【映画】『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年) 暴力に理由はいらない。愛媛の街で生まれた、破壊と衝動の青春群像劇 | ネタバレあらすじと感想

ドラマ

『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)レビュー

理由なき暴力と若者の衝動を刻む、バイオレンス青春映画。

◆作品情報

監督・脚本 真利子哲也
脚本 喜安浩平
出演 柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎 他
配給 東京テアトル
公開 2016年
上映時間 108分
製作国 日本
ジャンル 青春ドラマ、バイオレンス、クライム(犯罪)
視聴ツール Amazon Prime、自室モニター

◆キャスト

  • 芦原泰良:柳楽優弥 代表作『誰も知らない』(2004年)
  • 北原裕也:菅田将暉 代表作『あゝ、荒野 前篇』(2017年)
  • 那奈:小松菜奈 代表作『渇き。』(2014年)
  • 芦原将太:村上虹郎 代表作『武曲 MUKOKU』(2017年)
  • 健児:北村匠海 代表作『君の膵臓をたべたい』(2017年)

◆ネタバレあらすじ

あらすじ(ネタバレなし)

2011年、愛媛県松山市の港町。幼くして両親を亡くした青年・芦原泰良は、理由もなく街で喧嘩を仕掛ける日々を送っていました。暴力に取り憑かれたかのように、すれ違う人間に拳を振るう姿は、周囲から恐れられると同時に、異様な存在感を放っていきます。そんな泰良に興味を抱いたのが、高校生の北原裕也です。裕也は彼の破壊的な衝動に魅了され、行動を共にするようになります。二人が繁華街や商店街で暴れまわる様子は瞬く間に注目を集め、テレビやインターネットでも取り上げられていきます。次第に彼らの暴力はエスカレートし、やがてキャバクラ嬢の那奈までもが巻き込まれていきます。逃走劇の中で、それぞれの思惑と恐怖、そして抗えない運命が交錯し、予想もできない展開へと突き進んでいくのです。

ここからネタバレありです

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泰良と裕也は暴力の連鎖を拡大させながら街を離れ、盗んだ車で逃走します。車内には無理やり連れ込まれた那奈の姿があり、彼女も否応なく行動を共にすることになります。農村での一件をきっかけに、那奈はある重大な罪を背負い、次第に彼女自身の中にも抑えきれない狂気が芽生えていきます。やがて車を暴走させた那奈によって、裕也は命を落とし、泰良はなおも暴力の衝動に身を委ねて姿をくらまします。一方、港町に残された弟・将太は、兄の存在に苦しみながらも仲間と決裂し、ついには自らも暴力に手を染めていきます。喧嘩御輿の熱気が渦巻く祭りの夜、泰良は警官との衝突で銃声を響かせ、混沌の中に姿を消すのです。暴力の果てに残るものは、破壊と虚無、そして観る者に突きつけられる不安と問いかけでした。

