【映画】『この心が知っている』(2025年) 記憶が失くなっても、心だけはあなたを覚えている | ネタバレあらすじと感想

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◆映画『この心が知っている』の作品情報

  • 原題:The Heart Knows
  • 監督・脚本:マルコス・カルネバーレ
  • 出演:ベンハミン・ビクーニャ、フリエタ・ディアス、ペト・メナヘム 他
  • 配給:Netflix
  • 公開:2025年
  • 上映時間:89分
  • 製作国:アルゼンチン
  • ジャンル:ヒューマンドラマ
  • 視聴ツール:Netflix(吹替、自室モニター)

◆キャスト

  • フアン・マヌエル:ベンハミン・ビクーニャ 代表作『パパはレスキューヒーロー』(2023年)
  • ヴァレリア(ヴァレ):フリエタ・ディアス 代表作『ライオン・ハート』(2013年)
  • ペドロ:ペト・メナヘム 代表作『The Heist of the Century』(2020年)
  • クラウディア:グロリア・カラ 代表作『El hijo』(2019年)
  • アナベル:フリア・カルボ 代表作『El patrón, radiografía de un crimen』(2014年)

◆ネタバレあらすじ

映画『この心が知っている』は、心臓移植を受けた主人公マヌエルが、新しい命と向き合いながら自分自身を見つめ直していく、ヒューマンドラマです。舞台はアルゼンチン。病に倒れたマヌエルは、生死の境をさまよう中で奇跡的にドナーを得て、心臓移植手術を受けます。手術は成功し、体は健康を取り戻しますが、心の中には違和感が残ります。以前は興味のなかった音楽に惹かれ、好みも変わっていく自分に戸惑う日々が続きます。
やがてマヌエルは、心臓の提供者が誰だったのかを知りたいという衝動に駆られます。提供者の人生を知ることで、自分の中に芽生えた感情の意味を理解しようとするのです。その想いは彼を予期せぬ旅へと導き、ドナーの家族や過去の出来事と向き合わせていきます。愛と記憶、そして運命が交錯する中で、マヌエルは自分が何者なのかを探し続けていきます。

💭 考察と感想

映画『この心が知っている』は、心臓移植という医療的テーマを起点にしながらも、実際には「記憶とは何か」「感情とは誰のものか」「人はどこまで他者になれるのか」といった哲学的な問いを内包した作品です。単なる感動ドラマではなく、観る者の内面に静かに問いかけてくるような構成になっています。

物語の中心にいるのは、心臓移植を受けた主人公マヌエル。手術によって身体は救われたものの、彼の精神はどこか不安定で、自分が自分でなくなったような感覚に苛まれます。味覚や音楽の好みが変わるという描写は、移植後の「セルラーメモリー仮説」(臓器に記憶が宿るという説)を連想させるものであり、そこに科学と感情、個人と他者の曖昧な境界が浮かび上がってきます。

マヌエルがドナーであるリカルドの人生を辿る旅は、実際には「もう一人の自分」と向き合う旅でもあります。リカルドがどんな人物だったのかを知れば知るほど、マヌエルの中にはリカルド的な感情が芽生えていきます。その最たるものが、リカルドの恋人だったルシアに惹かれていくという展開です。これはただの恋愛ではなく、「自分の心が誰に向かっているのか、それは自分の意思なのか」という非常に繊細な問いに繋がります。

本作で最も印象深いのは、マヌエルがルシアに真実を告げられずに苦悩する場面です。心臓という臓器が持つ象徴性――すなわち「感情の源泉」であることが、ここでは極めてリアルに描かれています。彼は自分の感情に正直でいたいけれど、それが誰の感情なのかが分からない。その混乱が、観ているこちらにも伝染し、感情の所有権という普段は考えないような問題意識を喚起させてくれます。

また、マヌエルがリカルドの家族や恋人との接点を持ちつつも、決して完全にその人生に踏み込もうとしない描写が、作品全体の慎み深さを保っています。もし彼がすべてを明かし、リカルドの「代替」としてその人生を引き継いでいたら、それは倫理的にも感情的にも破綻していたでしょう。映画はその一歩手前でとどまり、「他人の命をどう生かすか」を静かに提示してくれるのです。

視覚的にも印象的だったのは、マヌエルが再び音楽に触れるシーンや、リカルドが遺した音楽の録音を聞く場面です。音楽は記憶の媒介であり、感情を呼び起こす力を持ちます。そこに宿る「誰かの気配」が、マヌエルの中に残るリカルドの心とつながっていく様子は、非常に詩的でした。

総じて、『この心が知っている』は、シンプルな構成ながらも多層的な意味を持った作品です。「命を受け継ぐ」という重いテーマを真正面から描きながらも、決して説教臭くならず、むしろ静謐で誠実な語り口を貫いています。観る者の記憶に長く残るであろう、丁寧に編まれた一本だと感じました。人生やアイデンティティに迷いがあるとき、きっと誰かの心に優しく寄り添ってくれる作品です。

📌 教訓・学び

他者の命を受け継ぐことは、過去と向き合いながら自分自身を再発見する旅でもある。

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