【映画】『アドヴィタム』(2025年) Netflixオリジナル配信 もう一人の自分が、俺を壊す。──現実と幻覚が溶け合う、究極のノワール・サスペンス | ネタバレあらすじと感想

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【映画】『アドヴィタム』(2025年)レビュー

フランス発の救出アクション・サスペンス。元GIGNの男が“家族”と“贖罪”を賭けて走る。

◆映画『アドヴィタム』の作品情報

  • 【英題】Ad Vitam
  • 【監督・脚本】ロドルフ・ラウガ
  • 【脚本】デビッド・コロナ
  • 【脚本・出演】ギヨーム・カネ
  • 【出演】ステファン・カイヤール、ナシム・ライズ、ジタ・ハンロット 他
  • 【配給】Netflix
  • 【公開】2025年
  • 【上映時間】98分
  • 【製作国】フランス
  • 【ジャンル】アクション、サスペンス、スリラー
  • 【視聴ツール】Netflix、吹替、自室モニター、HUAWEI

◆キャスト

  • フランク・ラザレフ:ギヨーム・カネ 代表作『ACIDE/アシッド』(2023年)
  • レオ・ラザレフ:ジタ・アンロ 代表作『シラノ・ド・ベルジュラック』(2021年)
  • アミール:ステファヌ・カヤール 代表作『ゲット・イン』(2019年)
  • ヴィクトール・デマル:ヨハン・ヘルデンベルグ 代表作『神様メール』(2015年)
  • ジャック警部:アレクサンドル・フィリップ 代表作『ルパン』(2021年/Netflixドラマ)

※表記ゆれのある日本語カナは、一般流通表記に寄せています。


◆ネタバレあらすじ

あらすじ(ネタバレなし)

元GIGNの精鋭だったフランク・ラザレフは、現在は第一線を離れ、身重の妻レオと静かな日々を送っていました。ある夜、自宅に何者かが侵入し、フランクは辛くも撃退するものの、レオは武装集団に連れ去られてしまいます。過去の任務で負った“過ち”と、退役の裏にある機密の影がよみがえる中、フランクは封印してきた技能と人脈を総動員して妻の行方を追います。事件の背後には個人的な恨みを越えた大きな力が動いている気配があり、警察や軍の一部までもが関与している可能性が浮かび上がります。タイムリミットが迫る中、彼は自らの良心と危うい取引の間で揺れながら、真相へと近づいていきます。捜査線上には、かつての同僚や退役仲間、そして思わぬ市井の協力者の姿も。フランス各地の街路や港湾、森林地帯を舞台に、逃走と追跡が交錯し、情報戦と肉弾戦が同時に進行します。司法当局は“越権行為”の疑いでフランクを牽制しますが、彼は国家レベルの安全保障案件を示唆する断片的な手掛かりをつなぎ合わせます。愛する人を取り戻すために越えてはならない一線と、越えなければ救えない命。その狭間で、元エリートの直感と決断が試されていきます。希望は消えません。

ここからネタバレありです。

ここからネタバレありです。度重なる侵入は、フランクの自宅に“機密物”が隠されていることを示していました。襲撃の夜、レオが連れ去られると、フランクはかつての相棒と合流。退役の原因となった過去の作戦と国家機関の汚職が現在の誘拐と地続きであると突き止めます。レオに高い戦闘技能があることも判明し、足跡を追ったフランクは敵の拠点に突入。救出後、破水したレオを病院へ送るため相棒が車で囮となり、フランクはパラモーターで上空から殿を務めます。逃走は成功するものの、フランクは当局に拘束。面会に訪れたレオが洗面所の鍵を回収し、隠蔽されかけた証拠を司法へ提出。陰謀は露見し、フランクは釈放されます。証拠は上層部の命令系統と違法作戦の連関、そして“過ち”が利用されていた事実を示していました。膝を負傷し第一線を退いた相棒も再び動き、瀕死の傷を負いながら二人を支えます。実行犯らが逮捕され、組織は崩壊。母子は危機を越え、フランクは父となる覚悟を固めます。題名“アドヴィタム(永遠に)”が示すのは不死ではなく、失敗と贖罪を抱えたまま生き切る意志でした。彼は過去の沈黙を破り、権力のほころびを突くことを選びます。今歩み出す。

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momoko
「この短い時間にコンパクトに収まっているの、凄いわ。」

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yoribou
「そうだね。ストーリーがしっかりしているから分かりやすいしね。」

◆考察と感想

『アドヴィタム』は、フランス映画らしい静と動のコントラストが際立ったアクション・サスペンスだった。物語は単純に見える。元特殊部隊員が誘拐された妻を救う――それだけの話だ。でも、この作品が他と違うのは、その「救出劇」を通して描かれる“人間の限界と再生”にある。

まず特筆すべきは、主人公フランク・ラザレフの描き方だ。ハリウッド映画のような超人ヒーローではない。彼はかつての過ちに苦しみ、名誉を失い、心に大きな傷を抱えている。妻との穏やかな生活は、せめてもの安息の場所だった。それが一瞬で崩れ去った時、彼がとる行動は理性ではなく“本能”。その本能こそが、この映画の核心だと思う。人は守りたいものを奪われた時、どこまで理性を保てるのか。

