【映画】『室井慎次 生き続ける者』(2024年) 正義は、守るべきものを知ったとき、再び動き出す—— | ネタバレあらすじと感想

ドラマ

🎬 作品情報

  • 監督:本広克行
  • 脚本:君塚良一
  • 出演:柳葉敏郎、福本莉子、斎藤潤、いしだあゆみ、真矢みき、筧利夫 他
  • 配給:東宝
  • 公開:2024年10月
  • 上映時間:115分
  • 製作国:日本
  • ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
  • 視聴ツール:U-Next、自室モニター

👥 キャスト

  • 室井慎次:柳葉敏郎 代表作『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998年)
  • 日向杏:福本莉子 代表作『ディア・ファミリー』(2024年)
  • 森貴仁(タカ):齋藤潤 代表作『カラオケ行こ!』(2024年)
  • 桜章太郎:松下洸平 代表作『ミステリと言う勿れ』(2023年)
  • 新城賢太郎:筧利夫 代表作『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』(2003年)

📖 あらすじ

警察官として信念を貫いてきた男、室井慎次。『踊る大捜査線』シリーズの要となる人物である彼が、本作『敗れざる者』で再びスクリーンに帰ってきました。物語は、警察庁を退いた室井が、ある地方都市で静かな日々を送る姿から始まります。かつての喧騒とは無縁の生活。自身の内面と向き合いながら、少年・森貴仁(タカ)を育てる日々を過ごしていました。

しかし、室井のもとにかつての事件の影が忍び寄ります。彼が追い詰めた殺人犯の「娘」が現れ、再び警察組織と室井との関係に緊張が走るのです。本作は、ひとりの男が過去と向き合い、「正しさとは何か」を問う人間ドラマであり、警察組織の暗部に迫る社会派サスペンスでもあります。

📝 考察と感想

『敗れざる者』を観て、まず強く感じたのは「こんなに静かなのに、どうしてこんなにも響くのか」という不思議な感覚だった。これは単なるスピンオフじゃない。『踊る大捜査線』の世界観を引き継ぎながら、室井慎次という男の「魂の重さ」を描き切った一作だと思った。柳葉敏郎が演じる室井は、表に出ることを良しとせず、ただひたすらに正しいと思う道を選び続ける。その姿勢に、俺は静かな憧れすら覚えた。

室井は一見、派手なキャラクターではない。だが、組織に押しつぶされそうになりながらも正しさを追い続ける姿勢は、観ていて胸を打つ。正義を叫ぶでもなく、ただ静かに責任を引き受けていく。その姿が「敗れざる者」なんだと俺は思う。組織の中で闘い、沈黙し、耐える者。敗れていないのに、勝ったとも言えない。その微妙な立ち位置が、ものすごくリアルに感じられた。

特に印象に残ったのは、冤罪という重たいテーマに対して、室井が決して「答えを出す側」に立たず、過去の選択と向き合う姿勢を貫いていたところ。正義とは何か。人を守るとはどういうことか。それは、決して明確な正解がある問いじゃない。でも彼は、それに向き合うことをやめない。俺も、仕事や人間関係のなかで、時々「これで良かったのか」と自問することがあるけど、室井のように“答えを出さないまま責任を引き受ける”という覚悟に、なんだか背中を押された気がした。

そして、杏との関係もすごく良かった。日向真奈美の娘という存在を通して、室井がこれまで避けてきた「個人的な後悔」と向き合う展開は、本作に人間としての奥行きを与えていた。彼女と話す室井の視線や言葉の端々に、言葉にしきれない感情が宿っていて、それが観ているこっちの心にまで伝わってきた。

柳葉敏郎の演技はやっぱりすごい。台詞が少ないぶん、表情、立ち方、目線──すべてに感情が込められていて、「この人は今、何を背負っているのか」が、観ていて自然に伝わってくる。派手なアクションや感動的な演出に頼らず、キャラクターの“生”をここまで描けるのは、本当にすごいことだと思う。

『踊る』シリーズって、事件そのものよりも“人”にフォーカスするのが上手い。この作品も例に漏れず、警察という巨大な組織のなかで、それでも自分であろうとする人間の苦悩と希望を描いている。俺は室井慎次というキャラが好きだったけど、この作品を観て、もっと深く好きになった。

📌 シリーズ間の前後関係に関する注釈

『敗れざる者』の終盤、室井が撃たれた場面はショッキングだった。俺も正直、「ああ、これで室井の物語は終わったのか」と思った。でも続編『生き続ける者』では、あっさりと室井が生きている。この整合性に違和感を持った人も多いと思う。

ただ、俺なりの解釈をするなら、あのラストは象徴的な演出だったのかもしれない。実際には致命傷じゃなかった、あるいは“心が死んだ瞬間”を象徴していただけかもしれない。あるいは『生き続ける者』が時系列的に過去、もしくは別視点で描かれた話だと考えることもできる。矛盾を抱えつつも、それでも「室井を描き続ける」ことに価値があると製作側は判断したんだろうな。

室井の“生”は、まだ物語として必要とされている。それが、このシリーズが持つ力だと、俺は思っている。

💡 教訓・学び

信念を貫くことは、たとえ孤独でも、敗れない生き方である。

ヒューマンドラマとサスペンスが絶妙に絡み合った本作。室井慎次という人物が歩んできた「正義」の道を、じっくり味わいたい方におすすめなのがDVDスタンダード・エディションです。

かつての『踊る大捜査線』ファンも、初めて室井の物語に触れる方も、自宅でゆっくりその余韻に浸ってみませんか?


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