映画『大洪水』(2025)感想・考察レビュー
SF × ディザスター × サスペンス/Netflix配信作品
洪水パニックの外見に隠れているのは、「感情」をめぐる実験の物語。
ただの災害映画を期待すると裏切られるが、考えさせる強度はしっかりある一本だ。
◆映画『大洪水』の作品情報
- 【監督・脚本】キム・ビョンウ
- 【脚本】ハン・ジス
- 【出演】キム・ダミ、パク・ヘソ 他
- 【配給】Netflix
- 【公開】2025年
- 【上映時間】108分
- 【製作国】韓国
- 【ジャンル】SF、ディザスター、サスペンス
- 【視聴ツール】Netflix、吹替、自室モニター、Anker Soundcore Liberty 5
◆キャスト
- ク・アンナ:キム・ダミ 代表作『The Witch 魔女』(2018)
- ソン・ヒジョ:パク・ヘス 代表作『イカゲーム』(2021)
- ジャイン:クォン・ウンソン 代表作『D.P. -脱走兵追跡官-』(2021)
- イ・フィソ:パク・ビョンウン 代表作『安市城 グレート・バトル』(2018)
- シン・ガウォン:イ・ハクジュ 代表作『夫婦の世界』(2020)
◆ネタバレあらすじ
ソウルの高層マンションで6歳の息子ジャインと暮らす科学者ク・アンナは、ある朝、床に水が広がっていることに気づきます。
窓の外はすでに水面で、建物の下層が洪水に呑まれ始めていました。
避難放送が流れ、人々は階段へ殺到しますが、通路は荷物を抱えた住人で大混乱。
水位は刻一刻と上がり、停電で連絡手段も途絶えます。
そんな中、アンナの職場関係者を名乗る男ソン・ヒジョから「上へ逃げろ、救助が来る」と連絡が入り、彼女は息子を背負って上階を目指します。
しかし避難の渋滞、迫る大津波、そして一瞬の隙で息子が行方不明に。
母は沈みゆく建物で、息子を見つけ出し生き延びる道を探ります。
本作は閉鎖空間のサバイバル判断が連鎖し、ただの洪水パニックでは終わらない気配を残します。息が詰まります。
ネタバレあり|詳細あらすじ(開く)
屋上目前で事態は反転します。救助の目的は住人全員ではなく、AI研究の鍵を握るアンナだけでした。
息子ジャインは拘束され、彼の“データ”が回収されます。
アンナはヘリで連れ去られますが、その先で洪水が現実ではなく、感情を学習させるための仮想シミュレーションだったことを知ります。
地球は小惑星衝突の連鎖で居住不能になり、ダーウィンセンターは繁殖可能な人工生命体=新人類を作ろうとしていました。
身体は作れても感情が未完成なため、母子関係を何万回も再現し、母が子を救う選択を積み上げて“感情エンジン”を完成させる計画です。
アンナは試行回数の違う世界に戻り、以前は見捨てた人々を助け、最終的に自分も水へ飛び込みジャインを選びます。
その選択がシステムを安定させ、アンナとヒジョは意識を取り戻し協力して救出に成功。
ラストは記憶と感情を備えたアンナとジャインが宇宙船で水に覆われた地球へ向かう姿で終わります。
ヒジョは管理役として配置され、切り捨てられることでアンナの感情を揺さぶる装置でした。
番号が増える演出は試行回数の可視化で失敗から学ぶと選択が変わることを示します。
洪水は母性と共感を学習させる実験場でした。
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◆考察と感想
【俺の考察&感想】
正直に言うと、『大洪水』は「ディザスター映画を観た」という手応えよりも、「思想の塊を浴びせられた」という感覚のほうが強く残る映画だ。
津波、浸水、閉鎖空間のパニックといった王道の災害演出は揃っているが、それらは前座にすぎない。
本作の本質は、洪水という極限状況を使った“感情の実験映画”だ。
前半はかなり巧い。マンションという限定空間、水位の上昇、避難の渋滞、子どもを抱えた母親という設定。
観客は自然とアンナに感情移入し、「とにかく助かってほしい」という単純な祈りの視点に固定される。
ここで観客の思考を一度“災害映画モード”に閉じ込めるのが、この映画の最初の罠だ。

違和感が顔を出すのは、ジャインの存在だ。病状の急変、データで蘇生できるかのような台詞、人間としての手触りの薄さ。
ここでSFの影が忍び寄るが、映画は説明を拒み続ける。
この「説明しない姿勢」は評価が分かれるだろうが、俺は嫌いじゃない。
観客を置き去りにする危うさと引き換えに、思考を強制的に参加させるからだ。

