【映画】『最後まで行く』(2023年)
英題:Hard Days / ジャンル:サスペンス、アクション、クライム(犯罪)スリラー
◆映画『最後まで行く』の作品情報
- 【英題】 Hard Days
- 【監督・脚本】 藤井道人
- 【脚本】 平田研也
- 【原作】 基になった作品:韓国映画『A Hard Day』(2014)監督:Kim Seong-hun/製作:Cha Ji-hyun, Billy 他
- 【出演】 岡田准一、綾野剛、広末涼子、磯村勇斗、杉本哲太、柄本明 他
- 【配給】 東宝
- 【公開】 2023年
- 【上映時間】 118分
- 【製作国】 日本
- 【ジャンル】 サスペンス、アクション、クライム(犯罪)スリラー
- 【視聴ツール】 Netflix、自室モニター、HUAWEI
◆キャスト
- 工藤祐司:岡田准一 代表作『ヘルドッグス』(2022年)
- 矢崎一司:綾野剛 代表作『ヤクザと家族 The Family』(2021年)
- 工藤奈津美:広末涼子 代表作『鍵泥棒のメソッド』(2012年)
- 山内警部:磯村勇斗 代表作『PLAN75』(2022年)
- 奥田刑事課長:杉本哲太 代表作『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)
あらすじ
年の瀬の夜、刑事の工藤祐司は、亡き母の通夜へ向かう道中で思わぬ交通事故を起こしてしまいます。検問や職場での監査の気配に追われ、冷静さを欠いた工藤は、痕跡を残さないための苦し紛れの策を取り、どうにか式場へ戻ります。しかし間もなく、出来事のすべてを見ていたと名乗る謎の男から電話が入り、工藤は主導権を握られます。男は証拠を持っていると告げ、指示に従わなければ人生を終わらせると脅します。家族への負い目と職務倫理のはざまで揺れながら、工藤は自分を守るために次の一手を選び続けます。小さな嘘と回避が新たな危機を呼び、追う者と追われる者が入れ替わるように緊張が高まります。事態は一夜のうちに雪だるま式に膨らみ、息つく間のないノンストップ・サスペンスが展開していきます。
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工藤がはねてしまった男の遺体は、通夜の混乱を利用して“ある場所”(母の葬儀に関わる場)へ一時的に隠されます。ところが工藤に連絡してきたのは、所轄の内情に通じた矢崎一司という警察官でした。矢崎は事故と隠蔽を把握したうえで、遺体の回収と引き換えに工藤を脅し、自在に動かそうとします。被害者は矢崎の不正に結びつく重要な「証拠」を握っており、それを取り戻すことが矢崎の最優先でした。工藤は式場、葬祭場、署内の保管庫、トンネルや立体駐車場などを転々としながら、証拠を巡る主導権争いに挑みます。取引はたちまち裏切り合いへと変質し、矢崎の罠が連鎖的に跳ね返ります。最終局面で工藤は証拠の所在をめぐる読み合いに勝ち、矢崎の不正と犯行の実態を突きつけます。追跡は終着点へ収束し、工藤は極限の一夜を越えて、自ら選んだ行為の代償と向き合うことになります。
考察と感想
映画『最後まで行く』(2023年)は、韓国映画の傑作をベースにしたリメイク作品だが、単なる焼き直しではなく、日本的な情感と倫理観を織り交ぜた緊張感が漂うサスペンスに仕上がっていた。主演の岡田准一が演じる刑事・工藤祐司は、「正義」と「生存本能」の境界線で揺れる男。母の死、仕事上のプレッシャー、そして突発的な事故。追い詰められた人間の行動がいかに理性を失っていくかを、汗と息づかいのリアリティで描ききっていたのが見事だった。
岡田の演技は、派手さではなく“重さ”で攻めてくる。言葉を発さずとも、目線と呼吸で観客に葛藤を伝える。彼の顔に浮かぶ焦燥感や、車中で震える手の動きから、追い詰められた人間のリアルな恐怖が伝わる。一方、矢崎を演じた綾野剛は、狂気と冷静を往復するような存在感を放っていた。柔らかな口調で人を追い詰め、笑いながら地獄に落とすような演技は圧巻。善悪の区別が曖昧な現代社会において、「悪の中の正義」や「正義の中の悪」を体現したキャラクターだった。
リメイク版ならではの面白さは、“日本の空気感”が加わった点だと思う。韓国版はよりドライで暴力的なノワールだったが、日本版では「母親の葬儀」という文化的背景を巧みに使い、情や義理、家族の絆といった情緒的な要素を絡めている。罪の隠蔽と供養の場が重なることで、宗教的・倫理的なテーマ性が強くなっていたのが印象的だった。単なる逃亡劇ではなく、「命の重み」と「赦しの不在」を問う社会派ドラマとして成立している。
