『クロガラス2』(2019)レビュー|解決屋の流儀と「守り方の美学」
新宿・歌舞伎町を舞台に、若さの危うさと裏社会の論理が交差する。甘さと冷徹さ、その両方で守る物語。
◆作品情報
- 監督・脚本:小南敏也
- 配給:エイベックス・ピクチャーズ
- 公開:2019年
- 上映時間:73分
- 製作国:日本
- ジャンル:サスペンス、アクション、クライムドラマ
- 視聴ツール:Netflix、自室モニター
◆キャスト
- 黒斗:崎山つばさ 代表作『ミュージカル 刀剣乱舞』(2016年〜舞台)
- 悠哉:植田圭輔 代表作『舞台 弱虫ペダル』(2012年〜舞台)
- 亜衣:岡本夏美 代表作『賭ケグルイ』(2019年)
- 和輝:西川俊介 代表作『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(2015年)
- 舞衣:出口亜梨沙 代表作『不能犯』(2018年)
◆あらすじ
『クロガラス2』(2019)あらすじ(ネタバレなし)
新宿・歌舞伎町。金さえ払えばどんな揉め事でも片を付ける「解決屋」クロガラスのもとに、あどけなさの残る女子高生・千鶴と美音が現れる。千鶴は援助交際グループ〈JKC〉のリーダーで、仲間の少女たちを束ねて荒稼ぎしていたが、街のチンピラからみかじめ料をゆすられているという。黒斗が提示した解決料は250万円。ところが千鶴は一千万円超の札束が入ったカバンを開き、即金で依頼を成立させる。調査に乗り出した黒斗と悠哉は、簡単には片付かない気配と、少女たちを取り巻く歪んだ力関係に違和感を覚える。やがて、情報が漏れている可能性、裏社会の勢力やホストクラブに連なる思惑など、依頼の影にいくつもの糸がのぞき始める。一見単純な“カツアゲ退治”に見えた案件は、千鶴自身の立場と仲間の安全、そしてクロガラスのやり方までも揺さぶる事態へと発展していく。
ここからネタバレありです
ネタバレあり(クリックで開閉)
【ここからネタバレあり】黒斗たちはまず千鶴を脅していたチンピラの線を潰し、資金の流れと接点を洗う。一度は示談めいた形で片が付くが、直後に千鶴の個人情報がネット上に晒され、JKCのメンバーにも危険が及ぶ。漏えい源の裏には、歌舞伎町を牛耳る加奈井組と、その傘下にあるホストクラブの利権が絡んでいる疑いが濃厚に。黒斗と悠哉は誘い出し用の“餌”と証拠確保を同時に仕掛け、相手の弱みを握って交渉へ。依頼料の回収と安全確保だけでなく、二度と手出しできない条件を呑ませることで事態を収束させる。しかし、金で回る街の論理は厳然として残り、千鶴が選んだ稼ぎ方の代償もまた消えない――。
黒斗は“被害者面する加害”を許さない姿勢で、拡散アカウントの裏取り、脅迫に使われた端末と金の受け渡し記録を突き合わせ、逃げ道を塞ぐ。加奈井には面子を保てる落としどころを示しつつ、未成年絡みの線は即時手仕舞い、関連データの消去と再発防止の誓約を文書化させる。千鶴は強さと危うさの両方を抱えたまま、“守るべきもの”を自分で選ぶ段に立つ。クロガラスの方法は痛烈だが、彼らなりの流儀で少女たちの居場所を残して幕を閉じる。黒斗の背中は静かに重い。
出典: 公式サイトのストーリー・キャラクター紹介と作品データ、ならびに主要データベースの解説・あらすじを参照しました。
◆考察と感想
『クロガラス2』は、前作の熱量を受け継ぎながら、さらに人間関係の複雑さと裏社会のリアリティを掘り下げてきた作品だ。俺が最初に強く感じたのは、「依頼者がまだ未熟な少女であること」の重さだ。繁華街を舞台にしている時点で大人の世界だと思い込んでいたが、そこで生きようとする若さが持つ危うさを突きつけられる。黒斗と悠哉は確かに頼れる存在であり、暴力も策略も使い分ける解決屋だが、彼らに舞い込む依頼は“正義”のためではなく、金を介してしか成立しない。ここがこのシリーズの魅力でもあり、後味の苦さを生む要素でもある。
千鶴や亜衣といった少女たちが選んでしまった道は、決して「自由」でも「自己責任」で片付けられない。社会の隙間に生まれる搾取構造が、彼女たちを自然と巻き込んでいく。俺は観ていて「もし自分が黒斗の立場ならどう動くだろう」と何度も自問した。250万円という解決料は、単なる金額の提示ではなく、命や未来のリスクを数値化したものだ。その額を即金で払える千鶴の存在自体が、既に普通の高校生活から逸脱している証拠であり、見ていて背筋が冷えるシーンだった。
物語後半で明らかになる裏の勢力の存在は、単なるチンピラの脅し以上に街全体の闇を映し出していた。加奈井組の影やホストクラブの思惑など、“歌舞伎町という生態系”が浮かび上がる。そこに少女たちの未熟さが入り込むことで、事件は複雑さを増す。黒斗たちの戦い方は直線的ではなく、情報戦や心理戦を交えながら相手を締め上げる。俺はこのプロセスを「生きる術」として見ていた。単なる暴力沙汰ではなく、どうすれば相手の逃げ道を断ち、再発を防ぐか。その冷徹さに妙な説得力がある。