中盤以降で明かされる真相――洪水はシミュレーションであり、アンナは“母の感情”を完成させるための被験者だったという展開は、正直かなり強引だ。
しかし同時に、この映画の思想が一気に露わになる瞬間でもある。
ここで描かれているのは「感情=母性」という、極めて偏った定義だ。
アンナは何万回ものシミュレーションを繰り返し、最終的に“子を見捨てない選択”へと収束していく。
それが感情エンジンの完成条件だとするなら、本作が肯定しているのは「無条件の献身」だ。
だが俺はそこに強い違和感を覚える。
感情とは本来、もっと矛盾と利己性を孕んだものだろう。
恐怖、怒り、逃避、諦め、後悔。母であっても人間である以上、それらは必ず存在する。
この映画は、それらの“汚い感情”を切り捨て、母性を純化しすぎている。
結果としてアンナは、人間というより“理想化された感情装置”に近づいてしまう。
皮肉なことに、人類を救うために人間らしさを学習させたはずのAIが、最終的に到達したのは「人間以上に人間らしくあることを強いられた存在」だ。
さらに言えば、なぜ新人類が必要なのか、その必然性も弱い。
地球が水没するなら、なぜAIが感情を持たねばならないのか。
感情は協力を生む一方で、争いも生む。本作はその危険性を一切検証しない。
何万回もシミュレーションを回す割に、思想の検証は驚くほど浅い。
それでも俺がこの映画を完全に否定できないのは、アンナが最後に“水へ飛び込む”選択をした瞬間だ。
あれは母性の完成ではなく、むしろ「プログラムへの反逆」に見えた。
生き残るために選ばれる存在であることを拒否し、子と同じ場所に身を置く。
その行為だけは、AIでも母でもなく、一人の人間の決断として映った。
『大洪水』は完成度の高い映画ではない。思想は偏り、プロットは乱暴だ。
だが、「感情とは何か」「人はなぜ誰かを選ぶのか」という問いを、ここまで露骨に突きつけてくるNetflix映画も珍しい。
洪水は世界を洗い流すが、この映画は観る側の価値観を濁らせる。
その居心地の悪さこそが、本作最大の存在意義だと俺は思う。
【モテ男の考察&感想】
この映画で一番モテないのは「選択を奪う側」だ。アンナを救う理由も、ジャインを切り捨てる理由も、全部“正しさ”で武装している。
でも本当に人の心を動かすのは、合理性じゃない。アンナが最後に選ばれるのは、完璧な母だからじゃない。「自分で決めて飛び込んだ」からだ。
モテる男も同じだ。正解を語るより、自分の不完全な選択に責任を持てるかどうか。そこに人は惹かれる。
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◆教訓、学び
守られる価値を語る男より、自分で選び、引き受ける覚悟を見せる男のほうが、圧倒的に人の心を掴む。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 17 / 20 |
洪水パニックの皮を被せて、後半でSFシミュレーションへ反転させる構成が攻めている。 前半は閉鎖空間サバイバルとして引き込みが強い一方、真相の説明はやや強引で置いていかれる人も出る。 ただ「母が子を選ぶ」という一点に収束させる設計は明快で、映画の芯はブレていない。 |
| 演技 | 18 / 20 |
キム・ダミがほぼ全編を背負い、恐怖・焦燥・覚悟の段階を身体感覚で押し切っている。 子どもを抱える母の「冷静でいなければ壊れる」緊張を、過剰な泣き芝居に頼らず出せているのが強い。 パク・ヘスは出番が限られていても存在感があり、物語の不穏さを底支えしている。 |
| 映像・演出 | 17 / 20 |
水位が上がる速度、通路の混雑、停電の不安といった“現実の嫌さ”を積み重ねる演出が効いている。 舞台をマンションに絞ることで、スケールは狭くても圧迫感と時間切れの恐怖が濃くなる。 ただ後半の説明パートは勢いが落ちやすく、体感テンポは少し乱れる。 |
| 感情の揺さぶり | 18 / 20 |
子どもと離れた瞬間から一気に心拍が上がり、母子サバイバルとしての不安を持続させる力がある。 「救助=全員を助けるものではない」という残酷な現実が差し込まれることで、怒りと悲しみが混ざった余韻が残る。 泣かせに行くより、状況で感情を追い詰めるタイプの揺さぶりだ。 |
| オリジナリティ・テーマ性 | 18 / 20 |
災害映画に“感情エンジン”“新人類”“膨大な試行”を接続し、母性を実験として扱う発想は尖っている。 人間の感情を「完成させるもの」として設計する危うさも含め、議論の余地が大きいテーマ設定だ。 納得感より挑戦心が勝つが、その分、観終わった後に考えが止まらない。 |
| 合計 | 88 / 100 |
洪水ディザスターを入口に、SFシミュレーションへ裏返す“ネタバレ厳禁”型の意欲作。 理屈の強引さはあるが、閉鎖空間の緊迫感とキム・ダミの牽引力で最後まで押し切る。 「感情とは何か」を雑に断定する危うさごと、観客に考えさせる一本。 |
◆総括
『大洪水』は、ディザスター映画としてのカタルシスや爽快感をあえて削り、洪水という極限状況を「感情を測定する装置」として使い切った異色作だ。
前半は母子サバイバルの緊迫感で観客を掴み、後半でその前提をひっくり返す構造は賛否を呼ぶが、少なくとも“何も考えずに消費される映画”ではない。
感情=母性という単純化には危うさがあり、理屈も強引だが、その歪さこそが本作の論点を浮き彫りにしている。
完成度の高さよりも問いの強度を選んだ結果、観後に不快さや違和感が残る人もいるだろう。
しかしその引っかかりは、「感情とは何か」「人は誰を、なぜ選ぶのか」という核心的なテーマに真正面から向き合った証でもある。
洪水は世界を沈めるが、この映画は観る側の思考を沈めず、むしろ掻き乱す。その一点において、『大洪水』は確かに挑戦的で、語られる価値のある一本だ。
◆もし現実で「大洪水」に遭ったら
DLY サバイバルグッズ/サバイバルツールセット(黒)
『大洪水』を観て痛感するのは、「助けを待つ前に、まず生き延びる準備」の重要性。
このキットには、非常時に役立つ基本ツールに加えて救命カーペットも含まれており、
水害・停電・避難時の初動対策として現実的。
※映画のような極限状況はフィクションでも、備えだけは現実で裏切らない。


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