◆映画『バレリーナ』の作品情報
ポイント短尺93分に、色彩設計×音×無駄のない暴力を圧縮した“洗練系リベンジ・アクション”。
◆キャスト
- チャン・オクジュ:チョン・ジョンソ 代表作『バーニング 劇場版』(2018年)
- チェ・プロ:キム・ジフン 代表作『ペーパー・ハウス・コリア』(2022年)
- チェ・ミンヒ:パク・ユリム 代表作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)
- チョ・デシク:キム・ムヨル 代表作『悪人伝』(2019年)
- ムン・ヨン(姉):チャン・ユンジュ 代表作『ベテラン』(2015年)
◆ネタバレあらすじ
孤独に生きる元要人警護員のオクジュは、久々に親友ミニから呼び出され、彼女の部屋を訪れます。
しかしそこで目にしたのは、ミニが浴室で命を絶っている姿でした。
遺された手紙には、たった一言「復讐して」。
オクジュは悲しみに沈むより先に、ミニが何に怯え、誰に追い詰められたのかを突き止めようと動き出します。
相手は裏社会とつながる危険な男で、周囲には暴力と沈黙のルールが支配しています。
それでもオクジュは、警護員として培った観察眼と冷静な判断、そして格闘と銃器の扱いで、無駄のない手順で距離を詰めていきます。
バレエの優美さと復讐の冷酷さを同居させる色彩設計、ビートの効いた音楽、セリフを絞った演出が特徴で、
短い尺に“美しく無慈悲”なアクションが凝縮されています。
物語は説明を盛り過ぎず、観客に行間を委ねる作りです。
暴力は過激ですが、画面の品とリズムが崩れず、終盤まで走り切る作品です。
ネタバレ詳細(クリックで開く)
ミニが遺した手紙の手がかりから、オクジュは加害者がチェ・プロという男であることを突き止めます。
彼は薬物と性的搾取を背景に女性を脅し、映像データで支配する卑劣な人物でした。
オクジュは単身で彼の周辺を洗い出し、協力者を得ながら武器を調達します。
武器商の老夫婦の店で銃器を試し、さらに決定打として火炎放射器まで手に入れる場面は、
彼女の覚悟が引き返せない地点に達したことを示します。
やがてオクジュは、チェ・プロの部下や取引先、麻薬の製造元、組織の上層へと一直線に攻め込み、
敵を一人ずつ排除していきます。
途中で犠牲者の少女を救い出し、ミニが受けた恐怖の具体像も浮かび上がります。
終盤、海辺でチェ・プロを追い詰めたオクジュは、逃げ道も交渉も与えず制裁を実行し、
ミニの願いを果たします。
復讐の完了と同時に、救われない喪失だけが残り、オクジュの孤独がより深く響く結末です。
終盤は暴力と美の対比が強まり、弔いが映像で刻まれます。
◆考察と感想
バレリーナ
この映画を観てまず思ったのは、「これは説明を放棄した復讐映画」だということだ。
親友がなぜそこまで追い詰められたのか、主人公オクジュがどんな過去を背負ってきたのか、観客に丁寧な言葉ではほとんど語られない。だが、その“語らなさ”こそが本作の核心だ。
オクジュは、悲しみを吐露しない。怒りを叫ばない。正義を語らない。
彼女はただ、動く。淡々と、冷静に、そして迷いなく。

この姿勢は、よくある「復讐=カタルシス」を狙った映画とは決定的に違う。
本作の復讐はスカッとするものではない。むしろ、終始どこか空虚で、冷たく、救いがない。
だがそれは、「復讐は人を救わない」というメッセージではない。もっと残酷で、もっと現実的なことを突きつけてくる。
――復讐とは、感情の発露ではなく、決断だ。
オクジュは怒っているから復讐するのではない。彼女は「やると決めた」から、やる。
感情はすでに処理されている。残っているのは行動だけだ。
ここが、ジョン・ウィック型の復讐と決定的に違う点だ。
ジョン・ウィックは“怒り”で暴れる。オクジュは“沈黙”で殺す。

