【映画】『ある男』(2022年) 愛した人は、いったい誰だったのか――“名前”に隠された真実が心を揺さぶる | ネタバレあらすじと感想

ドラマ
レビュー/考察

映画『ある男』(2022年/日本)

ヒューマンドラマ × ミステリー × サスペンス

◆映画『ある男』の作品情報

監督 石川慶
脚本 向井康介
原作 平野啓一郎『ある男』
出演 妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝、真木よう子、柄本明 他
配給 松竹
公開 2022年
上映時間 121分
製作国 日本
ジャンル ヒューマンドラマ、ミステリー、サスペンス
視聴ツール U-NEXT/自室モニター/Anker Soundcore AeroClip

◆キャスト

  • 城戸章良:妻夫木聡 代表作『怒り』(2016年)
  • 谷口里枝:安藤サクラ 代表作『万引き家族』(2018年)
  • 谷口大祐(ある男X):窪田正孝 代表作『東京喰種 トーキョーグール』(2017年)
  • 後藤美涼:清野菜名 代表作『キングダム』(2019年)
  • 小見浦憲男:柄本明 代表作『カンゾー先生』(1998年)

◆映画『ある男』(2022年)のあらすじ

ネタバレなし

映画『ある男』は、平野啓一郎の同名小説を原作に、妻夫木聡・安藤サクラ・窪田正孝が共演するヒューマンドラマです。離婚を経て息子と共に宮崎の実家へ戻った女性・里枝(安藤サクラ)は、林業に従事する穏やかな青年・谷口大祐(窪田正孝)と再婚し、幸せな家庭を築きます。

しかし、ある日突然の事故によって夫が命を落とします。悲しみに暮れる中、法要に訪れた大祐の兄が「遺影に写っているのは弟ではない」と言い放ちます。

愛した夫は、いったい誰だったのか――。困惑する里枝は、かつて離婚調停を担当してくれた弁護士・城戸章良(妻夫木聡)に相談します。城戸は男の身元を調べ始めるものの、手がかりは少なく、やがて“他人の戸籍を名乗って生きていた”という衝撃的な事実が浮かび上がります。

人は「名前」や「過去」を捨てても、同じ人間として愛されるのか。里枝と城戸、それぞれが向き合う「他者」と「自己の存在」を静かに描いた作品です。

ここからネタバレありです。

調査を進める城戸は、戸籍売買に関与したブローカー・小見浦(柄本明)に接触します。彼から得た情報を頼りに、大祐の正体は“誠”という名の元ボクサーであり、殺人犯の息子だったことが判明します。父の罪に苦しんだ誠は、自分の戸籍を捨てて他人の名を名乗り、里枝と出会い、普通の人生を歩もうとしていたのです。

一方で、城戸自身も在日としての出自に葛藤し、他人の視線に怯えて生きてきました。誠の「生き直し」を追ううちに、彼自身もまた“自分とは何者か”という問いに直面します

やがて真実が明らかになった後、里枝は夫の過去を受け入れ、息子にもすべてを打ち明けます。愛したのが“誰か”ではなく“どんな人だったか”――。その答えにたどり着くラストは、観る者の心に深い余韻を残します。

◆俺目線の考察と感想

『ある男』を観終えたあと、しばらく動けなかった。静かな作品だが、心の奥底をえぐるような重さがある。愛した人が、実は別人だった。そう聞くと、サスペンス的な興味を惹かれるが、この映画の本質は“アイデンティティとは何か”“人は何をもってその人と呼べるのか”という、もっと根源的な問いだと思う。

里枝(安藤サクラ)は、再婚相手の大祐を心から愛していた。彼の優しさに救われ、家族としての日々に幸福を感じていた。だが、夫の死をきっかけに「彼は誰だったのか」という事実に直面する。愛した人が“別人”だったとしても、その愛は嘘になるのか。この作品は、その問いに明確な答えを出さず、観る者に委ねているそれがまた痛い

窪田正孝演じる誠(ある男)
窪田正孝演じるこの男は誰だったのだろう。“他人の戸籍を名乗って生きていた”ことは分かったが……

弁護士の城戸(妻夫木聡)は、表向きは冷静だが、在日という出自に苦しみ、心のどこかで「本当の自分」を隠して生きている。彼にとって“他人になりすまして生きる男”の調査は、単なる仕事ではなく、自身のアイデンティティを掘り返す作業でもあった。里枝が「夫の正体を知りたい」と願う一方で、城戸は「自分を知りたい」と願っていた。この二人の視線が重なる瞬間、映画は一気に静かな熱を帯びる。

平野啓一郎の小説でも描かれた「分人主義」――つまり、人は一つの人格で完結していないという考え方が、映像でも見事に表現されている。誰しも、職場や家庭、友人関係で見せる“別の顔”を持っている。誠(窪田正孝)が“他人の戸籍を生きた”という極端な設定も、実はその延長線上にある。自分を変えたい、自分を生き直したいと願う気持ちは、誰の中にもあるはずだ。

妻夫木聡演じる城戸章良
在日であることに苦しんで、「本当の自分」を隠して生きていた城戸演じる妻夫木。

石川慶監督の演出は徹底して抑制的で、無駄な説明を削ぎ落としている。背景のノイズや、風、光の入り方まで計算され、人物の沈黙が語りになる。音楽も静かで、観客に余白を与える。安藤サクラの演技は圧倒的で、言葉にならない痛みをまなざしだけで伝える。彼女の中で揺れる「愛と疑念」の狭間が、観ているこちらにまで伝染するようだ。

