映画『呪われた死霊館』(2018年)ネタバレ感想・考察|フローレンス・ピューが支えるB級ホラー

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◆作品情報

作品名 呪われた死霊館
原題 Malevolent
監督 オーラフ・デ・フルール・ヨハネソン
脚本 ベン・ケタイ、エヴァ・コンスタントプロス
出演 フローレンス・ピュー、ベン・ロイド=ヒューズ、スコット・
チャンバース、ジョージナ・ビーヴァン、
セリア・イムリーほか
配給・配信 Netflix
公開年 2018年
上映時間 89分
製作国 イギリス
ジャンル ホラー/サスペンス
視聴環境 Netflix、吹替

◆主な登場人物・キャスト

アンジェラ・セイヤーズ/フローレンス・ピュー

兄たちと偽の除霊活動を行っている女子大学生です。霊媒師だった母親と同じ能力を受け継いでおり、やがて本物の霊が見えるようになります。フローレンス・ピューの代表作には『ミッドサマー』『ブラック・ウィドウ』があります。

ジャクソン・セイヤーズ/ベン・ロイド=ヒューズ

アンジェラの兄で、偽の超常現象調査チームを取り仕切っています。高利貸しから借金をしており、危険を感じながらも報酬のためにグリーン夫人からの依頼を引き受けます。ベン・ロイド=ヒューズの代表作には『ダイバージェント』があります。

エリオット/スコット・チャンバース

除霊活動を撮影するカメラマンです。アンジェラに好意を寄せていますが、危機的な場面では頼りなさが目立ちます。スコット・チャンバースの代表作には『プー あくまのくまさん』シリーズがあります。

ベス/ジョージナ・ビーヴァン

ジャクソンの恋人で、偽の心霊現象を作り出すための音響や機材を担当しています。グリーン邸での異変に巻き込まれ、少女たちと同じ残酷な仕打ちを受けます。

グリーン夫人/セリア・イムリー

かつて児童養護施設として使われていた屋敷の所有者です。殺された少女たちの叫び声を止めてほしいとアンジェラたちへ依頼します。セリア・イムリーの代表作には『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』があります。

ハーマン/ニール・グレイグ・フルトン

グリーン夫人の息子です。少女たちを殺した疑いをかけられ、すでに死亡したとされていますが、その真相には恐ろしい秘密が隠されています。

◆あらすじ

前半:偽物の霊媒師が本物の霊を見る

1986年、スコットランド。女子大学生のアンジェラは、兄のジャクソン、彼の恋人ベス、カメラマンのエリオットとともに、超常現象に悩む家庭を訪問していました。

アンジェラは亡くなった人間の声を聞く霊媒師を演じていますが、その除霊活動はすべて偽物です。ベスが屋敷に仕掛けた装置で音や振動を発生させ、エリオットが撮影し、ジャクソンが依頼人から報酬を受け取る仕組みでした。

霊媒師だった亡き母親の評判まで商売に利用する兄に対し、アンジェラは強い抵抗を感じています。それでも、借金を抱えたジャクソンに押し切られ、詐欺行為を続けていました。

ところが、ある家で除霊を行っていたアンジェラは、仲間が用意していない奇妙な現象を目撃します。自分にしか見えない存在に襲われ、鼻血を流して倒れてしまったのです。

アンジェラの母親も、生前に死者の声が聞こえると訴えていました。やがて精神状態を悪化させ、自ら目を傷つけた末に命を絶っています。アンジェラは、自分も母親と同じ道をたどるのではないかと恐れ始めます。

そんな兄妹のもとへ、グリーン夫人という老婦人から新しい依頼が入ります。夫人が暮らす大きな屋敷では、夜になると少女たちの叫び声が聞こえるというのです。

その屋敷は、かつて児童養護施設として使われていました。しかし15年前、施設で暮らしていた少女たちが、口を縫い合わされた状態で殺されるという凄惨な事件が起きています。

事件ではグリーン夫人の息子ハーマンが疑われましたが、彼もすでに死亡しているとされていました。屋敷の過去を知ったアンジェラは依頼を断ろうとしますが、借金を返済したいジャクソンは高額な報酬を諦めません。