美しくて、冷酷で、余白だらけで、後味が悪い。だが忘れられない。
それが『バレリーナ』だ。
この映画が教えてくれるのは、「強さ=声の大きさじゃない」ということだ。
オクジュは感情をぶつけない。語らない。誇らない。それでも、行動と覚悟だけで周囲を圧倒する。
もてる男も同じだ。饒舌さやアピールではなく、決断と一貫性が人を惹きつける。
誰かの尊厳を踏みにじらないこと。弱い立場に想像力を持てること。それが静かな色気になる。
強さは、見せるものじゃない。背中で伝わるものだ。
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◆教訓、学び
◆似ているテイストの作品
-
『悪女/AKUJO』(2017年/韓国)
主人公の過去と怒りを推進力に、近接格闘と銃撃戦を畳みかけるフィメール・バイオレンスアクション。
“美しく冷酷な復讐”をスタイリッシュな映像とリズムで見せ切る点が、『バレリーナ』の疾走感と直結する。 -
『ベッキー、キレる』(2023年/アメリカ)
ひとりの女性が圧倒的不利な状況でも引かず、容赦なく敵を狩っていく“執念のリベンジ”映画。
感情を叫ばず、行動で決着をつける冷徹さと、やり過ぎ寸前の制裁の痛快さが『バレリーナ』に近い。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 18 / 20 |
親友の死と「復讐して」という遺言だけで、主人公が一直線に突っ走る“引き算の物語”が強い。 背景説明を削ったぶんテンポが鋭く、90分で迷いなく終点まで連れていく構成になっている。 反面、人物の過去や関係性の補助線が少ないため、動機の濃度は観る側の解釈に委ねられる。 |
| 演技 | 18 / 20 |
チョン・ジョンソは“怒りを説明しない”演技で成立させ、目線と間だけで温度を変えるのが巧い。 キム・ジフンは魅力と嫌悪を同居させた悪役像で、画面に出るだけで空気が濁る存在感がある。 パク・ユリムは短い出番でも喪失の重さを残し、復讐の核を静かに固定している。 |
| 映像・演出 | 18 / 20 |
色彩設計と構図が徹底されていて、暴力を“汚さ”だけで終わらせずスタイリッシュに昇華している。 接近戦→銃撃→即座の移動という切り替えが速く、止まらないリズムで観客を置き去りにしない。 ただし演出が美に寄るぶん、痛みの生々しさよりもクールな手触りが前面に出る。 |
| 感情の揺さぶり | 17 / 20 |
泣かせに行くより、「喪失→決断→処理」という冷たい流れで胸を締めつけてくるタイプだ。 主人公が感情を叫ばないからこそ、怒りが“静かな圧”になって画面全体に漂い続ける。 ただ、感情の説明を削っているぶん、深く刺さるかは受け手の没入度に左右されやすい。 |
| オリジナリティ・テーマ性 | 18 / 20 |
「悪いものは悪い」と言い切って殲滅まで走り切る潔さが、現代の鬱屈に対するカウンターとして効く。 女性の尊厳を搾取する男たち vs 連帯する女性たち、という構図が明快でメッセージ性がぶれない。 一方でテーマは直球ゆえ、複雑な社会劇というより“怒りの寓話”としての強度で勝負している。 |
| 合計 | 89 / 100 |
余計な説明を捨て、映像美とスピードと殺意で突き進む“洗練された復讐アクション”。 色彩・構図・音楽のセンスが暴力をスタイリッシュに変換し、90分を一気に駆け抜ける。 人物の掘り下げ不足は残るが、割り切った作りが逆に鋭さと中毒性を生んでいる。 |
◆総括
バレリーナは、復讐というジャンルを“感情の爆発”ではなく、“選択と処理の物語”として描き切った、極めて意志の強い作品だ。
親切な説明も、共感を強要する演出も排し、色彩・構図・音楽・沈黙で語ることで、観る側に解釈を委ねる。
その不親切さは弱点にもなり得るが、同時に本作を忘れがたい一作にしている最大の理由でもある。
美しく、冷酷で、余白が多く、後味は決して良くない。
それでも、尊厳を奪われた者の怒りを歪めず、誤魔化さず、最後まで貫いた姿勢には確かな誠実さがある。
娯楽としてのキレ、映像表現の洗練、そして現代的なテーマ意識が高い次元で交差した、静かに強い復讐映画。
好き嫌いは分かれても、観た者の記憶には確実に残る一本だ。



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