映画『近畿地方のある場所について』(2025年)レビュー・考察
モキュメンタリー/ホラー/ミステリー|「調べてしまった人間の末路」を突きつける体験型の記録
◆映画『近畿地方のある場所について』の作品情報
【視聴ツール】
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◆キャスト
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瀬野千紘:菅野美穂
代表作『CURE』(1997)
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小沢悠生:赤楚衛二
代表作『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』(2023)
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佐山武史:夙川アトム
代表作『南瓜とマヨネーズ』(2017)
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諸田美弥:菅野莉央
代表作『仄暗い水の底から』(2002)
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凸劇ヒトバシラ:九十九黄助
代表作『サユリ』(2024)
◆ネタバレあらすじ
オカルト雑誌の編集者が突然行方不明になります。彼が失踪直前に追っていたのは、幼女失踪や中学生の集団ヒステリー、心霊スポット配信の騒動など、年代も媒体も異なる未解決事件と怪現象でした。同僚の編集部員・小沢悠生は、オカルトライターの瀬野千紘と組み、残された取材メモ、雑誌記事、映像資料を読み解きながら足取りを追います。断片はバラバラなのに、地名の欠落、同じ言い回し、奇妙な図柄といった共通点が少しずつ重なり、すべての線が「近畿地方のある場所」へ向かっていきます。二人は“調べるほど呼ばれる”感覚に抗えず、真相へ近づいていくのです。本作は取材の記録を束ねたような体裁で進み、視聴者も一緒に資料をめくる感覚になります。事件のピースをつなぐほど、登場人物の生活にじわりと異常が混ざり、編集者の失踪が“単なる人探し”では済まないと分かってきます。場所の特定は意図的にぼかされ、だからこそ身近な山や団地が急に不気味に見えてきます。結末を急がず、情報の積み上げが恐怖へ変わる瞬間を味わう映画です。静かな違和感が、次の資料を開かせる中毒性を生みます。観客もまた、その禁域へ誘導されていきます。
ここからネタバレありです。
ネタバレあり(開く)
千紘と小沢は、佐山が残した資料に共通するモチーフ(「柿」と「山」の呼び呼び声、四隅に「了」や「女」と書かれた鳥居の絵、赤い服の女など)を突き止め、怪異の発生源が山中の“ある場所”だと確信します。道中で二人は、配信動画やビデオ、短編アニメの形で提示される怪異を追体験し、過去の失踪と現在のネット騒動が一本の糸で結ばれていると理解します。目黒への取材から、怪異に“見られた者”は生き物を差し出して一時的に助かろうとすること、佐山もまたその循環の中で追い詰められたことが示唆されます。現地へ向かった小沢の前に現れるのは、白く毛のない猿のような姿で無数の手を持つ存在「やしろさま」です。小沢は身代わりの生贄として取り込まれ、無数の目に包まれながら黒い石の中へ吸い込まれてしまいます。その後、千紘は佐山失踪の時と同じように動画を投稿し、小沢の失踪を訴えますが、映像の途中から赤ん坊の泣き声が混ざり、最後に赤ん坊を抱えた千紘の手が赤黒く変質します。さらに無数の手が伸び、千紘の両目が左右に裂けるように広がったところで幕が下ります。つまり調査は、真相解明ではなく供物の選別に変わっていきます。観る側も同罪ですよ。きっと
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◆考察と感想
【俺目線の考察&感想】
正直に言う。この映画は「怖かったか?」と聞かれると、単純なYESではない。だが「嫌なものを見せられたか?」と聞かれたら、間違いなくYESだ。しかもそれは、観終わった瞬間ではなく、数日かけてじわじわ効いてくる類の嫌さだ。
本作はホラー映画の皮を被った「調査という暴力」を描いた作品だと思っている。
この映画の恐怖の核は、怪異そのものではない。怪異を調べ、記録し、言語化し、共有する人間の行為にある。失踪事件、雑誌記事、動画、噂話。それらは一見すると真実に迫るための善意の積み重ねだ。しかし本作は、その積み重ね自体が“ある場所”を肥大化させていく構造を突きつける。つまり、真実に近づこうとする行為そのものが、怪異を成立させてしまうという逆説だ。

白石晃士の演出は、いつも通り「見せない」ことに徹している。だが今回は、単なる演出上の節制ではなく、倫理的な距離感として機能していると感じた。場所の全貌は最後まで明確に示されない。CGも派手なスクリームも最小限だ。それでも不安が増殖していくのは、断片的な情報が観客の中で勝手に結合し始めるからだ。
これは恐怖のアウトソーシングだ。完成させているのはスクリーンではなく、俺たちの脳内だ。

