◆映画『ヘレディタリー/継承』の作品情報
- 【原題】Hereditary
- 【監督・脚本】アリ・アスター
- 【製作総指揮・出演】トニー・コレット
- 【出演】アレックス・ウルフ、ミリー・シャピロ 他
- 【配給】A24、ファントム・フィルム
- 【公開】2018年6月
- 【上映時間】127分
- 【製作国】アメリカ
- 【ジャンル】ホラー、サスペンス、ドラマ
- 【視聴ツール】U-NEXT、吹替、自室モニター
◆キャスト
- アニー・グラハム:トニ・コレット 代表作『ナイフ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)
- ピーター・グラハム:アレックス・ウルフ 代表作『オッペンハイマー』(2023年)
- チャーリー・グラハム:ミリー・シャピロ 代表作『Hysteria!』(2024年)
- スティーヴ・グラハム:ガブリエル・バーン 代表作『マニアック』(2015年)
- ジョーン:アン・ダウド 代表作『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017年〜)
◆ネタバレあらすじ
アメリカの郊外に暮らすグラハム家は、家族の中心的存在だった祖母エレンの死をきっかけに、静かに、しかし確実に崩壊の兆しを見せはじめます。母アニーはミニチュアアーティストとして制作に没頭する一方で、母との確執や育児へのストレスを抱えており、家族との間に深い隔たりを感じています。夫のスティーヴは理性的に家庭を保とうと努力しますが、次第に家庭内の雰囲気に飲まれていきます。
長男ピーターは高校生で、思春期特有の苛立ちや孤独を感じており、妹チャーリーは13歳ながらも他の子どもと明らかに異なる感性を持ち、不気味な工作や奇妙な行動を繰り返すことで家族からも距離を置かれています。そんななか、家の中で起こる不可解な出来事や、説明のつかない現象が次第に頻発するようになります。チャーリーの行動をきっかけに、家族の中に何か得体の知れない存在が介入しているのではないかという不安が広がっていきます。
やがてアニーは、家族の血筋に隠された過去の秘密へと近づいていきます。愛と憎しみ、理性と狂気が交錯するなか、グラハム家を覆う闇はじわじわと形を現していきます。
◆考察と感想
本作、『ヘレディタリー/継承』は、単なるホラー映画の枠を超えた、極めて完成度の高い心理サスペンス・ドラマです。アリ・アスター監督の長編デビュー作とは思えないほど、演出・脚本・演技・音響・美術のすべてが緻密に設計されており、1シーンたりとも無駄がありません。物語は悪魔崇拝や呪術的な継承を描いていますが、根底に流れるのは「逃れられない家族の連鎖」という普遍的なテーマです。
特に印象的なのは、母アニーの感情の振れ幅です。彼女は母との確執や育児の罪悪感に苛まれ、精神の均衡を崩していきますが、それは決して突飛な描写ではなく、多くの人が抱えうる親子の葛藤としてリアルに描かれています。トニ・コレットの演技は凄まじく、顔の筋肉の動き、泣き崩れる姿、怒りに満ちた瞬間の眼差しなど、どのシーンも息を呑む迫力がありました。
また、チャーリーの死という大事件を物語の序盤に置く構成も非常に巧妙です。この出来事が中盤以降の狂気をすべて裏打ちする“原点”となっており、観客は以後ずっと「何が次に起きるのか」という不安に包まれたまま物語を追うことになります。
さらに注目すべきは、本作に満ちる“象徴性”です。ミニチュア模型はアニーの世界観の投影であり、登場人物の運命が神の視点で支配されていることを示しています。また、舌を鳴らす音、火、王冠、ツリーハウスといったモチーフが繰り返し現れ、伏線の積み重ねと回収の流れは圧巻です。
終盤の展開は一見突飛に見えますが、冷静に振り返ると、冒頭から綿密に伏線が仕込まれており、すべてが“必然”として完結しています。この「運命に抗えない」という構造は、観客に深い無力感と恐怖をもたらします。
作品全体を通して描かれているのは、家族という密室空間の中で、愛と狂気、信仰と理性がせめぎ合う様です。誰もが口を揃えて「こんな家族、異常だ」と言いたくなるでしょう。しかし、果たしてそうでしょうか? 家族にも継承された価値観や抑圧は存在し、だからこそこの作品は“他人事ではない”のです。
総じて『ヘレディタリー/継承』は、ジャンル映画の枠を軽々と越え、観る者の心理に深く刺さる作品です。恐怖とは何か、家族とは何か、そして人は運命に逆らえるのか。その問いを静かに、しかし容赦なく突きつけてきます。
◆教訓・学び
逃れられない血の因縁は、無意識のうちに人生を支配する。
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