アンジェラたちは、いつものように偽の除霊を行うため、グリーン夫人の屋敷へ向かいます。しかし、そこで彼らを待っていたのは、作り物ではない本物の恐怖でした。

後半:屋敷に隠された少女たちの真相
(ネタバレあり)

除霊が始まると、アンジェラの前に口を縫われた少女が現れます。それが本物の幽霊なのか、自分が見ている幻覚なのか、アンジェラにはまだ判断できません。少女を追って立入禁止になっている東館へ入ると、アンジェラを撮影していたエリオットが腐った床を踏み抜き、下の階へ転落してしまいます。


『呪われた死霊館』でアンジェラの前に現れる口を縫われた少女たち
口を縫われた姿でアンジェラの前に現れる少女たち。この時点では、警告しようとしているのか、危害を加えようとしているのかさえ分からない

床下で見つかったのは、少女たちが監禁されていた部屋でした。壁には、口を縫われた少女の絵が残されています。アンジェラは、自分に見えているものが幻覚ではなく、殺された少女たちの霊だと確信します。

アンジェラが本物の霊を見ていると訴えても、ジャクソンは仕事を続けようとします。しかし、彼自身も以前から不可解なものを見ており、ドラッグやヘッドホンを使って、その事実から目を背けていました。


『呪われた死霊館』で異常事態に直面するアンジェラと兄ジャクソン
偽の心霊現象を作ってきた兄妹は、自分たちの仕掛けでは説明できない異常を前にしても、すぐには現実を受け入れられない

やがてグリーン夫人は、ジャクソンたちが偽の霊媒師であることを見抜きます。さらに夫人は、施設の少女たちを虐待していた事実をほのめかします。

危険を感じたジャクソンは仕事を中止し、屋敷から逃げようとします。ところが、機材を片付けていたはずのベスが見当たりません。屋敷の中を捜すと、ベスは屋根裏部屋で、少女たちと同じように口を縫われた状態で発見されます。

一行は負傷したベスを車に乗せて逃げ出します。しかし、道路上に少女の霊が現れ、ジャクソンはハンドル操作を誤って木へ衝突します。その衝撃でベスは車外へ投げ出され、命を落としました。

事故現場に現れた男は、死亡したとされていたグリーン夫人の息子ハーマンでした。ハーマンはジャクソンとエリオットを襲い、ジャクソンを屋敷へ連れ戻します。

グリーン夫人はジャクソンの舌を切り、顎を傷つけたうえで口を縫い合わせます。少女たちの口を縫い、苦しめていたのは、幽霊ではなくグリーン夫人とハーマンだったのです。

アンジェラは兄を救うため屋敷へ戻りますが、ハーマンに捕まり、自身も口を縫われてしまいます。そこへエリオットが駆けつけ、ハーマンを殺してアンジェラを救出します。

息子を殺されたグリーン夫人は激怒し、肉切り包丁でエリオットを何度も切りつけます。アンジェラは目の前に現れた少女たちの霊へ助けを求めました。

少女たちが一斉に叫び声を上げると、グリーン夫人は動きを止めます。その隙にアンジェラは反撃し、グリーン夫人を倒しました。

屋敷を出たアンジェラは、道路を歩いているジャクソンを発見します。傷のない姿でベスを捜している兄を見て、アンジェラはジャクソンがすでに死亡し、幽霊になっていることを理解します。

その後、アンジェラとエリオットは救助され、病院へ運ばれます。アンジェラが祖父へ出来事を伝えると、祖父は家族を失った彼女を心配し、「一人にはできない」と話します。

しかし、アンジェラは自分の周囲を通り過ぎる黒い影を見つめながら、「私は一人ではない」と答えます。彼女は母親から受け継いだ能力を受け入れ、死者たちとともに生きていくことになったのです。

◆感想と考察

『呪われた死霊館』という邦題を見ると、ジェイムズ・ワンの『死霊館』シリーズに近い作品を想像する。しかし、本作は『死霊館』シリーズとはまったく関係がない。邦題だけを見ると、人気シリーズに便乗したB級ホラーという印象を受ける。

