亡くなった高齢者の多くが、斯波の休日に死亡していたことが分かります。
追及された斯波は、やがて自らが42人の高齢者を殺害したと告白します。しかし彼は、自分が行ったことは殺人ではなく、介護に苦しむ家族と高齢者を救うための「救い」だったと主張するのでした。

ここからネタバレありです。
ネタバレあらすじを読む
斯波が最初に手をかけた相手は、認知症を患った自分の父・正作でした。父の介護のために仕事を辞めた斯波は、収入を失い、貯金も底をついていきます。生活保護を申請しようとしても十分な支援を受けられず、心身ともに追い詰められた末、父から「殺してくれ」と頼まれ、その命を奪ってしまいます。

その経験から斯波は、介護を受ける高齢者だけでなく、人生を犠牲にして世話を続ける家族も苦しんでいると考えるようになります。介護士となった彼は、利用者宅に盗聴器を仕掛け、家族が限界に達していると判断すると、高齢者を密かに殺害していました。
被害者遺族の中には、親を奪われた怒りを訴える者がいる一方で、介護から解放されたことで「斯波に救われた」と語る者も現れます。大友は、どれほど苦しい事情があっても、他人の命を本人の判断で奪うことは許されないと斯波を追及します。
しかし大友自身も、長年疎遠だった父からの連絡を無視し、その後、父が貧困の中で孤独死していたという過去を抱えていました。斯波は死刑判決を受けますが、父を殺した後に「ありがとう」と記された手紙を見つけた記憶をよみがえらせます。
二人はそれぞれの罪と後悔を抱えながら、介護を家族だけに背負わせる社会の矛盾と向き合うことになります。
◆考察と感想(ネタバレ)
『ロストケア』を観て、俺が最も恐ろしいと感じたのは、42人を殺した斯波宗典が、いかにも異常な殺人鬼として描かれていないことだ。利用者やその家族に優しく接し、介護士としても真面目で、周囲から信頼されている。そんな男が、自分の行為を「殺人」ではなく「救い」だと本気で信じている。その静かな確信が、派手な狂気よりもずっと怖かった。
もちろん、斯波がしたことは絶対に許されない。どれだけ介護する側が追い詰められていたとしても、他人が勝手に命を奪っていい理由にはならない。本人や家族から頼まれたわけでもなく、斯波自身が「この家族は限界だ」「この老人は死んだ方が幸せだ」と判断し、命を終わらせている。彼がやっていることは救済ではなく、自分の価値観を他人の人生に押しつける行為だ。
ただ、本作が厄介なのは、斯波の主張を単純に切り捨てられない現実を見せてくるところだ。認知症の親を介護するために仕事を辞め、収入を失い、生活保護を求めても十分に助けてもらえない。睡眠も時間も金も失い、愛情が憎しみに変わっていく。斯波が父親に暴力を振るい、自分でも何をしているのか分からなくなっていく姿は、介護が人間の心をどこまで追い詰めるのかを突きつけてくる。
俺自身、今は親の介護をしていない。だから本当の苦しさを理解しているとは言えない。それでも、もし仕事を続けながら、毎日食事や排せつ、徘徊の対応をしなければならなくなったら、自分は優しくいられるのかと考えてしまった。
最初は家族だから頑張ろうと思っていても、それが何年も続けば、心のどこかで「早く終わってほしい」と思ってしまうかもしれない。その感情を持つこと自体に罪悪感を抱き、さらに自分を追い詰める。介護の恐ろしさは、世話をする側から人間らしい感情や余裕を奪っていくことなのだと思う。
特に印象に残ったのは、斯波に親を殺された家族の反応が一つではなかったことだ。「人殺し」と怒る者もいれば、「救われた」と感じている者もいる。この違いが本作の重い部分だと思う。
普通なら家族を殺されたら憎むはずなのに、介護から解放された安堵が勝ってしまう人がいる。そう感じさせるほど追い詰められていたということだ。斯波の行為が正しいのではない。彼の行為によって救われたと思ってしまうほど、社会の支援が届いていなかったことが問題なのだ。
だから俺は、この映画の本当の悪は斯波一人ではないと思った。相談に来た人を制度の条件だけで追い返す行政、介護を家庭内の問題として処理する社会、そして「親の面倒は子供が見るのが当然」と簡単に言う周囲の空気。その全部が少しずつ人を追い詰めている。
斯波はその穴に落ち、やがて自分が他人を穴から救い出す存在だと思い込んだ。しかし彼が選んだ方法は、穴から引き上げることではなく、穴の中にいる人間の命を終わらせることだった。
一方で、長澤まさみ演じる検事・大友秀美の立場は、斯波に比べると少し弱く感じた。彼女は法の側に立ち、「あなたがしたことは殺人です」と正面から突きつける。その主張は完全に正しい。しかし、斯波が示す介護の現実に対して、法がどのように人を救えるのかという答えまでは示せていない。
殺人を裁くことはできても、殺人が起きるほど追い詰められた家庭を救えていない。この点で、斯波の問いに対して大友は最後まで十分に答えられていなかったように思う。
大友自身にも、孤独死した父親を見捨てたという後悔がある。連絡を無視したことと、直接手を下したことは当然同じではない。それでも彼女は、法の外側にある罪悪感を抱えている。
人は必ずしも手を下さなくても、見ないふりをしたことで誰かを死なせてしまったように感じることがある。本作は、法律で裁ける罪と、心の中に残る罪は別のものだと描いているように思えた。
ただ、俺としては、もう少し検事側から斯波の思想を徹底的に否定してほしかった。斯波の過去や父との関係が丁寧に描かれているぶん、観客はどうしても彼に同情しやすくなる。
しかし、事情を理解することと、行為を肯定することは違う。どれだけ苦しんだとしても、他人の生死を自分だけで決める人間が救世主になってはいけない。その線引きを、作品の中でもっと強く示してほしかった。
それでも、『ロストケア』が介護という見たくない問題を真正面から扱った意義は大きい。介護は美しい家族愛だけでは語れない。そこには怒り、疲労、金銭問題、嫌悪感、罪悪感がある。
親を大切にしたいという気持ちと、もう逃げたいという感情は同時に存在する。その矛盾を隠さず描いたからこそ、本作は観た後も簡単に答えを出せない映画になっている。
俺は斯波を救世主だとは思わない。彼は社会に見捨てられた被害者であると同時に、42人の命を奪った加害者だ。気持ちは理解できても、やったことには同意できない。
ただし、彼を死刑にして終わりにしても、介護に苦しむ人たちは救われない。次の斯波を生まないために必要なのは、家族の愛情や自己責任に頼ることではなく、限界を迎える前に助けを求められる制度と、助けを求めた人を確実に受け止める社会だ。
この映画を観て、俺も親が元気なうちに、介護が必要になった場合のことを話しておくべきだと感じた。施設に入るのか、費用をどうするのか、兄弟でどのように分担するのか。
縁起でもないと避けているだけでは、いざというときに誰か一人へ負担が集中する。『ロストケア』は殺人犯の物語ではあるが、その奥にあるのは、家族だけに介護を背負わせてはいけないという警告だったと思う。

