◆【映画】『PERFECT DAYS』の作品情報
【原題】Perfect Days
【監督・脚本】ヴィム・ヴェンダース
【脚本】高崎卓馬
【製作総指揮・出演】役所広司
【出演】柄本時生、麻生祐未、石川さゆり、三浦友和他
【配給】ビーターズ・エンド
【公開】2023年
【上映時間】124分
【製作国】日本、ドイツ
【ジャンル】ヒューマンドラマ、アート系ドラマ
【視聴ツール】Amazon Prime、自室モニター
◆キャスト
- 平山:役所広司 代表作『Shall we ダンス?』(1996年)
- タカシ:柄本時生 代表作『わたし達はおとな』(2022年)
- アヤ:アオイヤマダ 代表作『ホリック xxxHOLiC』(2022年)
- ニコ:中野有紗 代表作『愛のゆくえ』(2024年)
- ママ:石川さゆり 代表作『旅の終りに』(1973年)
◆あらすじ
東京スカイツリーの近く、古びたアパートに一人で暮らす中年のトイレ清掃員・平山。彼は毎朝まだ暗いうちに起き、決まった順序で身支度を整え、ワゴン車で渋谷区内の公衆トイレを巡る生活を送っています。昼には神社の境内でお弁当を広げ、木々を見上げながら小さな自然の変化を楽しむ。夜は銭湯に寄り、浅草の地下食堂で質素な食事を済ませ、帰宅して文庫本を読みながら眠りにつきます。そんな平山の日々は一見単調ですが、彼の中には穏やかな充実と静かな喜びが満ちています。仕事仲間の若者タカシや、街で出会う人々とのわずかな交流の中に、彼は“生きること”の意味を静かに見いだしていきます。
      ここからネタバレありです
    
ある日、平山はタカシの恋人・アヤと偶然出会い、彼女に貸したカセットテープをきっかけに不思議な心の交流が生まれます。その音楽に涙を流すアヤの姿は、平山の心の奥にしまわれた何かを呼び覚ますものでした。やがて家出してきた姪のニコが現れ、平山の日常は少しずつ変化していきます。無口で感情を見せなかった彼が、人との関わりを通じて再び“心”を取り戻していく過程が、淡々と、しかし深く描かれます。終盤、彼は思いがけない出会いと別れを経て、涙と笑いの交錯する表情を見せます。その瞬間、平山の目に映る東京の風景がまるで別世界のように輝いて見える――静寂の中に、生きる希望が確かに息づいています。
◆考察と感想
『PERFECT DAYS』は、静かで淡々としているのに、心の奥を激しく揺さぶってくる不思議な映画だった。ヴィム・ヴェンダース監督は、これまで何度も「旅」や「時間」をテーマにしてきたが、本作では“動かない旅”とも言えるような東京の日常を描く。平山の一日は、毎朝同じように始まり、同じように終わる。だが、その繰り返しの中にある「微細な変化」こそが人生の本質だと、静かに語りかけてくる。

平山は特別なことをしない。トイレを磨き、木々を撮り、銭湯に行き、寝る。それだけの生活を描いているのに、観ているうちに自分の呼吸が整っていくような感覚を覚えた。世の中は常に速く、効率を求めるが、平山の世界には「時間を味わう」という贅沢がある。公衆トイレという舞台がまた象徴的で、人が無意識に通り過ぎる場所を、彼は全身で慈しむ。誰も気に留めない場所を美しく保ち続けるその姿は、まるで現代社会への静かな抵抗のようにも見えた。
特に印象的だったのは、彼が昼休みに木々を見上げて写真を撮る場面だ。あの一瞬にこそ、“生きている実感”が凝縮されている。何かを手に入れるのではなく、ただ「見る」「感じる」「残す」という行為そのものが尊い。ヴェンダースのカメラはそれを決して説明的に捉えず、光の揺らめきや風の音とともに、観る者の記憶の深層に染み込ませてくる。まるで一枚の詩のようだ。
また、アヤ(アオイヤマダ)とのエピソードは、平山の内面を映す鏡のようでもあった。カセットテープをめぐるやり取りには、「人と人が音を通じてつながる」原初的な優しさがある。音楽を聴き、涙を流すアヤの姿に、かつての自分を重ねたのかもしれない。無言のまま手を差し出すような関係に、ヴェンダースらしい人間愛があふれていた。