実際、物語の基本的な構成にも目新しさはない。偽の霊媒師が、本物の幽霊が出る屋敷へ行く。過去に子供たちが殺された屋敷には、恐ろしい秘密が隠されている。この設定だけなら、これまでに何度も作られてきた心霊ホラーである。

映像や特殊効果にも、大作ホラーのような豪華さはない。前半は暗い屋敷の中を歩き回る場面が続き、少女の霊が現れては消えるという、比較的おとなしい展開だ。幽霊による派手な攻撃や、大規模な怪奇現象を期待すると、少し物足りなく感じるかもしれない。

それでも本作が単なる低予算ホラーで終わらない最大の理由は、主演を務めたフローレンス・ピューの演技にある。

アンジェラは、兄の詐欺行為に加担していることへの罪悪感と、母親と同じ能力に目覚めることへの恐怖を抱えている。フローレンス・ピューは、最初から大げさに怖がるのではなく、自分に見えたものを認めたくないという混乱を丁寧に表現している。

物語自体はB級ホラーの枠を出ていないが、彼女が画面にいることで、アンジェラの恐怖や悲しみに説得力が生まれている。周囲の登場人物や演出まで引き締まって見えるため、映画全体が一つの作品として成立している。

公開当時はまだ世界的な知名度を得る前だったが、この映画を見たスタッフや共演者は、彼女が将来大きく活躍する俳優になると感じたのではないだろうか。翌年に公開された『ミッドサマー』でも、家族を失った女性の深い悲しみを表現しており、二つの役には共通する部分がある。

後半では、心霊ホラーだった物語が、人間による監禁と拷問を描くサスペンスへ変わる。口を縫い合わせる場面は痛々しく、幽霊の姿よりも、グリーン夫人とハーマンが行う残虐行為の方がはるかに恐ろしく感じられた。

一方で、エリオットには最後までいら立たされる。アンジェラに好意を寄せる誠実な青年として登場するが、危険な状況での行動は頼りなく、肝心な場面で決断できない。

特に終盤、グリーン夫人を完全に無力化しないままアンジェラと話し続ける場面には、「なぜ今、とどめを刺さないのか」と言いたくなる。その迷いによって再び襲われるため、自分から危険を増やしているようにしか見えない。

グリーン夫人がエリオットを肉切り包丁で何度も切りつける場面は残酷だが、それまでの頼りなさを見せられた視聴者のもどかしさを、夫人が代わりにぶつけているようにも見えた。それでも最後まで生き残るのだから、ある意味では非常に運の強い人物である。

ここから本作を考察すると、物語の中心にあるのは、幽霊への恐怖ではなく「見たくない現実から目を背ける人間」だと分かる。

アンジェラは、自分に霊が見えている事実を認めれば、母親と同じ運命をたどるのではないかと恐れていた。ジャクソンもまた霊を見ていたが、ドラッグやヘッドホンを使って現実を遮断していた。二人とも、母親から受け継いだものに向き合うことを避けていたのである。

しかし、少女たちの霊はアンジェラを傷つけるために現れたのではない。彼女たちは、屋敷に隠された真実を伝え、グリーン夫人とハーマンの危険を警告しようとしていた。最初から恐ろしかったのは死者ではなく、生きている人間だったのだ。

グリーン夫人は、自分が少女たちの世話をしたことへの感謝を求めていた。ところが、自分に従わない少女たちの口を縫い、最後には息子とともに命まで奪っている。他人を愛しているつもりでも、相手に服従を求めた瞬間、それは支配へ変わる。

少女たちの口が縫われていたことにも意味がある。彼女たちは生前、苦しみを訴える声を奪われていた。死後も屋敷に残り、叫び声を上げ続けていたのは、自分たちに起きたことを誰かに伝えるためだったと考えられる。

アンジェラが最後に少女たちへ助けを求めたことで、奪われていた声はグリーン夫人を止める力に変わった。少女たちは恐怖を与える存在ではなく、自分たちの声を聞くことができるアンジェラを待っていたのである。