前半は過去の罪や葛藤が丁寧に積み重ねられ、ややもすればテンポが遅く感じる。しかしこのスローペースが後半に効いてくる。後半、フランクが妻を救うために再び戦場へ戻る場面では、静かに研ぎ澄まされた緊張が爆発する。特に、パラモーター(パラトライク)を使って空から追跡するシーンは、派手さよりも“孤独な戦い”としての美しさが際立つ。あの空撮の浮遊感と、地上で命を賭ける相棒との対比が、まるで詩のようだった。

アクション演出も、いわゆる「見せ場」中心ではない。むしろ生々しく、息づかいが伝わってくるような手触りがある。銃撃も近接格闘も、派手な爆発より現実感が重い。特に、奥さんであるレオが実は元同僚であり、彼女自身も戦闘訓練を受けた人物だとわかる展開は見事だ。初見では“なぜこんなに戦えるんだ”と思わせておいて、後から筋が通る。伏線の回収がスムーズで、終盤の説得力につながっている。

そしてこの映画のもう一つの魅力は、“友情と贖罪”の描写。相棒のアミールが、膝を負傷し夢を失いながらも、最後までフランクを支える姿が胸を打つ。彼の存在がなければ、フランクはただの暴走者で終わっていた。にもかかわらず、ラストでは彼だけが静かに遠くから家族を見守る構図――この余韻がたまらない。誰もが報われるわけじゃない。でも、誰かのために生きることが、報いそのものなのかもしれない。

物語の結末はハッピーエンドで終わるが、同時に“過去は消えない”という現実を突きつけてくる。タイトルの「Ad Vitam(永遠に)」は、不死ではなく「命をつないでいく」という意味だと思う。フランクは罪を抱えたまま、それでも生き続けることを選んだ。贖罪を終わらせないことでしか、人は“永遠”に届かないという皮肉を感じた。

フランス映画らしい皮肉と詩情が同居していて、テンポこそ不均一だが、心に残る余韻は確かにある。ハリウッド的な快楽よりも、感情の濃度で観客を引き込むタイプの作品。俺は後半の展開でようやく作品全体の意図が腑に落ちた。つまり、「救出」は目的ではなく、“もう一度、生きる”という意志の証明だったんだ。

観終えた後、派手さはないのに、じわじわと“男の人生とは何か”を考えさせられた。誰かを守るために戦うこと、過去を乗り越えようとすること、それが人間らしさであり、男の弱さでもある。フランス映画の真骨頂は、この「弱さを肯定する強さ」にあると改めて感じた。『アドヴィタム』は、派手な銃撃の裏に、静かな人間の再生を描いた、硬派で骨太なアクションドラマだ。

◆モテ男視点

この映画でモテる男とは、強さより“信念”を持つ男だ。フランクは一見無口で不器用だが、愛する人のためにどんなリスクも取る覚悟がある。その真っすぐさが女性の心を動かす。守ると決めたら命を懸ける、でも依存ではなく尊敬でつながる関係――それが本当のパートナーシップ。モテる男は、愛を言葉でなく“行動”で示すんだ。

◆教訓、学び

本気で誰かを守ろうとする覚悟は、言葉よりも雄弁に“モテ”を語る。

◆似ているテイストの作品

  • 『最後まで行く』(2014年/韓国)
    汚職刑事が事故をきっかけに追い詰められていく犯罪サスペンス。
    一人の男が極限状況で暴走しながらも再生を模索する姿が、『アドヴィタム』のフランクと重なる。
  • 『ビーキーパー』(2024年/アメリカ)
    元秘密組織の工作員が、亡き隣人のために巨大企業へ反撃する復讐アクション。
    愛と正義を貫く孤高の男の闘い方が、『アドヴィタム』の静かな熱と共鳴する。

◆評価

項目 点数 コメント
ストーリー 17 / 20 妻を救うという王道の救出劇に、国家的陰謀と過去の罪という層を重ねた構成が秀逸。前半の静と後半の動のバランスが物語を支えている。
演技 18 / 20 ギヨーム・カネが魅せる“壊れかけた男”のリアルな表情が印象的。台詞よりも視線と息づかいで感情を伝える演技が圧倒的だ。
映像・演出 18 / 20 フランス映画らしい淡い光と影のコントラストが美しく、アクションシーンでも過剰な誇張を避けた演出がリアリティを高めている。
感情の揺さぶり 16 / 20 愛する人を守るためにすべてを捨てる姿に共感が生まれる。派手さはないが、静かな怒りと愛の深さが心に残る余韻を残す。
オリジナリティ・テーマ性 17 / 20 単なるアクション映画に留まらず、“贖罪”と“再生”を描くヒューマンドラマとしての完成度が高い。タイトルの「Ad Vitam(永遠に)」の意味づけも秀逸。
合計 86 / 100 派手さよりも魂の熱を描くフレンチ・アクション。静かな決意と愛のために戦う姿が胸を打つ、重厚なサスペンスドラマ。

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