シリーズを通して感じるのは「依頼者もまた加害者である場合がある」という視点だ。千鶴は被害者でありながら、自分より弱い仲間を使って稼ぐ立場にあった。その歪んだ関係性が彼女自身を脅かす結果になっていく。俺はここに、この作品の最大のテーマを感じた。“守られるべき少女”のはずが、実はその存在が新たな搾取の起点になっているという皮肉。だからこそ、黒斗たちは同情だけでは動かない。金という条件を突きつけることで、依頼者に選択の責任を持たせるのだ。そこには善悪を単純に分けない、シビアなリアリズムがある。
映像的には、歌舞伎町のネオンや路地裏の空気感が濃厚に描かれていて、舞台演劇出身のキャスト陣の芝居が映える。黒斗を演じる崎山つばさの存在感はやはり大きく、単なるアクションヒーローではなく、冷静でいて情のあるリーダー像を体現していた。悠哉役の植田圭輔との掛け合いも、緊張感の中に兄弟的な信頼が見える。俺はそこに「血よりも濃い絆」を感じ、シリーズを支える柱だと改めて思った。
感想として強く残ったのは、「弱さを抱えた依頼者」と「強さを体現する解決屋」の対比だ。クロガラスのやり方は決してきれいごとではないし、依頼者を必ず救い上げるわけでもない。むしろ「救うためには痛みを伴う」と突きつける。その厳しさに、俺はある種の誠実さを見た。現実の社会でも、トラブルは一瞬で消えるわけではない。黒斗たちが示すのは「解決」と同時に「代償」であり、それを飲み込めるかどうかが依頼者の人生を分ける。観終わった後に残る苦さと余韻こそ、この映画の真価だと俺は感じている。
総じて『クロガラス2』は、前作以上に人間の欲望と弱さに切り込んだ作品だった。俺にとっては「解決屋」という存在がただのフィクションの枠を超え、現実に置き換えて考えたくなるリアリティを持っていた。自分の弱さや周囲の関係性の歪みをどう直視するか。それを考えるきっかけをくれる、強烈な一本だ。

momoko「崎山つばさって人、どんどんこの役が馴染んで見えるわ。」

yoribou「舞台俳優から映画の世界に来て、どんどん自分の見せ方が分かって来たってことかな。」
◆モテ男の考察
『クロガラス2』で学べるのは「守り方の美学」だ。黒斗は甘い言葉ではなく、冷徹な条件を突きつけ、依頼者に責任を背負わせる。これは恋愛でも同じで、相手を本当に大切にするなら、時に厳しさを見せなければならない。優しさだけでは頼りなく、冷たさだけでは心が離れる。両方を併せ持つことで女性は「この人は本物だ」と感じる。モテる男は、甘さと冷徹さのバランスを持っているのだ。
◆教訓・学び
本気で人を守るには、甘さと厳しさを併せ持つ覚悟が必要だ。
◆あわせて観てほしい
映画『渇水』(2023年)の紹介はこちら
水道料金滞納世帯を訪ね歩く職員が、社会の底に潜む貧困と家族の崩壊に直面する人間ドラマ。
『クロガラス2』同様、“社会の歪みと若者の無力感”をリアルに描く。
映画『ザ・ガーディアン/守護者』(2019年)の紹介はこちら
傷を抱えた青年が裏社会で抗う姿を描いたクライムドラマ。
『クロガラス2』と同じく、“暴力と救済の狭間で揺れる人間模様”が胸に残る。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
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ストーリー | 19 / 20 | 歌舞伎町は、人間の欲望が渦巻いている。その中のトラブル解決を生業として彼らは商売しているが、金貸しではなく、問題解決がメイン。それだけに、課題、章は幾らでも生産できると思う。 |
演技 | 19 / 20 | 崎山つばさの仕草にだんだん慣れてきた。この後、病みつきになったりして。 |
映像・演出 | 18 / 20 | ストーリーの裏話の進行が無いので、そこが今一つか。 |
感情の揺さぶり | 17 / 20 | この手の話、映画はまぁまぁ有るので、そんなに感情に刺さるようなことは無い。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 17 / 20 | オリジナリティ、テーマ性は、ほどほどにある。この崎山率いる軍団が無ければ、酷い世界になりそう。 |
合計 | 90 / 100 | 本作は最終的には、悪は無くならないのでハッピーエンドは望めないと考えている。 |
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