23の人格を持つ男に誘拐された3人の少女。
しかし、本当に恐ろしいのは――まだ誰も見たことのない“24人目”だった。
M・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』は、3人の女子高生が謎の男に誘拐されるところから始まるサイコスリラーです。
誘拐犯ケビンの中には複数の人格が存在し、少女たちの前に現れるたびに口調、表情、立ち振る舞いがまるで別人のように変化していきます。
そして物語が進むにつれ、単なる「多重人格者による監禁事件」だと思っていた作品は、予想もしなかった方向へ進み始めます。
何より圧倒されるのが、ケビンを演じるジェームズ・マカヴォイの怪演です。服装や声色だけではなく、目線や口元の動きだけで人格が切り替わったことが分かるほど。
ただ怖いだけではありません。傷つけられてきた者同士であるケビンとケイシーを対比させながら、「傷は人間を弱くするのか、それとも強くするのか」という、かなり危うく重たいテーマを投げかけてくる作品でもあります。
◆作品情報
| 作品名 | スプリット(Split) |
|---|---|
| 製作年 | 2016年/日本公開2017年 |
| 上映時間 | 117分 |
| 製作国 | アメリカ |
| ジャンル | サイコスリラー/ホラー/サスペンス |
| 監督・脚本 | M・ナイト・シャマラン |
| 主演 | ジェームズ・マカヴォイ/アニャ・テイラー=ジョイ |
| シリーズ | 『アンブレイカブル』→『スプリット』 →『ミスター・ガラス』 |
◆主な登場人物・キャスト
ケビン・ウェンデル・クラム/ジェームズ・マカヴォイ
幼少期の虐待をきっかけに複数の人格を形成した男性。ケビン本人以外に、デニス、パトリシア、ヘドウィグ、バリーなど23の人格が存在する。そして彼らの一部は、24番目の存在「ビースト」を信奉している。
ケイシー・クック/アニャ・テイラー=ジョイ
誘拐された3人の少女の一人。学校では周囲と距離を置いている。幼い頃から叔父による虐待を受けており、その経験から他人の表情や行動を冷静に観察する能力を身につけている。
カレン・フレッチャー医師/ベティ・バックリー
ケビンを診察してきた精神科医。彼の複数人格を単なる異常として扱わず、人間の身体や精神が秘める可能性として研究している。
クレア・ブノワ/ヘイリー・ルー・リチャードソン
ケイシーの同級生。自分の誕生日会にケイシーを招待し、帰宅途中に誘拐される。
マルシア/ジェシカ・スーラ
クレアの親友。同じくケビンに誘拐された少女。監禁された直後から積極的に脱出しようとする。
◆あらすじ
3人の少女を誘拐した男
クレアの誕生日会から帰ろうとしていたケイシー、クレア、マルシア。
クレアの父親の車に3人が乗り込んで待っていると、運転席に座ったのは父親ではなく、見知らぬ男でした。
男は少女たちを薬で眠らせ、そのまま連れ去ります。
目を覚ました3人がいたのは、窓もない密室。
やがて部屋の外から女性の声が聞こえてきます。助けが来たと思った少女たちでしたが、扉の向こうから現れたのは先ほど自分たちを誘拐した男でした。
ところが、その服装や仕草、話し方は完全に女性そのもの。
さらに別の時には9歳の少年のような人格が現れます。
ケイシーは男を観察するうちに気づきます。
この男の中には、複数の人格が存在している。

誘拐を主導した潔癖症の男「デニス」。上品で支配的な女性「パトリシア」。9歳の少年「ヘドウィグ」。
少女たちは、どの人格が現れるかによって状況が全く変わる奇妙な監禁生活に置かれることになります。
▼ ここから先は結末までのネタバレを含みます
ケビンに存在する23の人格
ケビンには本来の人格を含め、23の人格が存在していました。
普段は社交的な人格バリーが身体の主導権、劇中でいう「照明」を管理していましたが、デニスとパトリシアは9歳のヘドウィグを味方につけ、その主導権を奪っていたのです。
一方、ケビンの主治医であるフレッチャー医師は、バリー名義で何度も送られてくる助けを求めるメールから異変を察知します。
診察に現れた人物はバリーを名乗っていましたが、フレッチャー医師は話し方や仕草から、その正体がデニスであることを見破ります。
そしてデニスは彼女に、これまで確認されていなかった「24番目の人格」について語り始めます。
その名は――
ビースト。
デニスとパトリシアは、ビーストこそ傷ついた人間を救い、進化させる存在だと信じていました。
ケイシーが狙ったのは「力」ではなく「人格」
クレアとマルシアが力ずくで脱出しようとする一方、ケイシーは別の方法を選びます。
彼女はヘドウィグに近づき、話を合わせながら情報を引き出していきます。

