娘の足取りを追ううちに浮かび上がるのは、複数の女性の死と、彼女たちに向けられていた偏見。
95分の物語が問いかけるのは、誰の助けを求める声が聞き流されてしまうのか、という問題です。
結末を含むあらすじは折りたたみ式です。
「感想・考察」以降はネタバレを含みます。
本記事は2020年の映画が描く物語を中心に扱い、
実際の事件の最新捜査状況を解説するものではありません。
◆『ロストガールズ』の作品情報
| 作品名/原題 | ロストガールズ/Lost Girls |
|---|---|
| 製作年・国 | 2020年/アメリカ |
| 上映時間 | 95分 |
| ジャンル | 犯罪ドラマ/ミステリー/実話 |
| 監督 | リズ・ガーバス |
| 脚本 | マイケル・ワーウィー |
| 原作 | ロバート・コルカー 『Lost Girls: An Unsolved American Mystery』 |
| 出演 | エイミー・ライアン、トーマシン・マッケンジー、 ガブリエル・バーン、ウーナ・ローレンス |
| 配給・配信 | Netflix |
| 配信開始 | 2020年3月13日 |
| 視聴環境 | Netflix/日本語吹替 IRIS OHYAMA・I-ODATAモニター/ Edifier M90スピーカー |
◆主な登場人物・キャスト
- メアリー・ギルバート/エイミー・ライアン
失踪したシャナンの母親。
警察の対応に憤り、自ら娘の足取りを追います。
強い態度の奥に、娘との関係への後悔を抱えています。
代表作:『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007年) - シェリー・ギルバート/トーマシン・マッケンジー
シャナンの妹。
姉を心配し、母を支える一方、
家族の中で置き去りにされてきた感情も抱えています。
代表作:『ジョジョ・ラビット』(2019年) - サラ・ギルバート/ウーナ・ローレンス
メアリーの娘で、シャナンとシェリーの妹。
姉の失踪によって揺れる家庭で暮らしています。
代表作:『サウスポー』(2015年) - リチャード・ドーマン/ガブリエル・バーン
捜査を指揮する警察幹部。
メアリーの厳しい追及を受け、警察の対応を問われます。
代表作:『ユージュアル・サスペクツ』(1995年) - キム/ローラ・カーク
別の被害者の姉妹。
遺族たちの集まりを通じてメアリーと関わり、
同じ喪失を抱える者として声を上げます。
代表作:『ミストレス・アメリカ』(2015年)
◆予告編/Official Trailer
◆あらすじ
帰ってこない娘と、動かない捜査
2010年、24歳のシャナン・ギルバートが行方不明になります。
母メアリーは娘の消息を確かめようとしますが、
警察の対応は彼女が求める切迫感とはかけ離れていました。
シャナンが性風俗の仕事をしていたことが分かると、
娘の人柄や家族との関係よりも、その職業に注目が集まります。
メアリーは待っているだけでは娘を見つけられないと考え、
自ら行動を始めます。

その切実さが、捜査を求める声に変わっていく。
娘の足取りが、別の女性たちの死につながる
メアリーがたどり着くのは、
シャナンが最後に目撃されたロングアイランドの住宅地。
住民の話や娘が助けを求めた経緯を追うほど、
十分に調べられていないことへの疑問が募っていきます。
やがて周辺で複数の女性の遺体が発見され、
連続殺人事件への関心が高まります。
しかし、そこにシャナンの姿はありません。
世間が事件の異様さに注目する一方で、
メアリーはほかの被害者の家族たちと出会います。

帰りを待つ家族と、それまでの人生がある。
ネタバレありのあらすじ・結末を読む(クリックで開閉)
疑惑の電話と、すれ違う家族
メアリーは、医師ハケットから受けた電話を手掛かりに、
娘の失踪直前の状況を調べようとします。
しかし、その電話をめぐる説明にも食い違いがあり、
納得できる答えは得られません。
捜索に力を注ぐ間にも、
メアリーは自分と娘の関係を問い直すことになります。
娘を守りたいという気持ちと、
娘の生活を十分に知らなかったという事実。
その両方を抱えながら、遺族たちと声を上げ続けます。
捜索されていなかった湿地へ
メアリーが求めるのは、
シャナンが逃げ込んだ可能性のある場所を、
