【映画】『罪と悪』(2024年) 少年時代の罪が、22年後に再び牙をむく。閉ざされた町で明かされる、真実と悪意の連鎖 | ネタバレあらすじと感想

サスペンス/スリラー

◆映画『罪と悪』の作品情報

監督・脚本 斎藤勇起
出演 高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳ほか
配給 ナカチカピクチャーズ
公開 2024年
上映時間 115分
製作国 日本
ジャンル ノワール、ミステリー、サスペンス、ドラマ
視聴ツール Netflix、自室モニター、Technics EAH-AZ100-K

◆キャスト

  • 春:高良健吾 代表作『蛇にピアス』(2008年)
  • 晃:大東駿介 代表作『クローズZERO II』(2009年)
  • 朔:石田卓也 代表作『夜のピクニック』(2006年)
  • 佐藤(刑事課長):椎名桔平 代表作『アウトレイジ』(2010年)
  • 直哉:古舘佑太郎 代表作『いちごの唄』(2019年)

◆あらすじ

少年時代に起きた悲劇的な事件が、22年後の現在へと重く影を落とします。
13歳の少年・正樹が何者かに殺され、その遺体は町の橋の下で発見されました。
幼なじみの春・晃・朔の3人は、事件の真相を追う中で犯人だと確信した人物を追い詰めますが、その選択は取り返しのつかない結果を招いてしまいます。

それから22年後、刑事となった晃(大東駿介)は父の死をきっかけに地元へ戻り、再び春(高良健吾)や朔(石田卓也)と再会を果たします。そんな折、かつてと同じ橋の下で新たな少年の遺体が見つかります。
再び繰り返された残酷な事件。過去に背負った罪と現在の悪意が交錯し、3人は否応なく心の奥に封じてきた記憶と向き合うことになります。
物語は、罪を抱えて生きる者たちの葛藤と、閉ざされた町が孕む闇を描き出していきます。

ここからネタバレありです

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22年前の事件で犠牲になった正樹は、実は朔の手によって命を落としていました。
朔は老人・おんさんの家で正樹のスパイクを発見したことをきっかけに、春や晃と共に犯人と断定。しかしその裏には、朔自身が正樹と共に性的暴行を受けていた過去がありました。
その事実を誰かに知られることを恐れた朔は、誤解から正樹を殴り殺してしまったのです。

春はすべての罪を背負って少年院へ。晃は刑事として真実を探し続けますが、22年後に再び起きた少年殺害事件の裏にも朔の影がありました。
小林少年の遺留品から正樹の財布が見つかり、直哉に疑いが向けられるも、真の犯人は朔でした。
しかし朔は最後まで罪を認めず、やがて春によって報復される形で命を落とします。
小さな町の閉鎖性と連鎖する悪意が、彼らを救いのない結末へと導いてしまうのです。

◆考察と感想

本作、映画『罪と悪』は、タイトル通り「罪」と「悪」という人間の根源的なテーマを正面から描いたノワールミステリーだった。俺は観終わったあと、ただのサスペンスというよりも、人間の業を凝縮したような物語に呑み込まれた気分になった。

物語は、13歳の少年・正樹の殺害から始まる。橋の下で見つかった彼の死体は、田舎の閉鎖的な町に重苦しい空気をもたらす。幼なじみの春、晃、朔は真相を求めて怪しい老人・おんさんを問い詰め、もみ合いの末に殺してしまう。春が罪をかぶり、火を放ち事件は幕を閉じるかに見えた。しかし22年後、再び同じ場所で少年の遺体が見つかり、過去と現在の罪がつながっていく。この構造自体がすでに巧妙で、観客は過去と現在の両方の「罪」を見比べながら、登場人物たちの内面に没入せざるを得ない。

俺が強く感じたのは、この作品が「誰もが加害者であり被害者でもある」という視点を貫いていることだ。春は少年院に入り人生を狂わされたが、それは朔の暴走をかばったからだ。晃は警察官として正義を追い求めるが、父親の影響で権力と妥協していた事実を突きつけられる。そして朔は、自らが性的暴行の被害者であったことを隠すために、友人を殺し、さらに仲間すら裏切ってしまう。彼らは一人ひとり「罪」によって形づくられた存在であり、その罪は決して過去のものとして片付けられない。俺は観ていて、誰か一人を「絶対悪」として切り捨てられない苦しさを感じた。