ケイシーは幼い頃から叔父の虐待にさらされ、相手の機嫌や表情を読むことが生き延びるための習慣になっていました。
その過去は彼女を傷つけましたが、皮肉にも今回の極限状況では彼女を生き残らせる武器になります。
姿を現す24番目の人格「ビースト」
異変を確信したフレッチャー医師はケビンのもとを訪れ、そこで監禁されているクレアを発見します。
しかしデニスに見つかり、薬で眠らされてしまいます。
その頃ケビンは鉄道車両の中で横たわり、ついに24番目の人格ビーストへと変貌します。
ビーストはこれまでの人格とは次元が違いました。
圧倒的な筋力、異常なスピード、壁をよじ登る身体能力。そして銃弾を受けても止まらない強靱さ。
人格が身体能力にまで影響するというフレッチャー医師の仮説が、常識を超える形で現実になってしまったのです。
ビーストはフレッチャー医師を殺害。
さらにクレアとマルシアにも襲いかかります。
「ケビン・ウェンデル・クラム」
逃げ回るケイシーは、フレッチャー医師が残したメモを発見します。
そこには、本来の人格を呼び戻すための言葉が記されていました。
「ケビン・ウェンデル・クラム」
ケイシーがその名前を叫ぶと、長い間身体の主導権を奪われていた本来のケビンが現れます。
ケビンには2014年9月18日以降の記憶がありませんでした。
自分の身体を使って何が行われたのかを知ったケビンは絶望し、ケイシーに銃の場所を教えます。
しかし次々と人格が切り替わり、再びビーストが身体を支配します。
なぜビーストはケイシーを殺さなかったのか
ケイシーはショットガンを手にし、ビーストへ発砲します。
それでもビーストは止まりません。
追い詰められたケイシー。
ところが彼女の破れた服から、身体に残された多数の傷跡が見えた瞬間、ビーストの動きが止まります。
ケビンもまた、幼い頃に母親から虐待を受けていました。
ビーストは傷つけられた人間こそ「純粋」であり、苦しみを知らずに生きてきた者こそ不純であるという歪んだ思想を持っています。
だからこそ、ケイシーの傷を見たビーストは彼女を殺しませんでした。
「傷ついた者は、より進化している」
そう言い残し、ビーストは姿を消します。
監禁場所の正体
翌朝、ケイシーは作業員によって救出されます。
そして、ここで監禁場所の正体が判明します。
そこは普通の住宅の地下ではありません。
フィラデルフィア動物園の施設でした。
動物園で働いていたケビンだからこそ、一般人が立ち入らない場所を監禁場所として使用することができたのです。
警察官から「叔父さんが迎えに来ている」と告げられたケイシーは、これまでとは違う強い眼差しを見せます。
映画はその後を描きません。
しかしケイシーが初めて、自分を虐待してきた叔父と向き合おうとしていることを示唆しています。
ラストに登場した男の意味
事件はニュースで報道され、24もの人格を持つ犯人は「ザ・ホード(群れ)」と呼ばれるようになります。
食堂でニュースを見ていた女性が、昔にも変わった名前を付けられた犯罪者がいたことを思い出そうとします。
すると隣に座っていた男が答えます。
「ミスター・ガラス」
その男は、ブルース・ウィリス演じるデヴィッド・ダン。
つまり『スプリット』は、2000年公開のシャマラン作品『アンブレイカブル』と同じ世界の物語だったのです。
そして物語は2019年の『ミスター・ガラス』へと続いていきます。