◆考察と感想

本作、映画『ディストラクション・ベイビーズ』を観終えて、まず最初に頭をよぎったのは「暴力はどこから生まれるのか」という問いだった。舞台は2011年の愛媛県松山市。港町のリアルな空気がそのまま切り取られたような背景の中で、柳楽優弥演じる泰良が人々に次々と喧嘩を仕掛ける。観客は彼の暴力に理由を求めようとするが、映画は徹底してその問いに答えない。そこにあるのはただ「殴る」という行為と、それに巻き込まれていく人間の混沌だけだ。この突き放されたような冷酷さが、本作をただの不良映画や暴力映画ではなく、強烈な実存映画に押し上げていると思う。
泰良がなぜ殴るのか。そこに復讐や明確な目的はない。あるのは空虚さと退屈、そして生きている証を確認するかのような肉体的衝動だ。菅田将暉演じる裕也が彼に惹かれていく過程も、観ていて恐ろしい。裕也は最初は戸惑いながらも、その破壊的なエネルギーに取り込まれていく。人は理由もなく暴力に引き寄せられる存在なのかもしれないと考えさせられた。これはSNSやニュースで炎上を追いかける感覚にも近い。暴力は他者を魅了する奇妙な吸引力を持っているのだ。
小松菜奈が演じる那奈の存在も印象的だ。キャバ嬢として生きる彼女は、ある意味でこの物語の被害者であり、同時に加害者へと変貌していく。農夫を轢いてしまった瞬間から、彼女は自らの意思で生き残るための行動を選択する。やがて裕也を死に追いやる姿は、暴力に巻き込まれた人間が暴力を選び返す瞬間として衝撃的だった。弱者の立場に見えた女性が、自らの狂気を解放する姿は、観る者にとっても逃げ場のない不安を突き付けてくる。
そして忘れてはならないのが村上虹郎演じる弟・将太の存在だ。彼は兄を探しながら、友人たちとの軋轢を深め、結局は兄と同じように暴力に身を委ねる。ここに描かれるのは「暴力の連鎖」であり、家庭環境や社会の中でどうしても断ち切れない呪縛だ。泰良の暴力は個人の狂気として描かれるが、将太の姿を通して「暴力は感染する」というテーマが浮かび上がる。暴力を見た者が暴力に触れ、次の世代へと伝播していく。その構造に気づかされたとき、この映画の恐ろしさはさらに増した。
映画のラスト、泰良が警官との揉み合いで銃声を響かせるシーンは、あまりにも唐突で虚無的だ。観客は「なぜ彼がそうなったのか」を最後まで理解できない。けれども、その理解不能さこそが本作の肝だと思う。暴力は理屈では説明できない。誰かのトラウマや社会的背景に還元できない「純粋な衝動」として存在する。その純粋さに観客は恐怖し、同時にどこかで羨望する。この二律背反こそが、『ディストラクション・ベイビーズ』が観客に投げかける最も大きな問いだ。
柳楽優弥の演技はまさに怪物的だった。特殊メイクもなく、ただ身体の動きと視線だけで「人ならざるもの」を表現していた。暴力を振るう瞬間の笑み、無感情な目、そして突然の沈黙。すべてが観客を震え上がらせる。菅田将暉や小松菜奈、村上虹郎、北村匠海ら若手の共演も強烈で、それぞれが映画の中でリアルに息づいていた。とりわけ那奈の変貌ぶりは、彼女のキャリアにおいても特筆すべき瞬間だと思う。
この映画は決して観やすい作品ではない。血が流れ、理不尽な暴力が続き、観終えた後に爽快感は残らない。むしろ胸に重苦しい鉛のようなものが沈む。だが、それこそが本作の価値だ。現実社会においても、理由なき暴力は存在する。ニュースで報じられる無差別事件、街の片隅で起きる喧嘩、SNSでの言葉の暴力。私たちは「なぜそんなことを」と考えながら、結局その理由を掴めない。『ディストラクション・ベイビーズ』はその不条理をスクリーンに刻みつけた映画だ。
俺自身、この作品を観ながら「もし自分が裕也だったら、泰良に惹かれていくのだろうか」と自問した。理解不能なものに触れたとき、人は恐怖と同時に強烈な関心を抱く。泰良の暴力は、人間が持つ破壊衝動を可視化した存在であり、そこから目を逸らすことはできない。映画を観終えた後、胸の奥に「暴力とは何か」という問いがいつまでも残り続ける。それが答えのない問いだと分かっていても、この映画は観る者に突きつけてくるのだ。そうした残酷な誠実さが、この作品をただの暴力映画ではなく、日本映画の重要なマイルストーンにしているのだと思う。

モテ男視点での考察

この映画をモテの視点で捉えるなら、「危うさ」と「衝動」に人は惹かれるという事実だ。泰良の暴力は理不尽そのものだが、周囲を巻き込む吸引力を持っていた。モテ男も同じで、完璧さよりも危険な香りや不可解さが魅力になる瞬間がある。だが映画が示すのは、ただの暴力は破滅しか生まないということだ。モテ男に必要なのは、暴力的衝動ではなく「熱」と「強さ」を正しい方向に放つ力だ。惹かれつつも理性で制御できる男こそ本物だ。

教訓

理由なき暴力ではなく、衝動を理性で制御しエネルギーを魅力へ昇華できる男こそが本当にモテる。

◆評価

項目 点数 コメント
ストーリー 18 / 20 ホント、赤ちゃんのような知能しかない。喧嘩を売ってはやられてる。「で?」と言うのは残る。
演技 18 / 20 柳楽、菅田ともによくハマっていた。
映像・演出 18 / 20 車が愛媛ナンバーだったので途中から舞台の場所が分かったが、それまでは大阪が舞台かと思っていた。カメラワークは自然で良かった。
感情の揺さぶり 17 / 20 これは…特に無い。赤ちゃんから得られるものは無い。
オリジナリティ・テーマ性 17 / 20 オリジナリティやテーマ性はある意味、有ったかと思う。こういう体ばかり大人になって、心は子供。昔も今も一緒。
合計 88 / 100 この類の作品は好きである。

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