さらに、姪のニコの登場は、平山にとって過去と現在を結ぶ重要な存在だった。彼女との時間を通して、平山は再び「人と関わる」ということを思い出していく。長年一人で生きてきた男の心に、少しずつ温かい光が差し込んでいく過程が、何とも切ない。役所広司の演技はまさに職人芸で、セリフよりも表情や間で語る。そのわずかな笑顔、沈黙、視線の揺れに、彼の人生の重みがすべて詰まっていた。
終盤の車内のシーンで、涙と笑みが同時にこぼれる平山の表情を見た瞬間、この映画が何を伝えようとしているのかが一気に分かった。人生は完璧ではない。だが、その「不完全さ」こそが人を愛おしくする。過去の痛みも、孤独も、誰にも見せない優しさも、全部を抱えたまま今日を生きる。それを“完璧な日々”と呼ぶのだと。ヴェンダースは、平山を通して「静けさの中にある歓び」を見事に描き出していた。
観終わった後、東京の街がまるで別の都市に見えた。コンビニの灯り、歩く人々、風に揺れる木々。そのすべてが生きている証のように感じた。何も起こらないようで、実はすべてが奇跡の連続なんだと気づかされる。『PERFECT DAYS』は、映画というより「人生の断片を美しく写した詩」だと思う。静かに心の奥底を温めるような、そんな体験だった。
平山の生き方には“静かな余裕”がある。派手さはなくても、自分のペースで生きる姿は圧倒的に魅力的だ。清潔感があり、言葉少なでも誠実。女性が惹かれるのは、外見よりも「安定と安心」を感じさせる男だと、この映画が教えてくれる。何も語らずとも伝わる男の品格、それがモテの本質だ。
◆教訓・学び
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◆評価
| 項目 | 点数 | コメント | 
|---|---|---|
| ストーリー | 19 / 20 | 派手な事件はないが、平山の日常を通じて“生きることの意味”を静かに掘り下げる構成が見事。小さな出来事の積み重ねが感情の波を生み、観る者の心を優しく包み込む。 | 
| 演技 | 20 / 20 | 役所広司の演技が圧巻。言葉よりも表情と間で感情を伝える力量に息をのむ。アオイヤマダや石川さゆりの存在感も作品世界を豊かに支え、無駄のない表現が深く響く。 | 
| 映像・演出 | 20 / 20 | ヴィム・ヴェンダース監督特有の静謐な映像美が際立つ。光と影、風と音のバランスが完璧で、何気ない瞬間を永遠のように切り取る。映像がそのまま詩になっている。 | 
| 感情の揺さぶり | 18 / 20 | 静けさの中に潜む深い感情のうねりがある。涙も笑いもないのに、なぜか胸が熱くなる。観る者それぞれの人生を思い出させる“心のリフレクション”を感じる作品。 | 
| オリジナリティ・テーマ性 | 19 / 20 | “完璧な日々”という逆説的なテーマを、シンプルな構造で普遍化。西洋監督が日本の美意識をここまで繊細に描いた点も独創的。静寂をもって語る哲学が深く残る。 | 
| 合計 | 96 / 100 | 人生を声高に語らず、ただ丁寧に生きることの尊さを描いた傑作。派手な演出に頼らず、光と音と沈黙だけで“生きる美しさ”を表現する。まさに心を整える映画。 | 
◆総括
『PERFECT DAYS』は、派手な事件も、劇的な変化もない。それでも、観る者の心に深く残るのは、この映画が“生きること”そのものを静かに描いているからだ。平山という男の日常には、誰の中にもある孤独や希望、そしてわずかな光が詰まっている。何かを手に入れるためでも、誰かに認められるためでもなく、ただ誠実に日々を積み重ねていく。その行為こそが人生の尊厳であり、ヴェンダースはそれを一点の誇張もなく映し出した。
映像は無駄がなく、構図のすべてに意図がある。光の差し込み方、風の揺れ、音の余白。どの瞬間にも“生きる実感”が宿っている。とくに役所広司の演技は圧倒的で、わずかな表情の変化に何十年分もの人生が見える。終盤の車内での涙と微笑みは、人生のすべてを受け入れた者だけが到達できる境地だろう。あの一瞬に、過去も未来も、すべてが静かに溶け合っていた。
本作が特別なのは、メッセージを押しつけないことだ。「生き方」や「幸福」について多くを語らず、ただ“見つめる”ことで観客自身に考えさせる。観終わったあと、都会の喧騒の中でも木漏れ日や風の音に意識が向くようになる。それはつまり、私たちが忘れかけていた“今この瞬間を生きる感覚”を呼び戻してくれるからだ。
『PERFECT DAYS』というタイトルは、完璧な日々を求める話ではない。むしろ、不完全な日々の中にも美しさがあることを教えてくれる。孤独であっても、人は世界とつながっている。静けさの中に心の鼓動がある。そんなささやかな真実を見つけたとき、誰にでも「完璧な日」は訪れるのかもしれない。この映画は、その瞬間を優しく照らす“光”のような作品だ。
◆『PERFECT DAYS』の風景に寄り添うアイテム
        東京の朝。スカイツリーを見上げながら、公園で一息つく平山の姿が思い浮かぶ。
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