【映画】『透明人間』(2020年)
| 上映時間:124分
| 製作国:アメリカ、オーストラリア
◆作品情報
◆キャスト
- セシリア・カシュ:エリザベス・モス — 代表作『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017年〜)
- エイドリアン・グリフィン:オリヴァー・ジャクソン=コーエン — 代表作『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』(2018年)
- ジェームズ・レイニア:オルディス・ホッジ — 代表作『ワン・ナイト・イン・マイアミ』(2020年)
- シドニー・レイニア:ストーム・リード — 代表作『Euphoria/ユーフォリア』(2019年〜)
- エミリー・カシュ:ハリエット・ダイアー — 代表作『ラブ・チャイルド』(2014年〜)
🎬 あらすじ
『透明人間』(2020年)は、H・G・ウェルズの古典小説を現代的にリブートしたサイコロジカル・ホラーです。主人公セシリアは、富と才能を兼ね備えた科学者エイドリアンと同棲していました。しかし、その生活は愛情ではなく、束縛と恐怖に満ちたものでした。セシリアは意を決して彼の豪邸から脱出し、妹や友人の助けを借りながら新たな生活を始めようとします。ほどなくしてエイドリアンが自殺し、巨額の遺産を残したという知らせが届きます。自由と安定を得たかに思われたセシリアでしたが、周囲では次第に不可解な現象が起こり始めます。家の中で物が勝手に動く、聞こえるはずのない音がする、そして自分の身近な人間関係さえも壊されていくのです。やがてセシリアは、「エイドリアンは死んでいないのではないか」「何らかの方法で透明になり、自分を追い詰めているのではないか」という恐怖と疑念に囚われていきます。本作は、目に見えない存在に脅かされる心理的恐怖を、DVやストーカーという現実的なテーマと結び付けて描き出しています。
ここからネタバレありです
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セシリアは、次第に「透明な何者か」が自分を監視し、人生を壊そうとしていると確信します。やがて彼女は屋根裏で証拠となるステルススーツを発見しますが、その直後、妹エミリーが目の前で殺害され、セシリアに濡れ衣が着せられてしまいます。精神病院に収監された彼女は、妊娠していることを知らされますが、それさえもエイドリアンが避妊薬をすり替えて仕組んだものだと悟ります。脱出を図る中で透明人間を撃退し、スーツを脱がせると正体はエイドリアンの兄トムでした。しかしセシリアは真の黒幕がエイドリアンであると確信し、直接彼と対峙します。最後に彼女は隠していたスーツを使い、逆にエイドリアンを透明人間として葬り去るのです。自由を取り戻したセシリアの姿は、暴力的支配からの解放と同時に、見えない恐怖に立ち向かう女性像を鮮烈に描き出しています。
◆考察と感想
本作、『透明人間』(2020年)は、ただのリメイク作品という枠には収まらない強烈な体験だった。正直、最初は「透明になれる男が暴れる」という古典的B級ホラーのイメージを抱いていた。しかし、本作はそんな先入観を一瞬で覆してきた。恐怖は化け物の姿からではなく、目に見えない「支配」そのものから立ち上がってくる。観客としての自分は、主人公セシリアと同じように、画面に映らない存在に追い詰められていく感覚を味わわされた。
冒頭、彼女が深夜に豪邸を抜け出す場面から心臓が跳ねる。恋人エイドリアンの束縛はもはや愛情ではなく暴力であり、彼の支配から逃げる緊迫感が映像だけで伝わってくる。逃げ切った瞬間に少し安堵したのも束の間、彼の自殺と遺産相続の知らせが届き、「本当に死んだのか?」という疑念が芽生える。ここで観客の自分もセシリアと同じ目線に立たされるのだ。「死んだのに、なぜまだ恐怖が続く?」という問いが物語を引っ張っていく。
興味深いのは、透明化が「薬品」ではなく「ステルススーツ」によって実現されていることだ。近未来的で現実味があり、テクノロジーがストーカーや支配の道具になるという時代性を強く感じた。科学の進歩がもたらすのは夢ではなく悪夢なのか、そんな問いかけすら浮かんでくる。スマホや監視カメラに囲まれた現代に生きる自分にとって、「見られているのでは」という不安は決して他人事ではなかった。
