映画『ハリエット』(2019年)レビュー
自由を求め、歴史を動かした“モーゼ”――ハリエット・タブマンの軌跡。
◆作品情報
- 原題:Harriet
- 監督・脚本:ケイシー・レモンズ
- 脚本・原案:グレゴリー・アレン・ハワード
- 出演:シンシア・エリヴォ、レスリー・オドム・Jr、ジョー・アルウィン 他
- 主題歌:シンシア・エリヴォ「Stand Up」
- 配給:フォーカス・フィーチャーズ、パルコ/ユニバーサル映画
- 公開:2019年
- 上映時間:125分
- 製作国:アメリカ
- ジャンル:歴史ドラマ、伝記映画
- 視聴ツール:Netflix、吹替、自室モニター
◆キャスト
- ハリエット・タブマン:シンシア・エリヴォ 代表作『ウィドウズ』(2018年)
- ウィリアム・スティル:レスリー・オドム・Jr 代表作『ハミルトン』(2015年 舞台)
- ギデオン・ブロデス:ジョー・アルウィン 代表作『女王陛下のお気に入り』(2018年)
- マリー・ブキャノン:ジャネール・モネイ 代表作『ムーンライト』(2016年)
- エリーザ:ジェニファー・ネトルズ 代表作『ドリー・パートンズ クリスマス・オブ・メニー・カラーズ』(2016年 TV映画)
◆あらすじ
映画『ハリエット』(2019年)は、アメリカ史に名を刻む実在の女性活動家ハリエット・タブマンの半生を描いた伝記ドラマです。物語の舞台は19世紀のアメリカ南部、奴隷制度が根深く存在した時代。主人公アラミンタ・ロス(通称ミンティ)は、農園で黒人奴隷として生まれ育ち、家族とともに過酷な生活を強いられていました。彼女は生まれつき突然意識を失う持病を抱えていましたが、その中で神の声を聞くようになり、自由への強い願いを胸に秘めていきます。ある日、家族と引き離され遠くに売られることが決まると、ミンティは大きな決断を下します。それは、自分の力で自由を掴み取るための逃亡です。逃亡奴隷にとっては捕まれば命を落としかねない極めて危険な行動でしたが、彼女の心には自由を求める強い信念が宿っていました。命がけの旅の果てに、ミンティは自由州ペンシルベニアに辿り着きます。そこで出会った人々や、奴隷解放を助ける秘密組織「地下鉄道」との関わりを通じて、彼女の人生は大きく変わっていくのです。
ここからネタバレありです
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◆考察と感想
『ハリエット』を観てまず感じたのは、歴史映画でありながら、単なる過去の出来事をなぞるのではなく、今を生きる俺たちに対しても強烈なメッセージを投げかけているということだ。舞台は19世紀のアメリカ南部。黒人奴隷として生まれたハリエット・タブマンが、自由を求めて逃亡し、やがて解放活動家として歴史に名を刻むまでの道のりが描かれる。物語の出発点は、ひとりの女性が「自分の人生を自分で選ぶ」という強い意思を持った瞬間にある。その決断が、時代を超えて観客の心を揺さぶるのだ。
印象的なのは、ハリエットが持病によって神の声を聞く場面だ。現代的な感覚で観れば、医学的な説明を探そうとしてしまうが、当時の彼女にとってはそれが信仰であり、行動の原動力だった。つまり、理屈ではなく信念に従って生きる姿が強く描かれている。俺はこの部分に惹かれた。人間は常に合理的に動けるわけじゃない。ときに説明できない直感や、目に見えない信仰が背中を押す。それが間違いなく彼女を突き動かしていた。
また、この映画で強調されるのは「行動する力」だ。逃亡奴隷となれば命がけ。捕まれば死や拷問が待っている。普通ならそこで諦めるだろう。しかし彼女は一度自由を手にしても戻ることなく、危険を冒して再び南部に潜り込み、多くの奴隷を救い出す。「自分ひとりが助かればいい」と考えるのではなく、「仲間も救わなければ意味がない」と思うその精神力に心を打たれた。今の時代に置き換えても同じことが言える。俺たちはつい、自分の生活を守ることに精一杯になりがちだ。だが、誰かのためにリスクを取れるかどうか。それが本当の強さなんだと突きつけられた。
演出面でも印象深い。闇の中を逃げる緊張感、銃を持つ白人たちの影、息を潜めて隠れる場面。まるでスリラー映画のような手に汗握る展開だ。歴史映画はどうしても退屈になりがちだが、本作は観客を引き込むリズムを持っている。さらに主演のシンシア・エリヴォの存在感が圧倒的だった。彼女の目の奥に宿る光は、ただの演技ではなく、本当に「自由への確信」を抱いている人間にしか出せない迫力があった。
