【映画】『インシディアス 序章』(2015年) 「恐怖は“はじまり”へ──」―― それはすべての悪夢の序章 | ネタバレあらすじと感想

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映画『インシディアス 序章』(2015)レビュー|作品情報・ネタバレあらすじ・考察・評価





レビュー

『インシディアス 序章』(2015)

原題:Insidious: Chapter 3/監督・脚本:リー・ワネル/上映時間:93分

◆作品情報

  • 【原題】 Insidious: Chapter 3
  • 【監督・脚本】 リー・ワネル
  • 【出演】 ダーモット・マローニー、ステファニー・スコット 他
  • 【配給】 フォーカス・フィーチャーズ、ソニー・ピクチャーズ
  • 【公開】 2015年
  • 【上映時間】 93分
  • 【製作国】 アメリカ、イギリス、カナダ
  • 【ジャンル】 ホラー、スリラー、オカルト
  • 【視聴ツール】 U-NEXT、吹替、自室モニター、HUAWEI


◆キャスト

  • エリーズ・レイニア;リン・シェイ(Lin Shaye) 代表作『インシディアス』(2010年)
  • クイン・ブレナー;ステファニー・スコット(Stefanie Scott) 代表作『ジェム&ホログラムス』(2015年)
  • ショーン・ブレナー;ダーモット・マローニー(Dermot Mulroney) 代表作『ベスト・フレンズ・ウェディング』(1997年)
  • スペックス;リー・ワネル(Leigh Whannell) 代表作『ソウ』(2004年/脚本・出演)
  • タッカー;アンガス・サンプソン(Angus Sampson) 代表作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)

◆あらすじ

『インシディアス 序章』(2015年)は、『インシディアス』シリーズの原点を描いた前日譚です。舞台は、後に悪霊退治のエキスパートとして知られることになる霊能者エリーズ・レイニアが、まだ活動を控えていた時代。高校生の少女クイン・ブレナーは、1年半前に亡くした母リリーともう一度話したいという思いから、エリーズのもとを訪ねます。最初は霊界との交信を拒んでいたエリーズでしたが、クインの純粋な願いに心を動かされ、慎重にセッションを試みます。しかし、それをきっかけにクインの周囲では奇妙な現象が次々と起こり始め、やがて彼女の身体と魂は得体の知れない悪霊の脅威に晒されていきます。孤独な父親ショーンは、娘を救うために必死に行動しますが、科学では説明できない恐怖が家族を追い詰めていきます。

――ここからネタバレありです。

ネタバレあらすじを開く

クインの家に潜む悪霊は、かつてこの世に強い怨念を残して死んだ「呼吸する者」と呼ばれる存在でした。彼はクインの魂を“あの世”に引きずり込もうとしており、彼女は昏睡状態のような形で現世と霊界を行き来することになります。エリーズは霊能力を封じていた過去のトラウマに苦しみながらも、再び「アストラル界」へと踏み込み、クインを助け出す決意を固めます。

一方で、彼女をサポートするのがオカルト研究家のスペックスとタッカー。三人は力を合わせ、悪霊の支配する闇の世界でクインの魂を救出します。エリーズは自らの恐怖を乗り越え、光を導く力を取り戻しますが、戦いの後、背後から“黒い花嫁”の影が忍び寄り、彼女の運命を暗示する不穏なエンディングで幕を閉じます。シリーズ全体の恐怖の原点と、エリーズが霊能者として再び立ち上がる瞬間が描かれる重要なエピソードです。

◆考察と感想

映画『インシディアス 序章』を観てまず感じたのは、「恐怖とは、外からではなく内側からやってくるものだ」ということだ。シリーズ第3作でありながら、時系列としては第1作の前日譚にあたる本作は、霊能者エリーズの原点を描く物語でもある。これまで彼女は他者を救う存在として登場してきたが、ここでは“喪失”と“恐怖”の狭間でもがく一人の女性として描かれている。夫を亡くした悲しみと、霊界への扉を閉ざした過去。その心の痛みが、彼女の力をもろくしているのだ。だが、そんな彼女が再び立ち上がる姿に、人間の強さを見た気がする。