特に印象的なのは、「関係者になる」という感覚だ。登場人物たちは皆、最初は無関係の立場にいる。仕事、興味、好奇心。そのどれもが自然で、責められる理由はない。だが一線を越えた瞬間から、彼らは“見る側”ではなく“見られる側”に移行する。
この構造は、ネット時代の我々そのものだ。炎上、心霊動画、事件考察スレ。安全圏から覗いているつもりで、実は当事者の回路に足を突っ込んでいる。その自覚のなさが、一番怖い。
また、本作が優れているのは、救済を一切用意しない点だ。多くのホラー映画は、謎を解くことで一時的な安堵を与える。しかし本作は違う。謎は解けても、意味は分からない。理由は分かっても、対処法はない。
それはまるで、社会の構造的な不安や、説明可能だが解決不能な問題を突きつけられているようだ。「知ること」は万能ではない。その冷酷な現実を、この映画は淡々と描く。
終盤、物語は完全に“取り返しのつかない地点”へ踏み込む。だが驚くほど感情的な盛り上がりはない。絶叫も涙もない。ただ、「ああ、そうなるよな」という諦念が支配する。この諦めこそが、本作の最大の恐怖だ。
ホラーなのにカタルシスがない。だからこそ、現実に近い。
俺はこの映画を観て、「調べること」「知ろうとすること」の危うさを改めて考えさせられた。真実は尊いが、すべての真実が触れていいものではない。
そして何より、この映画はこう問いかけてくる――
「お前は、どこまで知りたい?」
その問いに即答できない自分がいる限り、この映画は終わっていない。
【モテ男の考察&感想】
この映画が突きつけるのは、「好奇心は武器にも凶器にもなる」という事実だ。もてる男は、知らなくていい領域を見極められる男だと思う。何でも首を突っ込まず、踏み込む一歩手前で引ける判断力。それは臆病さじゃない、余裕だ。この映画の登場人物たちは皆、優秀で誠実だが、その一線を越えてしまった。もてる男は“知ること”より“守ること”を優先できる。危険な場所に近づかない選択こそ、成熟の証だ。
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◆教訓、学び
モテる男は、好奇心よりも“引く判断”を持っている。
◆評価
| 項目 | 点数 | コメント |
|---|---|---|
| ストーリー | 17 / 20 |
失踪事件を軸に、雑誌記事・映像・証言といった断片情報を積み重ねていく構成が非常に現代的だ。 明確な起承転結よりも「調べる過程」そのものを物語として成立させており、 観客も調査に参加させられる感覚が強い。 一方で説明を削ぎ落としすぎた部分もあり、好みは分かれる。 |
| 演技 | 18 / 20 |
菅野美穂は、理性的でありながら不安に侵食されていく過程を抑制の効いた演技で表現。 赤楚衛二も、好奇心と職業意識に縛られた編集者像をリアルに体現している。 感情を爆発させない芝居が、本作の不気味さを底支えしている。 |
| 映像・演出 | 18 / 20 |
白石晃士らしい「見せない恐怖」が徹底され、 派手な演出に頼らず、資料映像や静かなカットの連続で不安を増幅させる。 何気ない風景や文字情報が恐怖に変わる演出設計は秀逸で、 日常と地続きのホラーとして強く印象に残る。 |
| 感情の揺さぶり | 18 / 20 |
驚かせるタイプの恐怖ではなく、 理解してしまった後にじわじわ効いてくる後味の悪さが際立つ。 安心や救済を与えない構成が、観終わった後も思考を止めさせず、 不快さと同時に強烈な余韻を残す。 |
| オリジナリティ・テーマ性 | 18 / 20 |
本作の核心は怪異ではなく、「知ろうとする人間の行為」そのものにある。 記録・拡散・考察といった現代的行動が、 いかに無自覚に他者や場所を消費しているかを突きつけるテーマ性は鋭い。 モキュメンタリー形式を最大限に活かした独自性が光る。 |
| 合計 | 89 / 100 |
派手さよりも違和感を積み上げ、 「調べてしまった人間の末路」を冷静に描いた知的ホラー。 観る者の好奇心そのものを試す構造が秀逸で、 後から効いてくる不気味さは長く記憶に残る一本だ。 |
◆総括
『近畿地方のある場所について』は、恐怖を「見せる」映画ではなく、恐怖が生まれる過程そのものを観客に委ねる映画だ。怪異や呪いは確かに存在するが、それ以上に描かれているのは、人が「知りたい」「確かめたい」という欲望を手放せない姿である。調査、記録、共有――一見すると理性的で正当な行為が、いつの間にか取り返しのつかない領域へ踏み込んでいく。その境界線の曖昧さこそが、本作の最大の怖さだ。
白石晃士は今回も説明や救済を拒み、観客に判断を丸投げする。だからこそ、物語は終わっても体験は終わらない。観終わった後、地図やニュース、ネット上の断片的な情報が、少しだけ違って見えるようになる。その変化自体が、この映画に“触れてしまった証拠”だ。
派手な演出や分かりやすいカタルシスを求める人には不親切かもしれない。しかし、静かで粘着質な不安、説明不能な違和感、そして「知らなければよかった」という感覚を味わいたいなら、これほど誠実なホラーはない。
本作は問いを投げるだけで答えを与えない。だが、その問い――「お前は、どこまで知ろうとする人間なのか」――に向き合わされた時、この映画は完成する。
つまりこれは、スクリーンの中の怪談ではなく、観た者の内側に残り続ける“体験型の記録”なのだ。
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部屋の暗さより先に、まずイヤホンを整えると世界が変わる。



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