そして、俺が最も考えさせられたのは「法と正義の矛盾」だ。劇中、逃亡奴隷法が制定され、自由州に逃れた奴隷であっても再び捕まるリスクが生まれる。つまり、法が必ずしも正義を意味するわけではないということだ。奴隷制が合法だった時代、その法律を守ることは「人を所有する」という非人道的なシステムを支えることになる。俺たちは現代に生きていて、表面上は平等が謳われているが、果たして本当にそうだろうか。社会の中で、法律や制度の名の下に不平等や差別が温存されていないだろうか。映画を観ながら、そんな疑念が頭を離れなかった。
物語の後半、ハリエットが兵士を率いて戦う姿は感動的だ。もはや彼女は「逃亡奴隷」ではなく「指導者」だった。これは単なる解放の物語にとどまらず、自己実現の物語でもあると感じた。人は生まれながらにして境遇を選べない。だが、その後どう生きるかは選べる。奴隷から解放者、そして歴史的リーダーへ。彼女の生き様は、どんな逆境にあっても「生き方は変えられる」という証明だった。
観終えてから、俺は自分の生活を振り返らずにはいられなかった。日常の小さな不満にとらわれて、行動を起こさない自分。やりたいことを諦めて言い訳を探してしまう自分。ハリエットの姿は、そんな自分を否定してくる。命の危険を顧みず、信念を貫いた彼女の生き方に比べれば、俺が抱える悩みなんて小さなものだと痛感した。だからこそ、映画を観終えたあと、背筋が伸びるような感覚を覚えた。
総じて『ハリエット』は、歴史的意義だけでなく、現代人への強烈なメッセージを持った作品だ。自由とは何か、信念とは何か、仲間を思う心とは何か。問いかけの答えは人それぞれだが、観た人間に必ず何かを残す。俺にとっては「もっと自分の信じることに正直に生きろ」というメッセージだった。この映画を観たこと自体が、人生の指針をひとつ得たような体験だった。
◆モテ男の考察
ハリエットの生き方から学べるのは、男として「信念を貫く姿勢」が最も女性の心を打つということだ。彼女は危険を顧みず仲間を守った。その勇気と行動力は、現代の恋愛でも同じだと思う。相手のためにリスクを背負える男、困難な状況でブレずに導ける男は、自然と信頼と魅力を集める。モテる秘訣は外見よりも「揺るがない信念」にある。
◆教訓・学び
◆あわせて観てほしい
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高齢化社会の行き詰まりを背景に、尊厳ある生き方を問い直す社会派ドラマ。
『ハリエット』と同じく、“制度に翻弄される個人の生き抜く力”が浮かび上がる。
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水道料金滞納世帯を訪ね歩く職員が、社会の底に潜む貧困と家族の崩壊に直面する人間ドラマ。
『ハリエット』と重なる、“見過ごされがちな人々の声なき叫び”が心を打つ。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
---|---|---|
ストーリー | 18 / 20 | こう言う根性の有る女性がかつての黒人差別の運動の重心に居たと知って、感慨深く思った。 |
演技 | 18 / 20 | 観ていて勇気がもらえる感じがした。何度死んでもおかしくないのに、そう言う危険性を何度も振り払って奴隷黒人の開放に時間を費やしたこう言う人はもっとクローズアップされてもおかしくない。 |
映像・演出 | 17 / 20 | うまく時代を感じさせる作品に仕上がっていると思う。 |
感情の揺さぶり | 17 / 20 | もう少し脚色をしないと、本作品のようにメッセージが伝わってこない。事実だけ映像化して、あとは考えておいて、というように映り、観客は置いてきぼり感を感じるかと思う。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 17 / 20 | オリジナリティ、テーマ性は、本作品のような伝記ものがそんなに無いので貴重だと感じるし、オリジナリティ、テーマ性は、結構有ると思う。 |
合計 | 87 / 100 | 結局のところ、どうした?と言うのが率直な気持ち。ただ、伝記ものはこんな感じになるかと思う。 |
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