ラストでアンジェラがジャクソンの霊を見る場面は、兄の死を示す悲しい結末だ。同時に、彼女が自分の能力を受け入れた瞬間でもある。

「私は一人ではない」という言葉は、周囲に幽霊がいるという不気味な意味を持つ一方、亡くなった母親や兄とのつながりを失っていないという救いにも聞こえる。恐怖の原因だった能力が、最後には孤独を埋めるものへ変わっているのだ。

目新しい設定ではなく、大きな驚きがある作品でもない。それでも、フローレンス・ピューの演技、人間の方が幽霊よりも恐ろしいという逆転、少し前向きにも受け取れる結末によって、短時間でまとまったホラー映画になっている。

一級のホラー映画とまでは評価できない。しかし、フローレンス・ピューがB級映画を、最後まで見られる一本の作品として成立させている。

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「幽霊が人間を襲う映画だと思っていたら、いちばん恐ろしいのは屋敷に住んでいる人間だったのね。少女たちは、ずっと助けを求めていただけだったのかしら。」

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「そうだと思う。それより、エリオットには最後までいら立った。あそこでグリーン夫人を放置して話し込まなければ、あんなに切りつけられずに済んだのに。」

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◆本作から得られる教訓

先入観だけで相手を恐れず、その声が何を伝えようとしているのかを考えることが大切だ。

アンジェラは、幽霊を自分たちへ危害を加える存在だと思い込んでいました。しかし、少女たちはアンジェラを襲おうとしていたのではなく、屋敷に隠された真実と、生きている人間の危険を伝えようとしていました。

目に見える姿や周囲の評判だけで善悪を決めつけると、本当に恐ろしいものを見落としてしまいます。相手の言葉に耳を傾け、表面の印象だけではなく、その奥にある事情を見ることが必要です。

◆評価

評価項目 点数 ひとこと
ストーリー 17 / 20 定番の心霊屋敷ものから、人間の残虐性を描く物語へ転じる後半が見応えを生みます。
演技 18 / 20 フローレンス・ピューの繊細な演技が、低予算ホラーの物語に感情的な説得力を与えています。
映像・演出 15 / 20 暗い屋敷と口を縫われた少女たちの映像は印象的ですが、演出には低予算らしい粗さも残ります。
感情の揺さぶり 15 / 20 兄妹を待つ結末には悲しさがある一方、エリオットの頼りない行動にはいら立ちを覚えます。
オリジナリティー・テーマ性 17 / 20 幽霊を脅威ではなく被害者として描き、本当に恐ろしいのは生きた人間だというテーマを際立たせています。
総合評価 82 / 100 定番の設定ながら、人間の恐ろしさとフローレンス・ピューの演技によって、見応えのあるホラーに仕上がっています。

◆総括

『呪われた死霊館』は、偽の霊媒師が本物の幽霊に遭遇するという、何度も使われてきた設定のホラー映画です。邦題からは『死霊館』シリーズを連想しますが、物語上のつながりは一切ありません。映像や演出にも低予算らしさがあり、一級のホラー作品と呼べるほどの新鮮さはありません。

それでも最後まで見られる作品に仕上がっているのは、主演のフローレンス・ピューによるところが大きいです。母親と同じ能力に目覚める恐怖、詐欺への罪悪感、兄を失う悲しみを丁寧に表現し、ありふれた物語に感情的な説得力を与えています。

後半では、幽霊よりもグリーン夫人とハーマンの方が恐ろしい存在だったことが明らかになります。口を縫われた少女たちは人間を襲う悪霊ではなく、生前に奪われた声で真実を伝えようとしていました。「本当に恐ろしいのは幽霊ではなく人間」という逆転が、本作で最も印象に残る部分です。

一方、エリオットの頼りない行動には最後までいら立たされます。特に終盤、グリーン夫人を放置したまま話し続ける場面は、危機感がなさすぎます。彼が最後まで生き残ったことには、納得しにくさも残りました。

怖さを徹底的に追求した作品ではありませんが、上映時間が約89分と短く、展開も比較的早いため、気軽に見られます。フローレンス・ピューの演技を目的に見るなら十分に価値があり、ホラーが苦手な人でも挑戦しやすい一本です。

ありふれたB級ホラーを、若きフローレンス・ピューの演技が最後まで見られる作品として成立させています。

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