◆考察と感想|本当に怖いのは「ビースト」なのか
『スプリット』で最も分かりやすく恐ろしい存在は、もちろんビーストだ。
壁をよじ登り、怪力で鉄格子を曲げ、銃で撃たれても簡単には倒れない。ここまで来ると、前半のサイコスリラーから一気に超人映画へ変わったようにも見える。
実際、ここで「それまでのリアルな監禁サスペンスとは違う映画になった」と感じる人もいるだろう。
ただ、僕はこの唐突な変化こそ『スプリット』の面白さだと思った。
この映画は最初から最後まで、「人は自分が信じたものによって、どこまで変わることができるのか」という話だからだ。
フレッチャー医師は、人格によって身体にまで変化が起こる可能性を信じている。
ある人格ではインスリンを必要とし、別の人格では必要としない。人格によって身体能力や生理現象まで変化するのなら、その究極にビーストが存在するのではないか。
科学的な現実というより、これはシャマランが作った世界における「信念が肉体を変える」というルールなのだろう。
そして、その考え方はケイシーにも当てはまる。
ケイシーは決して強い少女として登場するわけではない。
学校では孤立し、ほとんど笑わず、人との距離を取っている。
しかし監禁された瞬間から、他の2人とは明らかに行動が違う。
クレアとマルシアは「3人で力を合わせれば男を倒せる」と考える。一方のケイシーは、男を倒すより先に観察する。
今はどの人格なのか。何に怒るのか。誰なら話が通じるのか。どこまで近づけば危険なのか。
彼女がこうした判断をできるのは、過去の虐待経験と無関係ではない。
子どもの頃から、自分に危害を加える可能性のある大人の機嫌を読みながら生きてきた。
本来なら決して経験する必要のないことだ。
しかし皮肉にも、その経験によって身につけた観察力が監禁状態では彼女を救う。
だからといって、本作が「虐待を受けたから強くなれた」と単純に肯定しているわけではないと思う。
むしろ、その考えを極端な形で肯定している存在こそビーストだ。
ビーストは、傷を負っていない人間は不純であり、苦しみを経験した人間は優れていると考えている。
これは恐ろしく歪んだ価値観だ。
苦しんだから価値があるのではない。傷つかなければ人として未熟だというわけでもない。
しかしケビンは、自分が受けた苦痛に意味を与えなければ生きていけなかった。
「あの苦しみには意味があった。だから自分たちは強くなった」
そう信じることで、自らの過去を正当化する必要があったのかもしれない。
ケイシーとケビンは、同じように傷を抱えながらも正反対の方向へ進んだ人物だ。
ケビンは自分の傷を世界へ向け、ビーストという存在を生み出した。
一方、ケイシーは自分の傷を抱えながらも、それを他人へ向けなかった。
だから最後にビーストがケイシーを見逃す場面は、「同類だから助かった」というだけではない。
ケビンとケイシーの分岐点を見せる場面でもあると思う。
そして何より本作を成立させているのが、ジェームズ・マカヴォイだ。
デニスからパトリシアへ。パトリシアからヘドウィグへ。
大げさな編集を使わなくても、表情が変わった瞬間に「別の人格になった」と分かる。
特に終盤、複数の人格が短時間で次々に切り替わっていく場面は圧巻だった。
同じ顔、同じ身体、同じ衣装なのに別人に見える。
『スプリット』という映画の恐怖の半分以上は、特殊効果ではなくマカヴォイの演技そのものから生まれていると言っていいだろう。

