映画『ワンダーランド あなたに逢いたくて』(2024年)
ジャンル:SF/ヒューマンドラマ/ラブストーリー
◆映画『ワンダーランド』の作品情報
英題 | Wonderland |
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監督・脚本 | キム・テヨン |
出演 | タン・ウェイ、ペ・スジ、パク・ボゴム ほか |
配給/配信 | Netflix |
公開/上映時間 | 2024年/115分 |
製作国 | 韓国 |
視聴ツール | Netflix、自室モニター、Huawei |
◆キャスト
- バイリー:タン・ウェイ 代表作『ラスト、コーション』(2007年)
- ジョンイン:ペ・スジ 代表作『建築学概論』(2012年)
- テジュ:パク・ボゴム 代表作『徐福』(2021年)
- ヘリ:チョン・ユミ 代表作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)
- ヒョンス:チェ・ウシク 代表作『パラサイト 半地下の家族』(2019年)
◆あらすじ
近未来の韓国。最愛の人を亡くした人々の前に現れるのは、「ワンダーランド」と呼ばれる最新サービスです。AI技術によって、故人や植物状態の人を仮想空間に再現し、残された人はテレビ電話のように会話を楽しむことができます。管理者であるヘリとヒョンスのもとには、家族や恋人を失った依頼者たちが訪れます。母を恋しく思う幼い娘、恋人の帰りを待つ女性、孫を亡くした祖母…。それぞれの切実な願いは、ワンダーランドの中で再び命を吹き込まれるのです。しかし、再会の喜びの裏側には、現実とのギャップやAIの限界、そして愛のかたちに対する問いかけが待ち受けています。本作は「会いたい」という人間の普遍的な願望と、テクノロジーがもたらす幸福と葛藤を描く、切なくも美しい物語です。
ここからネタバレありです
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◆考察と感想
本作、『ワンダーランド あなたに逢いたくて』は、AIによって「死者ともう一度会える」仮想世界を描いた作品だ。映画の舞台は近未来の韓国でありながら、決して遠い未来の話ではなく、現代のテクノロジーの延長線上にある現実味を持っている。スマートフォンやSNSで故人の記録をいつでも見返せる今の社会において、人が「会いたい」という切実な欲望をどこまでテクノロジーで補えるのか。本作はその問いに真正面から挑んでいる。
まず心を打つのは、母を失った幼い娘ジアの存在だ。バイリーは自分が死を迎える直前に「ワンダーランド」に登録し、仮想世界で考古学者として生き続ける。母を恋しがる娘と、まだ死を認識していないバイリーとのテレビ電話は、温かさと痛ましさが同居している。観客は「もう一度会えてよかった」と思う一方で、「本当にこれは救いなのか」と自問せざるを得ない。ここに本作の最大のテーマがある。
一方、恋人を植物状態で失ったジョンインのエピソードは、AIが生み出す理想像と現実の乖離を鋭く突いてくる。仮想空間で再現されたテジュは明るく優しく、彼女にとって理想的な恋人だった。しかし、奇跡的に現実のテジュが目覚めると、認知の不調や性格の変化に直面し、理想とはほど遠い姿を見せる。ジョンインは混乱し、現実のテジュと距離を取り、再びワンダーランドの仮想テジュに救いを求める。このエピソードは、「愛するとは、相手の理想像に恋することなのか、それとも現実の欠点ごと受け入れることなのか」という普遍的な問いを投げかける。
祖母ジョンランと孫ジングの関係は、テクノロジーの副作用を示す象徴的なエピソードだ。課金オプションによって孫に欲しい物を与え続ける祖母は、現実の生活を犠牲にしてしまう。愛情は本物でも、その形は企業の利益に吸い上げられ、孫も次第にわがままになっていく。ここには、AIや仮想世界が必ずしも人間を幸せにするとは限らない現実が映し出されている。愛と依存の境界線が曖昧になり、仮想が現実を侵食していく様子は、非常に現代的な警鐘といえる。
また、ヒョンスと父ヨンシクの関係も見逃せない。彼は亡くなった父と仮想世界で再会し、初めて会話を交わす。血のつながりや家族の歴史は、現実の時間軸では取り戻せない。しかしAIを介してなら、「もしあの時こうだったら」という関係性を体験できる。本作は家族の再生を描くと同時に、その再生が本当に意味を持つのかを問いかけている。
全体を通じて、監督は「もう一度会いたい」という普遍的な感情をベースにしながら、観客に複数の角度から考える材料を与えている。ワンダーランドのシステム障害や崩壊のシーンは、単なるSF的なスリルにとどまらず、愛や記憶をデータ化することの限界を視覚化している。最終的にバイリーは娘に別れを告げ、来世での再会を誓う。この結末は、AIでは完全に埋められない喪失感と、人間が持つ希望の強さを同時に描き出している。『ワンダーランド あなたに逢いたくて』は、愛と喪失、そしてテクノロジーの功罪を描く現代的な寓話であり、観終わった後も「もし大切な人を失ったら、私はワンダーランドを利用するだろうか」という問いが胸に残る。
◆モテ男目線の考察
◆似ているテイストの作品
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『PLAN75』(2022年/日本)
高齢化社会と死生観をテーマにした社会派ドラマ。
人生の終わりをどう迎えるかという問いかけが、『ワンダーランド』のAIと再会をめぐるテーマと重なる。 -
『楽園』(2019年/日本)
失踪事件を軸に人間の孤独や心の闇を描く群像劇。
喪失や孤独を抱えた者たちの心情に迫る点で、『ワンダーランド』の切なさと響き合う。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
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ストーリー | 19 / 20 | 「もう一度会いたい」という普遍的な願望をAIで具現化する発想が秀逸で、複数の人間模様が重なり合う構成も巧みだった。 |
演技 | 18 / 20 | タン・ウェイやペ・スジをはじめ、俳優陣が繊細な感情表現を見せ、喪失や葛藤をリアルに伝えていた。 |
映像・演出 | 18 / 20 | 現実と仮想を行き来する映像演出が美しく、SFでありながら温かみのある世界観が印象的だった。 |
感情の揺さぶり | 18 / 20 | 母と娘の別れ、恋人同士のすれ違いなど、観客自身の経験に重なる切なさが胸に迫ってきた。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 19 / 20 | AIと人間の愛を題材にしつつ、テクノロジー依存の危うさも描き、現代社会に鋭い問いを投げかけた。 |
合計 |
92 / 100 |
SF的発想と人間ドラマを融合させ、愛と喪失を深く描いた心揺さぶる傑作だった。 |
※配点基準:物語構成・人物造形・演出・情動喚起・テーマ性の総合評価。
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