◆映画『モービウス』(2022年)レビュー
◆作品情報
監督 | ダニエル・エスピノーサ |
脚本 | マット・サザマ、パーク・シャープレス |
原作 | ルイ・トーマス、ギル・ケイン『モービウス・ザ・リヴィング・ヴァンパイア』 |
出演 | ジャレット・レト、マット・スミス、アドリア・アルホナ 他 |
配給 | ソニー・ピクチャーズ リリーシング |
公開 | 2022年 |
上映時間 | 108分 |
製作国 | アメリカ |
ジャンル | スーパーヒーロー映画、アクション、サスペンス |
視聴ツール | Amazon Prime、自室モニター、Technics EAH-AZ100-K |
◆キャスト
- マイケル・モービウス:ジャレッド・レト 代表作『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013年)
- ルシアン/マイロ:マット・スミス 代表作『ドクター・フー』(2005年〜)
- マルティーヌ・バンクロフト:アドリア・アルホナ 代表作『パシフィック・リム:アップライジング』(2018年)
- エミール・ニコラス:ジャレッド・ハリス 代表作『チェルノブイリ』(2019年)
- サイモン・ストラウド:タイリース・ギブソン 代表作『ワイルド・スピード』(2001年〜)
◆あらすじ
天才的な頭脳を持つ医師マイケル・モービウスは、生まれながらにして血液の難病を抱え、幼少期から死と隣り合わせの人生を送ってきた。病を治すために医師の道へ進み、世界的にも高い評価を受ける研究者へと成長するが、病は完治せず、同じ疾患に苦しむ親友マイロと余命を意識しながら過ごしていた。そんな中、モービウスはコウモリの持つ特異な遺伝子に治療の可能性を見出す。禁断の実験を繰り返す彼は、希望と狂気の狭間で人間の限界を超える一歩手前に立つ。命を救うための研究は人類を導く光か、それとも破滅の影か。モービウスの選択は、運命を大きく変えていく。
ここからネタバレありです
▼ ネタバレあらすじを表示する
モービウスは研究の成果として血清を完成させ、同僚マルティーヌと共に実験を実行する。海上のタンカーで血清を投与した瞬間、彼の身体は異形の力に変貌し、周囲の傭兵を抑えきれず惨殺してしまう。彼は超人的な力と蝙蝠のような感覚を得た一方で、強烈な血への渇望を抱えるようになる。その秘密を知ったマイロは自らも血清を手に入れ、制御不能の怪物へと堕ちる。かつての親友同士は互いの理念を抱えながら激突する運命を辿る。破壊か人類の守護か──暗闇の死闘の果てに下す決断が世界を左右する。
◆考察と感想(俺目線)
本作、『モービウス』を観終えてまず感じたのは、この作品がスーパーヒーロー映画でありながらも、従来のマーベル作品の持つカラフルさや明快な勧善懲悪の構造をあえて外し、病と生のリアリティを土台に据えているという点だ。モービウスは、生まれながらにして血液の難病を抱え、常に死と隣り合わせの人生を強いられてきた。その境遇は観客にとって遠い存在のようでいて、同時に「生きたい」「健康でありたい」という普遍的な欲望を通じて強く共感できる。彼はただの科学者でもヒーローでもなく、命を繋ぎとめるために手段を選ばなかった一人の人間だ。
彼が手にしたのは、コウモリの遺伝子を組み込んだ禁断の治療。普通のヒーローなら「力を授かる」という祝福的な描写が多いが、本作では力の獲得が同時に呪いとして襲いかかる。圧倒的な身体能力と感覚を手にした代わりに、血への渇望という抗いがたい本能に支配される。ここに、本作の最大のテーマがあると感じた。つまり「人は生を求めるあまり、人間性を失ってでも延命を望むのか」という問いだ。この問いは決してファンタジーの世界に留まらない。現代医療が進む中で、生命の質と延命のバランスが常に議論されるように、モービウスの選択は現実の医療倫理をも突きつけている。