きちんと調べることでした。
警察の説明を受け入れず、
見落とされた場所への捜索を訴えます。
やがて湿地でシャナンの遺体が見つかります。
しかし、娘を見つけることと、
娘に何が起きたのかを解明することは同じではありません。
発見は帰還の希望を断ち切ると同時に、
死の経緯をめぐる新たな闘いの始まりになります。
犯人逮捕で終わらない結末
本作は、犯人が明かされ、
すべての疑問が解ける形では終わりません。
終幕では、死因をめぐる家族側の異議や、
その後の法的な働きかけが示されます。
さらに、メアリー自身が後年、
娘サラに命を奪われたことも伝えられます。
残るのは、声を上げ続けた母親の姿と、
失われた女性たちを忘れないという意思です。
なお、シャナンの死因については警察側と家族側の見解に相違があり、
「絞殺と確定した」と一括りにはできません。
映画が示す当時の情報と、
現実の事件の結論は分けて受け止める必要があります。
◆感想・考察(ネタバレあり)
娘を捜してもらうために、なぜ怒らなければならないのか
俺がこの物語で引っかかるのは、
母親が捜査を求めること自体に、
これほどの力を使わされている点だ。
娘がいない。
その不安だけでも耐え難いはずなのに、
まず相手に深刻な問題だと認めさせなければならない。
メアリーの言い方は強い。
相手を責め、食い下がり、その場の空気を悪くすることもある。
だが、その態度だけを見て厄介な母親だと片づけたら、
なぜそこまで怒るようになったのかが消えてしまう。
穏やかに頼んでいる間に聞いてもらえなかった声が、
怒りとして表に出ているように思えた。
「どんな仕事をしていたか」が、「捜すべきか」にすり替わる
シャナンの職業は、足取りを追うための情報にはなる。
しかし、それが捜索の優先度を下げたり、
被害を本人の責任にしたりする理由になるはずはない。
この映画の嫌なところは、
その当たり前が簡単に崩れて見えることだ。
被害者を職業で説明した瞬間、
一人の娘だったことや、誰かの姉だったことが見えにくくなる。
俺には、メアリーたちの闘いが、
事件を調べてほしいという要求と同時に、
娘を勝手なイメージで終わらせないための抵抗にも見える。
何の仕事をしていたかで、捜してもらえる熱心さまで変わるのはおかしいよな。
家族が知りたいのは、娘がどこにいるか。それに答える前に、娘の生き方を裁かないでほしいわ。
完璧な母親でなくても、娘を捜す権利はある
メアリーは、何もかも正しかった母親として描かれてはいない。
娘との間には距離があり、
家族の生活にも簡単には整理できない事情がある。
捜索を通して娘について知ることは、
それまで知らずにいた自分と向き合うことでもある。
だからといって、母親として至らないところがあれば、
警察への要求まで間違いになるわけではない。
俺はそこを分けて考えたい。
過去に後悔がある人でも、今、助けを求めることはできる。
立派な家族だけが支援される社会であっていいはずがない。
疑わしさと、証明された事実は別にある
ハケットをめぐる電話や説明は、
観る側にも疑いを抱かせる。
メアリーの立場で見れば、
納得できるまで問いただしたいと思うのも自然だ。
ただし、不審な点があることと、
その人が犯人だと証明されることは違う。
俺は、この作品のもどかしさを、
分かりやすい悪役を決めることで解消したくはない。
実在の事件を扱う以上、
残っている疑問を、残っている疑問のまま受け止める必要がある。
疑う理由を見せながら、すべてを断定できないところに、
現実の重さが残る。
『ロストガールズ』という複数形に感じるもの
始まりは、一人の母親と一人の娘の物語だ。
しかし、別の被害者の家族と出会うことで、
画面の向こうに複数の人生が見えてくる。
事件の記事なら短くまとめられてしまう名前にも、
それぞれの家族の記憶がある。
俺には、この題名が単に行方を失った女性たちを指すだけでなく、
社会の関心からこぼれ落ちた人たちも指しているように思える。
これは題名への俺なりの読み方だが、
遺族が集まって声を上げる姿を見ると、
その複数形が重く感じられる。
遺体が何人見つかったか、だけでは分からないことがある。一人ずつ、待っている家族がいたんだよな。
事件の人数として数えるだけでは、その人が生きていた時間まで見えなくなってしまうわね。