物語は、母親を亡くした少女クインが、亡き母と話したいと願い、エリーズに助けを求めるところから始まる。だが、呼びかけた相手は母ではなく、悪霊だった。その存在がじわじわとクインの日常を侵食していく。階下から聞こえる足音、闇の中に立つ人影、ベッドの下から伸びる手。どのシーンも派手なスプラッターではなく、静寂と間による“本能的な恐怖”で観客を追い詰めてくる。監督リー・ワネルの演出は、ジャンプスケアに頼らず、空気そのものを恐ろしくするタイプだ。観ていて息が詰まる。

印象的なのは、霊が登場するたびに“音”が極端に消えること。静寂の中で足音が鳴る瞬間、人間の感覚は極限まで研ぎ澄まされる。ホラー映画の中でも、本作は特に“聴覚”を使った恐怖の演出が巧みだ。さらに、カメラの動きが不自然なほどにゆっくりで、視界の隅にある“何か”を意識させる。こうした心理的な仕掛けは、まさに『ソウ』シリーズの脚本を手がけたリー・ワネルならではの手腕だ。

そして本作の核心は、エリーズ自身の再生の物語だ。悪霊と対峙することは、彼女が再び「他人を助けること」を選ぶ決意の象徴でもある。霊界“アストラル界”は、死後の世界というより、心の闇そのものだ。彼女はその闇に自ら足を踏み入れ、少女を救うことで、失われた勇気と信念を取り戻す。このプロセスが、単なるホラーではなく“人間ドラマ”として成立している理由だと思う。

また、本作が巧いのは、恐怖の裏に“優しさ”を仕込んでいるところだ。クインを守ろうとする父親ショーンの不器用な愛情。娘を失いかけた恐怖と、信じるしかない親の葛藤。観る側も共感してしまう。家族愛というテーマが、単なる幽霊退治に終わらない深みを生み出している。結局、霊も人間も、誰かを想う気持ちが強すぎるからこそ、苦しむのだ。

『インシディアス 序章』は、ホラーでありながら“生きる力”を取り戻す物語でもある。エリーズが再び他人を救う決意をする瞬間、彼女は恐怖の象徴ではなく希望の象徴に変わる。恐怖の中に人間の尊厳を見せる──それがこの映画の真髄だ。観終わった後の余韻は、ただ怖かったではなく、「生きることは怖さを受け入れることなんだ」と思わせてくれる。静かに、しかし確実に心に残る一作だ。

◆似ているテイストの作品

  • 『PLAN75』(2022年/日本)
    高齢者に“死の選択”を促す近未来の日本を描く社会派ドラマ。
    静けさの中に潜む恐怖と“生と死の境界”という主題が『インシディアス 序章』と通じる。
  • 『声 姿なき犯罪者』(2019年/韓国)
    電話越しの声だけで犯人を追う刑事の心理戦を描いたスリラー。
    見えない“存在”への恐怖と緊迫感が、『インシディアス 序章』の不可視の悪霊と共鳴する。

◆評価

項目 点数 コメント
ストーリー 18 / 20 シリーズの前日譚として、霊能者エリーズの“原点”を丁寧に描いた構成が秀逸。恐怖と人間ドラマを両立させた脚本が光る。
演技 19 / 20 リン・シェイの演技が圧倒的。恐怖に怯えながらも勇気を取り戻す姿がリアルで、彼女の存在が作品全体を支えている。
映像・演出 18 / 20 光と影、静と動の対比が恐怖を倍増。ジャンプスケアに頼らない演出が心理的緊張を生み出し、霊界の表現も独特の質感を持つ。
感情の揺さぶり 18 / 20 恐怖の中にある“喪失と再生”の物語が胸を打つ。恐ろしさの中に優しさがあり、ラストには涙がにじむような温かさがある。
オリジナリティ・テーマ性 17 / 20 悪霊退治という定番ジャンルに、“生きる勇気を取り戻す”という深いテーマを持ち込んだ点が秀逸。単なるホラーに終わらない。
合計 90 / 100 恐怖を超えた“再生”の物語。静寂と闇で恐怖を構築しながら、人間の強さを描いた心理派ホラーの傑作。
※配点は20点×5項目=100点満点

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