【映画】『それでもボクはやってない』(2007年) 冤罪と闘う青年の孤独と正義への渇望を描く、魂を揺さぶる司法ドラマ | ネタバレあらすじと感想

ドラマ

🎬 映画『それでもボクはやってない』作品情報

監督・脚本 周防正行
出演 加瀬亮、瀬戸朝香、もたいまさこ、小日向文世、役所広司 他
配給 東宝
公開 2007年
上映時間 143分
製作国 日本
ジャンル 社会派ドラマ、法廷劇
視聴ツール Netflix、自室モニター

🎭 キャスト

  • 金子徹平:加瀬亮 代表作『重力ピエロ』(2009年)
  • 須藤理恵:瀬戸朝香 代表作『パーフェクトラブ!』(1999年)
  • 荒川正義:役所広司 代表作『Shall we ダンス?』(1996年)
  • 柏木雅子:小日向文世 代表作『コンフィデンスマンJP』(2019年)
  • 田中孝:山本耕史 代表作『新選組!』(2004年)


📖 『それでもボクはやってない』(2007年)あらすじ

◆前半(ネタバレなし)

フリーターの金子徹平は、ある朝、就職面接へ向かう途中、満員電車内で女子中学生に痴漢の疑いをかけられてしまいます。身に覚えのない徹平はその場で無実を訴えるものの、警察署に連行され、取り調べを受けることになります。日本の刑事司法では、痴漢事件でも被害者の証言が重視され、物的証拠が乏しい場合でも有罪判決が下ることが多い現実があります。徹平は「やっていない」という一点張りを崩さず、示談や自白を拒否しますが、その選択は予想以上に過酷な戦いの幕開けでした。母親や友人、知人らの支えを受けながらも、長期にわたる裁判が始まり、彼の人生は一変していきます。本作は、冤罪をテーマに、現代日本の刑事裁判制度や警察・検察の取り調べのあり方を鋭く問いかける法廷劇です。観る者に、もし自分が同じ立場になったらどうするかを突きつけます。

◆後半(ここからネタバレあり)

ここからネタバレありです(クリックで展開)

徹平は一貫して無実を訴え、敏腕弁護士の荒川正義とその助手・須藤理恵のサポートを受けながら公判に臨みます。検察側は被害者の証言を基盤に起訴を進め、証拠とされるのは彼女の供述と目撃証言程度。弁護側は防犯カメラ映像や乗車状況の再現、証言の矛盾を突くことで徹平の無罪を主張しますが、裁判は長期化し、徹平の精神と生活は疲弊していきます。第一審では有罪判決が下り、懲役1年の刑が言い渡されます。控訴審でも状況は変わらず、最高裁まで争うも棄却され、刑が確定。徹平は収監され、社会復帰の道は険しいものとなります。裁判の過程で描かれるのは、合理的疑いが残るにも関わらず有罪とされる日本の刑事裁判の現実と、その中で闘い続ける個人の孤独です。ラストは、判決に納得できない徹平の表情が深く胸に残り、観客に司法制度の在り方を問いかけます。

💭 考察と感想

本作、『それでもボクはやってない』は、日本の刑事司法制度の構造的欠陥を真正面から描いた作品だ。
痴漢冤罪というテーマはセンシティブでありながら、監督の周防正行は過剰な演出や感情的な煽りを避け、極めてドキュメンタリー的な筆致で物語を進める。
その結果、観客は主人公・金子徹平の視点を通して、取調室や法廷での一挙手一投足を自分事のように体感できる。

まず特筆すべきは、痴漢事件の立証構造と「有罪率99%以上」という日本の刑事裁判の異常な実態を、フィクションを通して可視化した点だ。
劇中では、被害者証言の信用性や、物証の乏しさを補うための証言の積み重ねが描かれる。
だが、それらは一度「犯人」というレッテルが貼られた被告にとって圧倒的に不利に働く。
徹平の「やっていない」という言葉は、取り調べでは面倒な被疑者の態度として扱われ、裁判では被害者の心情を傷つける加害的な姿勢として印象付けられる。
この構造が、観客に強い理不尽さと閉塞感を与える。
また、弁護士・荒川の描き方も興味深い。
彼は理詰めで闘う一方、制度の壁に阻まれる現実を熟知している。勝てない裁判に挑む覚悟と、それでも依頼人を守ろうとする信念が同居している。
助手の須藤理恵も、冷静ながら人間味ある視点を提供し、徹平を精神的に支える存在となる。