演出面では、藤井道人監督らしい緻密なカメラワークと、緊迫した編集リズムが冴えていた。特に、トンネルの暗闇や雨に濡れた道路、狭い廊下など、閉塞的な空間の中で展開するアクションは、息が詰まるような臨場感を生み出していた。派手な爆発やド派手なカーチェイスはないが、観ている側が思わず肩に力が入るような「現実的な追い詰め方」が巧い。こういう“静かな緊張”の描き方は、日本映画の良心だと思う。
また、この映画のテーマを掘り下げてみると、「人間の嘘の積み重ね」がいかに取り返しのつかない事態を招くか、という教訓がある。最初は小さな嘘。事故の隠蔽。だがその嘘を守るために、次の嘘をつき、さらに大きな罪を重ねていく。その過程がリアルで、観ていて自分にも思い当たる節がある。人は自分を守るために、どこまで汚れることができるのか――。それを極限の状況で描いたのがこの作品だ。工藤は悪人ではない。ただ、弱かった。誰にでも起こりうる“転落の一歩”を描いた点に、この映画の恐ろしさと普遍性がある。
音楽の使い方も抑制が効いていて良かった。過剰な劇伴を排除し、車のエンジン音や雨音、電話の着信音が心理描写として機能していた。静寂の中に鳴る些細な音が、観客の心拍数を上げる。つまり、この映画は「音で観客を追い詰める」サスペンスでもある。上映時間が進むほど、音の密度が増していく演出構成は見事だった。
終盤の展開は韓国版を知っている人にも新鮮に映るよう調整されており、「罪を暴く者が同時に罪人でもある」という二重構造がより強調されている。最後に工藤が見せる“あの表情”には、後悔だけでなく、どこか清算のような安堵もあった。人は完全に救われることはないが、赦されることを願って生きる。それが本作の核心だと思う。
全体的に、リメイクの枠を超えて“日本の倫理と罪のドラマ”として成立している。韓国映画の骨格に、日本社会特有の「責任」「恥」「情」の感覚を融合させたこの作品は、間違いなく2023年邦画の中でも完成度の高いサスペンスの一つだった。観終わった後、ただスリルを味わうだけではなく、「自分だったらどうしたか」を考えさせられる――そんな後味を残す一作だ。

momoko
「岡田准一さんってもっと強い役をやっているイメージが強くて今回は驚いたわ。」

yoribou
「こう言う岡田准一を観るのも良いんじゃない?警官なのに弱い岡田准一。」
もて男目線での考察
もてる男は、危機の時こそ冷静だ。工藤のように焦って隠そうとするより、潔く自分の非を認めたほうが“信頼”を得る。人は完璧さよりも、誠実さに惹かれる。どんなに格好つけても、嘘の上には愛も築けない。結局、モテる男は「逃げない男」。罪も過去も受け止めて前に進む強さこそ、最後まで行ける魅力だと思う。
◆教訓、学び
嘘で繕うより、正直に謝る勇気を持つ男が、最後まで信頼されてモテる。
◆似ているテイストの作品
-
『PLAN75』(2022年/日本)
高齢者の生と死の境界を静かに描く社会派ドラマ。制度や正義の名のもとに人間の尊厳が切り捨てられていく構図は、『最後まで行く』の“正義の裏側”と深く共鳴する。 -
『渇水』(2023年/日本)
社会に翻弄されながらも「生きる意味」を問う人間ドラマ。水道を止めるという職務と罪悪感の間で揺れる主人公の姿が、『最後まで行く』の工藤刑事と重なる。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
---|---|---|
ストーリー | 18 / 20 | 母の葬儀と事故の隠蔽という日常と非日常の交錯が巧みで、追い詰められる男の心理がリアル。小さな嘘が大きな悲劇に変わる構成が秀逸。 |
演技 | 19 / 20 | 岡田准一の静かな焦燥と綾野剛の狂気的な冷酷さがぶつかり合う。二人の間に走る緊張が全シーンに電流のように流れていた。 |
映像・演出 | 18 / 20 | 雨・夜・車内という閉ざされた空間演出が緊張感を高め、藤井道人監督の繊細なカメラワークが“逃げ場のない一夜”を描き切る。 |
感情の揺さぶり | 17 / 20 | 正義と生存の間で苦悩する工藤の姿に、人間の弱さと哀しさを感じる。観る者にも「自分ならどうするか」を突きつけてくる。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 17 / 20 | 韓国版をベースにしながらも、日本特有の情や倫理観を織り込み、罪と赦しの物語として再構築。リメイクの枠を超えた完成度。 |
合計 | 89 / 100 | 人間の弱さと正義の境界を描き切った、息詰まるノンストップ・サスペンス。岡田×綾野の対峙が生む重圧は圧巻。 |
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