また、親友マイロとの関係性も重要だ。マイロは同じ病を抱えながらも、金銭的な余裕や享楽的な性格を持ち合わせており、モービウスを支えると同時に「自分も治療を受けたい」という欲望に突き動かされる。結果として、彼は抑えきれない怪物へと堕ち、かつての友情は血に塗られた戦いに変わってしまう。ここには「同じ苦しみを抱えた者が、力を手にした時にどのように分岐するか」という皮肉な対比が描かれている。モービウスは葛藤しながらも人間性を保とうとし、マイロは快楽に飲まれて破壊者となる。その二人の姿は、表裏一体の存在であり、もしモービウスが一歩踏み外していれば同じ結末を迎えていたのかもしれない。
映画全体のトーンは、従来のマーベル映画よりも圧倒的にダークだ。夜の街を疾走するモービウスの姿、血に引き寄せられる本能との格闘、そして蝙蝠の群れを操るラストのイメージなど、ゴシックホラー的な演出が多く取り入れられている。そのため、アメコミ映画としては異端的に感じるかもしれないが、むしろ「モンスター映画」としての系譜に連なる作品として観るとしっくりくる。『ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』といった古典的怪物譚を現代的に置き換えた存在として、モービウスは位置づけられるのだ。
ただし、物語構造や演出の粗さも目立つ。展開の速さやキャラクターの動機付けの浅さは、批評家が低評価をつけた理由の一つだろう。特にFBI捜査官の存在はストーリー上やや機能不全で、全体を引き締める役割にはなりきれていなかったように思う。しかし、個人的にはそうした欠点を補って余りあるほど、ジャレッド・レトの演技が光っていた。彼の繊細な表情、病に苛まれる弱さと超人的な力を得た後の苦悩、その振れ幅の演技は観客にリアリティを与えていた。
『モービウス』をどう捉えるかは人によって分かれるだろう。アクション大作を求める人には物足りなく、王道ヒーロー像を期待する人には違和感を覚えるかもしれない。しかし、生命の価値や人間性の境界線を考える作品として観ると、深い問いを突きつけてくる映画だった。俺は、この作品を「単なる失敗作」と切り捨てるのではなく、「ダークヒーロー映画の挑戦」として記憶に残したいと思う。モービウスは、観る者に「人間とは何か」を考えさせる存在であり、その曖昧さこそが本作の魅力だと感じた。
◆モテ男目線の考察(200字)
『モービウス』を観て思うのは、モテる男も同じく「力の扱い方」が試されるということだ。手にした力を自己満足や快楽のために使えばマイロのように孤独に堕ちる。だが、苦しみを抱えつつも他人を守ろうとする姿勢は、女性からも信頼される。結局モテる男は、闇を背負いながらも優しさを失わない。その強さと弱さのバランスこそが、人を惹きつける最大の要因だと思う。
◆似ているテイストの作品
-
『ジョーカー』(2019年/アメリカ)
社会に追い詰められた男が怪物へと変貌していく衝撃作。
モービウスの「苦悩と狂気」のテーマと深く共鳴する。 -
『声 姿なき犯罪者』(2019年/中国)
声だけで翻弄する犯罪者に追い詰められる緊張感あふれるサスペンス。
正体の見えない恐怖が『モービウス』の怪物性とリンクする。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
---|---|---|
ストーリー | 17 / 20 | 病と力の狭間でもがくモービウスの姿が印象的だった。 |
演技 | 18 / 20 | ジャレッド・レトの繊細な演技が光り、苦悩が伝わった。 |
映像・演出 | 17 / 20 | ダークな映像美と蝙蝠を操る演出が雰囲気を際立たせた。 |
感情の揺さぶり | 17 / 20 | 親友との対立や自身の葛藤に胸を締めつけられた。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 17 / 20 | ダークヒーローの宿命と医療倫理を絡めた挑戦的な作品。 |
合計 | 86 / 100 | 賛否あるが、人間の闇と希望を描いた挑戦的ヒーロー映画。 |
🎵 映画の臨場感を高めるおすすめシアターバー
『モービウス』のダークな映像美や迫力あるサウンドは、シアターバーで再生することで一層引き立ちます。
自宅を映画館のような没入空間に変えて、吸血鬼の世界観を体感してみませんか?
コメント