物語の中盤からは「疑い」の連鎖が恐怖を増幅させる。妹との関係が壊され、友人にも信用されず、孤立していくセシリア。自分だったら、誰に助けを求められるだろうか? 見えない加害者と戦うということは、同時に「周囲の理解を得られない孤独」とも戦うことを意味する。ここに現代のDV被害やストーカー問題の恐ろしさが重なって見えてきた。
クライマックスに至るまで、観客はずっと「見えない何か」に視線を奪われ続ける。画面の隅の空間にまで神経を張り巡らせる演出が実に巧妙で、自分は無意識に呼吸を浅くしていた。特に印象に残ったのは、セシリアが屋根裏でスーツを発見し、確信に変わる瞬間だ。見えなかったものが一瞬でも姿を現すと、それまで積み上げられた不安が一気に爆発する。恐怖演出の緩急が本当に鮮やかだった。
そしてラスト。彼女が透明人間の力を逆に利用して復讐を果たす場面は、単なるカタルシス以上の意味を持っていた。支配される側から支配を打ち破る側へ。暴力と恐怖に支配され続けた女性が、自分自身の意思で立ち上がる姿に胸が熱くなった。ここでようやく「透明人間」は倒されたのではなく、支配の象徴が葬られたのだと理解した。
映画を観終えた後、ふと考え込んでしまった。人間関係における「見えない圧力」や「言葉にならない支配」は、透明人間のように実在しないようで確かに存在している。会社の上司、恋人、家族、友人……誰の生活にも潜む可能性がある。透明であるがゆえに気付きにくく、抗うのも難しい。だからこそ、この映画は単なるホラーではなく、自分たちが現実に直面している社会問題を投影する鏡のように思えた。
演技についても触れたい。エリザベス・モスの表情は圧巻だった。恐怖に怯え、疑心暗鬼に陥り、最後に覚悟を決めるまでの変化を、彼女は顔と体全体で表現していた。目に見えない相手と対峙する演技は想像以上に難しいはずだが、観客には常に「そこにいる」と錯覚させる力があった。彼女の存在感があったからこそ、この作品は心理的ホラーの域を突き抜けたのだと思う。
総じて、『透明人間』はリメイクという枠を超え、恐怖映画の進化形を示していた。透明な存在に怯えるのではなく、見えない支配や暴力にどう抗うかを描いた物語。そのテーマ性の鋭さと、観客を巻き込む演出が、自分にとって忘れられない体験になった。見終えた後も背筋に残る寒気は、単にホラーだからではなく、「自分の周りにも透明人間が潜んでいるのでは」というリアルな実感によるものだった。
◆モテ男視点の考察
『透明人間』は、女性が「見えない支配」から抜け出す物語だ。モテる男に必要なのは、逆に透明な安心感だと思う。束縛せず、相手が自由に呼吸できる空間を作れる男が強い。怖がらせて繋ぎ止めるのではなく、信頼で寄り添う。映画を観ながら、自分は相手に安心を与えられているかを考えた。恋愛も仕事も、見えない圧力ではなく、見えない支えになれる男こそ、本当にモテるのだ。
◆教訓
見えない支配や暴力こそが最も恐ろしく、そこから自らの意思で解放されることが真の自由につながる。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
---|---|---|
ストーリー | 18 / 20 | 原作があるので軸は強固。心理の掘り下げが主軸で、医療・精神面への寄りも必然だった。 |
演技 | 18 / 20 | 頼りなかった女性が強さを獲得していく過程が鮮烈。モスの身体表現が圧巻。 |
映像・演出 | 18 / 20 | 低予算を感じさせない緊張設計。余白のフレーミングで“そこにいる”錯覚を作る。 |
感情の揺さぶり | 17 / 20 | 「見えない暴力」への怒りと恐怖が波状に来る。着地点は王道だが納得感あり。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 17 / 20 | “薬品”でなく“スーツ”に置換した現代化は巧み。さらに踏み込みの余地も。 |
合計 | 88 / 100 | 絶望の只中で主体性を取り戻す物語。強い母の残像が焼き付く。 |
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