【映画】『親密な他人』(2021年) 失った息子と、現れた青年——愛か、狂気か。交錯する孤独が導く、もう一つの家族のかたち | ネタバレあらすじと感想

サスペンス/スリラー

◆映画『親密な他人』の作品情報

  • 【英題】Intimate Stranger
  • 【監督・脚本】中村真夕
  • 【出演】黒沢あすか、神尾楓珠、上村侑、佐野史郎 他
  • 【配給】ナカチカピクチャーズ
  • 【公開】2021年
  • 【上映時間】96分
  • 【製作国】日本
  • 【ジャンル】心理サスペンス、ヒューマンドラマ
  • 【視聴ツール】Amazon Prime、自室モニター

◆キャスト

  • 恵:黒沢あすか 代表作『愛の流刑地』(2007年)
  • 雄二:神尾楓珠 代表作『彼女が好きなものは』(2021年)
  • 心平:上村侑 代表作『許された子どもたち』(2020年)
  • 近所の男性(大家的存在):佐野史郎 代表作『夢売るふたり』(2012年)

📝 あらすじ

シングルマザーの恵は、数年前に家を出て行方不明となった最愛の息子・心平の帰りを信じて、毎晩、捜索掲示板をチェックする日々を送っています。
孤独の中で暮らす彼女のもとに、ある日突然「息子さんに会ったことがある」という若い男性・雄二が現れます。
雄二は、心平とネットカフェで一度だけゲームをしたことがあると語り、彼の所持品を差し出しました。
半信半疑ながらも希望を捨てきれない恵は、雄二を自宅へ招き入れます。

恵は、雄二が語る心平の思い出話や、「幸福を呼ぶ青い鳥」というエピソードに心を動かされ、次第に彼を信頼していきます。
そして、家族のような感覚を彼に抱き始め、恵はついに「心平が戻るまで、うちで一緒に暮らさない?」と提案します。
雄二には身寄りがなく、行き場もありませんでした。
こうして二人は、不思議な同居生活を始めることになります。
母と息子のようでもあり、男女のようでもある曖昧な関係が、静かに、しかし確かに、形成されていくのでした。

⚠️ ここからネタバレありです

▶ ネタバレあらすじ(クリックで展開)

同居生活が続く中で、恵は雄二に対して心の隙間を埋めるような感情を抱いていきます。
しかし、雄二にはある目的がありました。
彼は心平の行方を知っていたわけではなく、過去に心平とネットカフェで出会った際に起きたある出来事によって、自責の念に苛まれていたのです。
雄二が持っていた心平の私物も、実はそのときの事件に関係するものでした。

一方、恵にも周囲には話せない過去がありました。
心平が失踪する原因となったある出来事に対して、彼女は罪悪感を抱いており、雄二との接近もその裏返しでした。
やがて、二人が向き合うことで、それぞれが抱えていた傷と嘘が明るみに出ていきます。
再生を願う気持ちと、消えない過去。愛と贖罪が交差するラストには、静かだけれども重たい余韻が残ります。

💭 考察と感想

💭 考察と感想

『親密な他人』は、一見静かな空気を纏いながら、じわじわと精神を侵してくるような映画だった。
何気ない日常の裏側に潜む孤独や渇望、そして人とのつながりを求めたときの脆さと怖さが、リアルに、しかしどこか歪んだかたちで描かれている。

物語は、最愛の息子が行方不明になったシングルマザー・恵と、息子を知っていると名乗る謎の青年・雄二が出会うところから始まる。
設定としてはシンプルで、ある種よくある“喪失と再会”の物語のように見えるが、実際に描かれるのはそんな優しいものではない。
本作の根底にあるのは、「人間の本能的な欲望と、その欲望を隠す嘘」のリアリズムだ。

