【映画】『悪い夏』(2025年) 嘘と欲望が交差する、福祉の闇。正義も恋も崩れゆく、“最悪の夏”が始まる―― | ネタバレあらすじと感想

サスペンス/スリラー

◆映画『悪い夏』の作品情報

  • 監督:城定秀夫
  • 脚本:向井康介
  • 原作:染井為人
  • 出演:北村匠海、河合優実、伊藤万理華、窪田正孝 他
  • 配給:クロック・ワークス
  • 公開:2025年
  • 上映時間:114分
  • 製作国:日本
  • ジャンル:社会派サスペンス、ヒューマンドラマ
  • 視聴ツール:Amazon Prime、自室モニター

◆キャスト

  • 佐々木守:北村匠海 代表作『とんかつDJアゲ太郎』(2020年)
  • 高野:毎熊克哉 代表作『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)
  • 宮田:伊藤万理華 代表作『サマーフィルムにのって』(2021年)
  • 愛美:河合優実 代表作『由宇子の天秤』(2021年)
  • 金本:窪田正孝 代表作『初恋』(2019年)

◆ネタバレあらすじ

市役所の生活福祉課で働く佐々木守(北村匠海)は、誠実ながらも気弱な性格の持ち主です。
ある日、同僚の宮田(伊藤万理華)から「職場の先輩である高野(毎熊克哉)が、生活保護を受給している女性に対して不適切な関係を強要しているかもしれない」との相談を受けます。
宮田はその実態を調べるため、佐々木に協力を依頼しますが、佐々木は戸惑いながらも断りきれず、真相を確かめるために動き出します。

調査対象となったのは、シングルマザーの愛美(河合優実)。彼女は育児に行き詰まり、支援を必要としている一方で、高野との関係については否定します。
しかし、愛美には決して表に出せない裏の顔がありました。佐々木はそのことを知らないまま、彼女に徐々に心を引かれていきます。

やがて、彼の周囲では不穏な空気が立ち込めはじめ、夏の暑さとともに日常が静かに、しかし確実に狂い始めていきます――。


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『悪い夏』あらすじ

実は愛美は、裏社会の人物・金本(窪田正孝)と深く関わっており、その愛人・莉華(箭内夢菜)、さらに荒っぽい手下・山田(竹原ピストル)と共に、ある犯罪計画に関与していました。
それは生活保護制度の“穴”を突いた金銭詐取の企てで、佐々木が勤める役所の内部情報も狙われていたのです。

佐々木は愛美の過去や関係を知らないまま、彼女に心を許し始め、次第に彼女の周囲のトラブルにも巻き込まれていきます。
一方で、生活困窮者であり、精神的に不安定な佳澄(木南晴夏)が頻繁に万引きを繰り返すようになり、その行動が思わぬかたちで事件と結びついていきます。

正義感に突き動かされる宮田の行動もエスカレートし、やがて佐々木を追い詰める事態に発展。
職場の倫理、犯罪と日常の境界、誰を信じるかといった問いが交錯する中、佐々木は人生で最も“悪い夏”を迎えることになります――その結末は、決して後戻りのできないものとなるのです。

◆考察と感想

正直言って、この映画、最初は地味な社会派ドラマかと思って舐めてた。でも観終わった後は、頭の中がずっとザワザワして止まらなかった。
『悪い夏』は単なる“福祉の現場の闇”を描いた作品じゃない。人間の弱さ、欲望、そして「正しさ」の脆さをえぐり出してくる、とんでもない一本だった。

主人公・佐々木守は、どこにでもいそうな真面目だけどちょっと頼りない公務員。俺は彼の「巻き込まれ体質」なところにかなり共感した。
面倒なことを避けたいと思っても、結局断れずに首を突っ込んでしまう――その結果、取り返しのつかないところに足を踏み入れてしまう。
正義感があるわけでもない。かといって悪人でもない。ただ「流されているうちに、壊れていく」。このリアルさが、観ていて痛かった。

一方で、河合優実演じる愛美の存在感は圧倒的だった。弱者の顔をしながら、裏社会とつながっていて、佐々木の心に入り込む。
嘘と本音がどこまでか分からない。そのミステリアスさに、佐々木が惹かれるのも分かる。でも、それって彼が「誰かに必要とされたい」「何かを守ってる自分でいたい」っていう、
内なる承認欲求を満たしてくれる存在だったからだと思う。

そして、物語後半で浮かび上がってくる“福祉制度の構造的な脆さ”。ここは社会派としても見どころ。
金本たちの犯罪計画が決して荒唐無稽ではなく、むしろ「こういうこと、本当に起きてるんじゃないか?」と感じさせる説得力があった。
特に佳澄(木南晴夏)のような、社会から見放されがちな存在が、どんどん崩れていく様子は胸が痛い。

全員がどこかで嘘をついているこの映画の構成は見事。正義を振りかざす者こそが盲目で、誠実に見える者が最も弱く、弱者に見える者が最もしたたか。
登場人物全員が、立場によって善にも悪にもなり得る。そのグラデーションがリアルで、観ている側の倫理観すら揺らされる。

タイトルの『悪い夏』は、単なる季節の比喩じゃない。これは「人間の心の奥に潜む悪意」が噴き出した一季節、という意味なのだと思う。
そしてそれは特別な事件じゃなく、俺たちのすぐ隣にある日常でも簡単に起こりうる。そのことを、この映画は容赦なく突きつけてくる。

観終わってからもしばらくは、職場の人間関係や、普段スルーしている弱者の存在について考えさせられた。
誰が「悪い」のか? 誰が「正しい」のか? 簡単には割り切れないこの問いこそが、この映画最大の衝撃だと思う。

◆『悪い夏』考察(モテ男)

正直、佐々木は“モテない男”の典型。愛美に惹かれたのも、自分を必要としてくれそうな空気に流されたから。
でも、あれは恋じゃない。自己肯定感の穴を他人で埋めようとしただけ。モテる男は見抜くけど、彼は見抜けなかった。
愛美も計算高いけど、相手を見て引き込む力がある。つまり“需要と供給”が成立した危険な関係だったってこと。
恋じゃなく依存――それがこの映画の闇の本質。

◆教訓・学び

寂しさに付け込む女に惹かれる男は、いつか自分を見失う。

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