momoko
「ケビンを演じたマカヴォイが、『スピーク・ノー・イーブル 異常な家族』で、パトリックを演じていたって思えないでしょ。マカヴォイってスゴイ。」

yoribou
「この驚きは一緒。雰囲気が全然違う。それと、両方とも主演ってところが、その凄みの大きさを感じるね。」
そして最後のブルース・ウィリス。
ここで『アンブレイカブル』と世界がつながることで、ビーストの超人的能力にも別の意味が生まれる。
監禁サスペンスだと思って観ていた映画が、実は18年近く前に始まったヒーローとヴィランの物語の一部だった。
この仕掛けこそ、いかにもシャマランらしいラストだった。
◆似ている作品・おすすめ映画

【映画】ドント・ブリーズ(2016年)
閉ざされた空間で、圧倒的に強い相手から逃げ続ける密室スリラー。逃げ場のない場所で相手の行動を読みながら生き残ろうとする緊張感が『スプリット』とよく似ています。

【映画】エスター(2009年)
一見すると普通に見える人物の内側に異常性が隠されているサイコスリラー。「この人物はいったい何者なのか」という不安を抱えながら真相へ近づいていく点が『スプリット』と似ています。
◆もて男目線で考察
ケイシーが生き残れた最大の理由は、力で勝とうとしなかったことだ。
相手をよく見て、言葉を選び、今どの人格が目の前にいるのかを判断する。恋愛でも人間関係でも、結局大事なのは自分の話をすること以上に、相手を観察することです。
ただし、相手に合わせ続けることと、自分を守るために相手を理解することは違います。
最後にケイシーが警察官を強い目で見つめる姿は、叔父に支配され続けた彼女が、ようやく「もう従わない」と決めた瞬間にも見えました。
◆この映画から得られる教訓
過去の傷は人間を形づくる。しかし、その傷を理由に他人を傷つけるか、それでも自分の人生を取り戻すかは別の話だ。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 18 / 20 | 監禁サスペンスから超人世界へ踏み込ん でいく大胆な展開が面白い。 |
| 演技 | 20 / 20 | ジェームズ・マカヴォイの人格の演じ 分けは圧巻。文句なしの満点。 |
| 映像・演出 | 19 / 20 | 密室の圧迫感と、次にどの人格が現れ るか分からない不安を巧みに演出。 派手さに頼らず緊張感を持続させる。 |
| 感情の揺さぶり | 18 / 20 | ケイシーとケビン、二人が抱える傷が 重なって見えてくる終盤が印象的。 単なる監禁ホラーでは終わらない 余韻が残る。 |
| オリジナリティ・ テーマ性 |
18 / 20 | 多重人格サスペンスから“ビースト” という超人的存在へ踏み込み、 「傷と強さ」を結びつけた発想が 独特。 |
| 合計 | 93 / 100 | マカヴォイの怪演と高い 緊張感が際立つ一作。 サイコスリラーから超人世界へ踏み込む異色 の展開も強く印象に残る。 |
◆総括
『スプリット』は、「多重人格者に少女たちが監禁される映画」という説明だけでは、この作品の半分も伝わりません。
前半は徹底した密室サスペンス。
中盤からは人格と身体の関係を描く心理ドラマ。
そして終盤には、人間の能力そのものが常識を超えていく異色の作品へ変貌します。
好みが分かれるとすれば、やはりビーストが登場してからでしょう。
リアルなサイコスリラーを期待していると、「そこまで行くの?」と思うかもしれません。
しかしラストまで観れば、その違和感こそが『アンブレイカブル』から続く世界観へつながるための仕掛けだったことが分かります。
そして何と言ってもジェームズ・マカヴォイ。
デニス、パトリシア、ヘドウィグ、バリー、ケビン、そしてビースト。
一人の俳優が演じていることを忘れる瞬間が何度もありました。
個人的には、ビーストそのものよりも、笑顔だったヘドウィグの表情が一瞬で別人格へ変わる瞬間の方が怖い。
派手なジャンプスケアではなく、「今、目の前にいるのは誰なのか分からない」という不安で観客を追い込んでいく。
そこが『スプリット』最大の魅力でしょう。
サイコスリラーとして観ても面白く、『アンブレイカブル』『ミスター・ガラス』まで含めて観れば、シャマラン独自のヒーロー映画としてさらに印象が変わる一本です。
こんな人におすすめ
- 密室系・監禁系サスペンスが好きな人
- ジェームズ・マカヴォイの演技を堪能したい人
- M・ナイト・シャマラン作品が好きな人
- 一筋縄ではいかないサイコスリラーを観たい人
- 『アンブレイカブル』『ミスター・ガラス』につながる物語を知りたい人
映画の余韻を楽しみながら、こちらもどうぞ
映画を1本観ていると、意外と喉が渇きます。
僕は映画を観始めてから席を立つのが嫌なので、飲み物は最初に手元へ置いておく派です。
特に『スプリット』のように緊張感が途切れない作品は、途中で飲み物を取りに行くだけでも少しもったいない。
甘い飲み物を毎回用意するより、結局一番使いやすいのがい・ろ・は・すの天然水。
540mlなら映画1本のお供にちょうどよく、48本セットなら買い足す回数も減らせます。
映画鑑賞用に何本か冷やしておくと、観始めてから席を立たずに済むので地味に便利です。


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