また、この映画は「町」という閉鎖的な舞台装置をうまく使っている。田舎町では噂や視線が常にまとわりつき、性的暴行のようなスキャンダルはひた隠しにされる。だからこそ朔は真実を語れず、正樹を殺してしまった。もし大都市だったら、彼らには逃げ場や相談先があったかもしれない。だが小さな町では逃げ場がなく、悪意が淀み、やがて罪へと転化してしまう。観客である俺も「この町にいたら、俺もどこかで誰かを見捨てただろう」と思わざるを得なかった。

映像面でも印象的だった。昼間の田園風景は穏やかで美しいのに、その下にはドロドロとした闇が広がっている。夜の橋の下のシーンは特に印象的で、川面に映る光が揺らめきながら、彼らの罪の記憶を反射するかのようだった。正樹の財布が時を経て出てくる場面は、単なる証拠以上の意味を持ち、「過去の罪は決して消えない」という象徴として強く胸に残った。

キャストも見事だった。高良健吾の春は、不良少年の面倒を見る一方で裏社会に染まり、どこか救いのなさを纏っていた。大東駿介の晃は、正義感と罪悪感の間で揺れる姿を丁寧に演じ、観客の視点を担っていた。石田卓也の朔は圧巻で、静かな表情の奥に潜む狂気と苦悩を見事に体現していた。椎名桔平が演じる刑事課長の存在も、権力の腐敗を体現する重要なアクセントになっていた。

ラストについても考えさせられた。朔が真相を認めず、春によって葬られる展開は救いがない。しかしそれが現実味を持って迫ってくる。罪と悪意は理屈ではなく感情と環境によって連鎖し、簡単に断ち切れるものではない。最後に映し出される4人の無邪気な思い出が痛烈で、「あの時ああでなければ」という後悔を観客にも背負わせる。俺はエンドロールを見ながら、胸が重く締めつけられた。

総じて『罪と悪』は、ただの犯罪サスペンスにとどまらず、「人間は罪をどう背負って生きるか」という普遍的な問いを投げかけていた。俺はこの映画を観て、自分の過去や選択についても振り返らざるを得なかった。誰の中にも「罪」と「悪」は潜んでいて、ふとした環境やきっかけで噴き出す可能性がある。観終わった後も、その余韻から抜け出せず、しばらく心の中で自問自答を繰り返していた。それほどまでに、この作品は俺にとって強烈な体験だった。

◆モテ男目線の考察

この映画を観て感じたのは、人間の裏側を知っている男こそ魅力的だということだ。春のように過去の罪を背負いながらも人を導こうとする姿勢や、晃のように正義と葛藤の狭間で悩む誠実さは、女性から見ても惹かれる部分がある。モテる男は完璧な人間ではなく、弱さや苦しみを知り、それを受け止める強さを持っている。『罪と悪』は、そんな「傷を抱えた男の色気」を教えてくれる映画だった。

◆似ているテイストの作品

  • 『楽園』(2019年/日本)
    村で起きた少女失踪事件を発端に、疑念と孤立が人々を追い詰めていく人間ドラマ。
    閉ざされた共同体の中で膨らむ悪意や差別の構図が『罪と悪』と共鳴する。
  • 『プリズナーズ』(2013年/アメリカ)
    少女誘拐事件をきっかけに、父親が極限の行動に出るクライムサスペンス。
    正義と狂気の境界が揺らぎ、罪の連鎖が暴かれていく点で本作と通じる。

◆評価

項目 点数 コメント
ストーリー 17 / 20 なかなか日本の映画にしては、サスペンスもので面白い作品だった。小さい頃と現在で名前が一致するのに多少時間が掛かった。
演技 18 / 20 椎名桔平までは、豪華だなと思ったが、佐藤浩市はもったいない。
映像・演出 17 / 20 言葉が足りなくても、雰囲気やあうんの呼吸的な感じで理解できた。最後の最後まで緻密。
感情の揺さぶり 17 / 20 めちゃめちゃ正統派な作品で、最後までバイオレンスだった。
オリジナリティ・テーマ性 17 / 20 テーマ性は十分有ったし、こんな町は嫌だと俺自身も思う。
合計 86 / 100 故郷は遠くにあって思うものとはよく言ったものだと思う。

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