雄二という青年の存在が不気味だった。何を考えているのか読めない表情、必要以上に無垢で親しげな態度。
最初はただの優しさかと思わせるが、徐々にその背後にある“意図”のようなものがにじみ出てくる。
彼は本当に心平と関わりがあったのか? 嘘をついているのでは? と、観ているこちらの感情も恵と同じように揺れ動いていく。

一方の恵もまた、ただ悲しみに暮れている母親ではない。
息子を失ったことで、自分の中の「母としての役割」だけが残り、それが空洞になっている。
その空洞に、雄二という他人を当てはめようとする姿は、愛情ではなく依存や執着のようにすら見える。

恵が雄二の背中を拭くシーンは、たったそれだけの行為なのに、そこに漂う空気は“性的”とも“母性的”ともつかず、目をそむけたくなるほどだった。
視線、距離、手の動き。全部がギリギリのところで成り立っていて、どこかで一線を越えそうな危うさが常に漂っていた。

このシーンに象徴されるように、恵と雄二の関係は、母と子、男と女、加害者と被害者、すべての境界が曖昧になっている。
そして観客にその「曖昧さ」を突きつけてくる。

中村真夕監督は、この作品で「孤独と再生」を主題に据えながら、その裏にある“人間のどうしようもなさ”を描いていると思う。
誰かに必要とされたい、居場所が欲しい、愛されたい──それは誰しもが抱える自然な欲求だ。
でもそれが過剰になったとき、人は他者を傷つけ、自分すら壊してしまう。

また、この映画の映像は徹底して抑制されていた。色彩も淡く、空間は狭く、登場人物の動きも小さい。
まるで全編を通して息苦しい密室劇のようだが、その閉塞感こそが登場人物たちの「心の内面そのもの」だったように思う。

黒沢あすかは、脆さと強さを併せ持った“母”をリアルに演じきっていたし、神尾楓珠の“何かを抱えた青年”の空気感も見事だった。
特に神尾くんの、言葉ではなく“間”で語る演技力には目を見張った。

この映画を「重い」「気持ち悪い」と感じる人がいるのは当然だ。俺自身、観ていて何度も居心地の悪さを感じた。
でも、それでも最後まで目を離せなかった。なぜならこの作品は、“観る覚悟”を要求してくるからだ。

美談ではない、希望に満ちた結末でもない。だけど俺は、この映画を観て、自分の中の「弱さ」や「寂しさ」にも少しだけ向き合えた気がした。
それこそが、本作の持つ本当の力だと思う。

💘 モテ男の考察

この作品を観て、俺が思ったのは「人間は寂しさに勝てない」ってことだ。
モテる男ってのは、相手の心のスキマをちゃんと見る。
雄二はそれを無意識に、いや、時に意図的にやってた。
ただし、それを埋める覚悟も持たずに踏み込むのは危険だ。
本当にモテる男は、寂しさにつけ込まず、寄り添い方を知ってる。
この映画は、愛されたいだけじゃなく、“どう愛するか”を男に問いかけてくるんだ。

📘 教訓・学び

モテる男は、寂しさに踏み込む前に、その重さを受け止める覚悟を持っている。

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◆評価

項目 点数 コメント
ストーリー 17 / 20 こんな展開になるとは想像もせず。それにしてもこう言う作品もあるんだと言うのが新鮮味を感じた俺の印象だ。
演技 18 / 20 みな上手い。当たり前ではあるが、ちょっとした感情の動きを細かく表現をしている出演者はすごい。
映像・演出 18 / 20 次の展開は全く予想できなかったのが、やはりすごい作品&出演者と言うのが全てだ。
感情の揺さぶり 18 / 20 何となく近親相姦?とずっと思っていた。
オリジナリティ・テーマ性 18 / 20 オリジナリティーはかなりあるでしょ。想像できないことばかりになって勝手に終わったと言う感じだ。
合計 89 / 100 日本映画の良さを久々に感じたというのが全て。本作品のような不思議な世界を描き切ってしまうのは凄いことだと思う。

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