この二人の弁護活動が、徹平にとって唯一の希望の光だ。
一方で、徹平自身の描写は非常にリアルだ。
最初は正義感と無実の確信で戦う姿勢を崩さないが、裁判の長期化、社会的孤立、就職や人間関係の断絶によって徐々に疲弊していく。
これは単なる裁判の物語ではなく、一人の人間が制度によって人格と人生をすり減らされていく過程の記録でもある。

映像面では、満員電車の圧迫感、取調室の無機質さ、法廷の静けさが際立っている。
カメラワークは淡々としていて、観客に「どう感じるか」を委ねるスタイルだ。
過度なBGMもなく、証言ややりとりの生々しさが強調される。この演出が、リアリティと重苦しさを増幅している。

本作のメッセージは明確だ。
「あなたも同じ目に遭うかもしれない」という警鐘だ。
痴漢冤罪は一部の人間だけの問題ではなく、誰でも偶然や状況次第で被告席に立たされる可能性がある。
そして、一度有罪判決が下されれば、無実を証明するのは極めて困難だ。
これは裁判制度の設計や運用の問題であり、弁護士や裁判官だけでなく、社会全体が向き合うべき課題だと思う。

観終わった後、爽快感は一切ない。
むしろ、制度の硬直性や権力構造への不信感が残る。
しかし、その不快感こそが本作の狙いだと感じる。エンタメとしてのカタルシスを求める観客には重すぎるかもしれないが、社会派映画としての意義は計り知れない。周防監督は『Shall we ダンス?』で人間の喜びを描いたが、本作では真逆のベクトルで人間の苦境を描き切った。
その落差が、監督の表現幅の広さを物語っている。

この映画は、一度観れば忘れられない重みを持つ。
単に「冤罪は怖い」という感想で終わらせず、制度のどこに問題があるのか、どう改善すべきかを考えるきっかけになる。
観客に思考を委ねる終わり方も、議論の余地を残している点で優れている。

総じて、本作は社会派ドラマとして高い完成度を誇り、日本映画における司法ドラマの金字塔だと言える。

💘 モテ目線での考察

冤罪と闘う徹平の姿は、表面的な強がりではなく芯のある誠実さを感じさせる。モテる男は見た目や地位よりも、信念を貫く力が魅力になる。相手や状況に流されず、自分の正しさを信じて行動できる姿は、困難な場面でも頼れる男として女性の心を動かす。本作は、モテの本質が「ブレない生き方」にあることを教えてくれる。

📌 教訓・学び

理不尽な状況でも信念を曲げずに闘う姿こそ、最もモテる男の条件だ。

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無実を主張しながらも司法制度の壁に挑む人間の葛藤を描く社会派ドラマ。
『それでもボクはやってない』同様、個人の信念と理不尽な現実との闘いが物語の核になっている。

⭐ 評価

項目 点数 コメント
ストーリー 20 / 20 この作品は、珠玉の作品。あとに引きずるし一緒に観た人とこれをスルメにあれこれ話ができる。
演技 19 / 20 瀬戸朝香が若いなくらいの感じはあるので、やはり約20年前の作品なりの感じは受ける。それにしても、映画がここまでメッセージ性を運んでくれているのは驚き。
映像・演出 19 / 20 100点に近いとしか言いようがない。法律に詳しくなりたいなどととち狂った思いくらいしか出てこない。
感情の揺さぶり 19 / 20 加瀬亮に完全に憑依してしまった。「控訴だ!こんなもん」と思ってしまった。
オリジナリティ・テーマ性 19 / 20 オリジナリティの塊でしょ。
合計 96 / 100 こんなに古い作品でも、久しぶりに感動した。その内容の濃さに。

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