一方の窪田正孝は、穏やかさの中に深い闇を宿している。彼の笑顔は温かいのに、どこか影がある。なぜ彼が“他人として生きようとしたのか”という謎が、終盤で明かされるとき、その苦しみが一気に理解できる。彼は罪から逃げたのではなく、“罪を背負ってでも生き直そうとした男”だった。

そして、妻夫木聡の静かな怒りと哀しみ。彼が“社会的に成功した男”でありながら、内面では常に排除される不安を抱えている姿は、現代日本における「見えない分断」を象徴しているようだ。映画の終盤、真実を突き止めた城戸が、それでも報われない虚しさを抱えて日常へ戻る姿に、人間のどうしようもなさが滲んでいた。

この作品は、「他人を理解する」という行為の限界を描いている。人は他者を知ることができると信じたいが、実際には、どんなに愛しても、理解できるのはその人の一部にすぎない。それでも人は愛し、許し、共に生きていく。そこにこそ、人間の尊さがある。

『ある男』は、サスペンスの皮をかぶった哲学的な人間ドラマだ。社会的な差別、家族、愛、赦し――そのすべてが静かに交錯する。観終えたあと、自分の中にも“いくつもの顔”があることに気づく。誰かを理解したいと思うこと、それ自体が、すでに愛の証なのだと感じた。

◆モテ男的考察

『ある男』は、外見でも肩書でもなく、「人としてどう向き合うか」を問う物語だ。モテる男ほど、自分を偽りたくなる瞬間がある。でも本当の魅力は、過去や弱さを隠さずに見せられる強さだと思う。里枝が“正体不明の男”をそれでも愛したように、信頼は“演じること”ではなく“さらけ出すこと”から生まれる。誠実さこそが究極の色気だと感じた。

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◆教訓・学び

本当のモテは、飾らずに“素の自分”を受け入れてくれる人を大切にできるかで決まる。

◆似ているテイストの作品

  • 『怒り』(2016年/日本)
    殺人事件の犯人探しを軸に、人が他者をどこまで信じられるのかを描く群像劇。
    愛と疑念の狭間で揺れる人間心理を緻密に掘り下げる点で、『ある男』と深く響き合う。
  • 『すばらしき世界』(2021年/日本)
    社会復帰を目指す元殺人犯の孤独と希望を通し、“人は過去から逃れられるのか”を問う人間ドラマ。
    社会の偏見や再生のテーマが、『ある男』の“名前と存在”の葛藤と重なる。

◆評価

項目
点数
コメント

ストーリー
19 / 20
ミステリーの構造を持ちながら、愛・赦し・アイデンティティといった普遍的テーマを繊細に描く構成が秀逸。真実の先に“人間”を見せる脚本力が際立つ。

演技
20 / 20
妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝らの演技が圧巻。沈黙や視線に宿る感情の揺らぎが、セリフ以上に物語を語る。全員が「演じていない」ように見える。

映像・演出
19 / 20
石川慶監督の静かなカメラワークが、登場人物の内面を映し出す。色調や光の使い方に一貫した美学があり、静寂の中に深い緊張を宿している

感情の揺さぶり
19 / 20
「愛した人は誰だったのか」という問いが、観る者自身の記憶や関係性に重なる。ラストの余韻が長く残り、静かに心を締めつける。

オリジナリティ・テーマ性
18 / 20
“他人の戸籍を生きる男”という題材を通して、現代社会の「名前」「存在」「赦し」を問い直す。社会的メッセージと人間ドラマの融合が見事。

合計
95 / 100
ミステリーの枠を超え、人間の尊厳と愛の本質を問う傑作。静かでありながら、深く刺さる余韻がいつまでも消えない。

◆総括

『ある男』は、ただの身元不明事件を描いたサスペンスではなく、“人は何をもってその人と呼べるのか”という本質的な問いを突きつける作品だ。

他人の戸籍を生きた男、彼を愛した女、そして彼の正体を追う弁護士。三人の視点が交錯することで、物語は単なる謎解きを超え、社会的・哲学的な深みへと進化していく。特に、在日である城戸の苦悩を通して「見えない差別」「名前の重み」「赦しの意味」が重層的に描かれ、人間の尊厳に真正面から迫っている

石川慶監督の冷静かつ詩的な演出、そして安藤サクラ・妻夫木聡・窪田正孝の表現力が見事に融合し、静謐なトーンの中に確かな熱を宿す。登場人物たちは皆、過去や罪、出自といった“変えられないもの”を抱えながら、それでも誰かを想うことで前に進もうとする。その姿が、観る者の心に深く響く。

結末には派手なカタルシスはない。だが、静かに積み重ねられた感情が、ラストで一気に重みを持って押し寄せてくる。その瞬間、観客は気づく――「愛した人が誰であっても、愛した事実だけは偽れない」という真理に

『ある男』は、現代社会の“名と存在”の問題を通して、人が他者とどう向き合い、どう生き直すかを問う極めて人間的な映画だ。派手さよりも深さで勝負する、まさに日本映画の到達点のひとつと言える。

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