momoko
「yoribouは、北海道の両親は健在?。」

yoribou
「いや、母なんかは結構早く亡くなった。だけど、この介護問題は難しいことだってよく分かるよ。」
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モテ男目線の考察
モテる男は、介護の問題を「家族なんだから当然」で片づけない。親を大切に思う気持ちと、介護する側の人生を守ることは両立させるべきだと考える。自分一人で抱え込まず、兄弟や行政、専門家と早めに話し合い、周囲にも弱音を見せられる男の方が本当は強い。斯波のように自分だけの正義で答えを出すのではなく、相手の意思を聞きながら現実的な道を探せること。それが、大切な人を守れる余裕のある男だと思う。
◆教訓・学び
介護を家族の愛情や自己責任だけに背負わせず、限界に達する前に助けを求められる社会をつくる必要があります。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 19 / 20 | 連続殺人の真相から介護問題へ迫る展開 に引き込まれます。 |
| 演技 | 19 / 20 | 松山ケンイチと長澤まさみの緊迫した対峙 が見応え十分です。 |
| 映像・演出 | 18 / 20 | 介護の閉塞感と斯波の疲弊を静かな演出で 伝えています。 |
| 感情の揺さぶり | 18 / 20 | 被害者遺族の怒りと安堵が交錯し、複雑 な感情を残します。 |
| テーマ性 | 20 / 20 | 介護、貧困、孤立、自己責任という社会の 問題を鋭く問います。 |
| 合計 | 94 / 100 | 殺人を救いと語る男を通して、介護を家族 だけに背負わせる社会の矛盾を 描いた重厚な社会派ドラマです。 |
◆総括
『ロストケア』は、42人の高齢者を殺害した介護士を単なる悪人として描くのではなく、なぜ彼が殺人を「救い」と考えるようになったのかを通して、日本の介護問題を真正面から描いた社会派ドラマです。
斯波の行為は、どれほど深刻な事情があったとしても決して許されるものではありません。しかし、介護によって仕事や生活を失い、誰にも助けてもらえず、家族への愛情さえ憎しみに変わってしまう現実を見せられると、彼を異常な殺人犯として切り捨てるだけでは終われません。
松山ケンイチは、静かな口調と穏やかな表情の奥に、揺るがない信念と深い後悔を抱える斯波を見事に演じています。一方、長澤まさみ演じる大友は法の正義を突きつけますが、法律で殺人を裁くことはできても、介護に苦しむ家族を救う答えまでは示せません。
そのため、二人の対決は善と悪の単純な争いではなく、命を奪うことは許されないという正義と、社会から見捨てられた人々を救わなければならないという正義がぶつかり合う、重いものになっています。
介護を家族の愛情や自己責任だけに任せてしまえば、いつか誰かが限界を迎えます。本作が突きつけているのは、斯波が救世主だったのかという問いだけではありません。彼のような人間を生み出した社会を、このまま放置してよいのかという問いでもあります。
斯波を救世主と呼ぶことはできません。苦しみは理解できても、他人の命を勝手に奪うことは決して認められないからです。ただし、彼に死刑判決を下して事件を終わらせても、介護や貧困、孤立の問題は何も解決しません。
観終わったあと、自分の親に介護が必要になったとき、家族として何ができるのかを考えずにはいられない作品です。親が元気なうちから、介護の方法、施設の利用、費用、家族の役割分担について話し合っておくことの大切さも感じさせられます。
◆映画をテレビの大画面で楽しむなら
『ロストケア』のように、俳優の表情や静かな会話から感情を読み取る作品は、スマートフォンよりもテレビの大きな画面で観ると、物語への没入感がさらに高まります。
動画配信サービスをテレビで手軽に楽しみたい人に便利なのが、Fire TV Stickです。テレビのHDMI端子に接続することで、普段利用している動画配信サービスやYouTubeなどを、リモコン操作で視聴しやすくなります。
映画を観るたびにパソコンとテレビを接続したり、小さな画面で我慢したりする必要がなくなるため、自宅の映画鑑賞環境を手軽に整えたい人に向いています。
自宅のテレビを、映画をじっくり楽しめる鑑賞環境に変えてみてはいかがでしょうか。
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