静かな演出の強さと、95分では描き切れないもの
エイミー・ライアンの、
疲れと怒りが同居する表情が物語を支えている。
勇ましい言葉だけで前に進む人物ではなく、
生活を続けながら娘を捜さなければならない人に見える。
シェリーを演じるトーマシン・マッケンジーの存在も、
母親の闘いのそばで別の娘が何を抱えているのかを意識させる。
一方、95分で事件と家庭の両方を追うため、
ほかの遺族の人生や捜査の経過を、
もう少し知りたい気持ちも残る。
謎解きの決着を期待して観ると物足りないだろう。
それでも、解決しない問題を抱えたまま生きる家族を描く作品として、
その後味は簡単には消えない。
もて男目線の考察|怒り方を注意する前に、訴えを聞く
誰かが強い口調で困り事を訴えたとき、
その言い方ばかりに反応してしまうことがある。
だが、俺はまず、
何が起きていて、何をしてほしいのかを聞ける人でありたい。
相手の話を聞くことは、
すべての主張を無条件で信じることではない。
分かっている事実と、
まだ分からないことを一緒に整理することだ。
メアリーに必要だったのも、
落ち着くよう促す言葉だけではなく、
娘の行方を具体的に確かめる行動だったと思う。
◆似ている作品・おすすめ映画2本


【映画】グッド・ナース(2022年)
患者の不審死をめぐり、一人の看護師が真相に向き合う実話犯罪ドラマ。
命より組織の都合が優先される問題と、
声を上げる女性を描く静かな重さが似ています。
◆教訓・学び
相手の職業や生き方への偏見で、助けを求める声を軽く扱わない。
◆評価
| 評価項目 | 点数 | ひとこと |
|---|---|---|
| ストーリー | 17 / 20 |
娘の捜索を軸に、被害者への偏見や遺族の連帯へと広がる構成。 母親の闘いは伝わりますが、捜査の経過やほかの家族の背景には、さらに掘り下げてほしい部分も残ります。 |
| 演技 | 18 / 20 |
エイミー・ライアンが、怒りの奥にある疲労と後悔を表現。 トーマシン・マッケンジーの抑えた演技も、母を支えながら自身も傷ついている娘の心情を伝えます。 |
| 映像・演出 | 18 / 20 |
住宅地や湿地の静けさが、娘の行方が分からない不安を際立たせます。 感情を過度にあおらず、会話のすれ違いや待たされる時間から、捜査が進まない苛立ちを伝える演出が効果的です。 |
| 感情の揺さぶり | 19 / 20 |
娘を見つけても、何が起きたのか分からない母親の苦しさが胸に残ります。 助けを求める家族が偏見とまで闘わなければならない理不尽さに、深い悲しみと怒りを覚えます。 |
| オリジナリティー・テーマ性 | 19 / 20 |
犯人への関心に埋もれがちな、被害者と家族の人生に焦点を当てた視点が鮮明。 職業や境遇によって助けを求める声の扱いが変わる問題を描き、一人ひとりの尊厳を問い直します。 |
総合評価 |
91 / 100 |
娘を捜す母親の闘いを通して、被害者への偏見と、声を上げなければ動かない社会の理不尽さを描く実話ドラマ。 俳優陣の抑えた演技と静かな演出が、家族の悲しみと怒りを深く伝えます。 事件の解決だけでは測れない、一人の人生を尊重することの重さが残る一本です。 |
◆キャッチコピー
娘の名前を、事件の数字で終わらせない。
◆総括
『ロストガールズ』は、娘を捜す母親の物語を通して、
被害者の職業や家族の事情が、周囲の対応を変えてしまう怖さを描きます。
メアリーは完璧な母親ではありません。
それでも、娘に何が起きたのかを知りたいという願いまで、
軽く扱われていい理由はありません。
犯人の正体が明らかになるミステリーを期待すると、
割り切れなさが残る作品です。
しかし、その割り切れなさこそ、
答えを得られずに暮らす家族の時間に近いのかもしれません。
事件の陰に隠れた一人ひとりの人生へ、
目を向けたくなる映画です。
◆参考情報
映画を観たり、レビューを書いたりする部屋に、少し緑を置いています。フェイクとはいえ、目に入ると何となく落ち着くんですよね。水やりもいらず、気軽に置けるのも良いところ。ひとつ、ふたつあるだけで、部屋で過ごす時間が少し心地よくなるアイテムです。
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