📄 作品情報
- 脚本:詩森ろば、畠山隼一、岡田真理
- 演出:宮崎陽平、嶋田広野、小牧桜
- 出演:松坂桃李、吉岡里帆、奥平大兼、及川光博 ほか
- 製作:TBSテレビ
- 放送期間:2025年1月~3月
- 放送時間:日曜21:00~21:54
- ジャンル:学園ドラマ、社会派ドラマ
- 視聴方法:TVer、U-NEXT など
📝【第1話】あらすじと感想
東京にある名門・東邦学園高校。新学期早々、風変わりな教師・御上陽一(松坂桃李)が着任する。白髪混じりのスーツ姿で初登校した彼は、いきなり教室で「君たちは何のために学ぶのか?」と問い、生徒たちを戸惑わせる。彼の教育スタイルは、教科書を読み上げるのではなく、生徒に「考えさせる」ことを重視する対話型。
一方、学校の上層部では「改革」の名のもとに、生徒の成績をデータで管理し、保護者や政治家に成果をアピールする制度改革が進行中。副校長(及川光博)は、教育省と太いパイプを持つ代議士の意向に沿う形で、学校運営を「管理・数値化」へとシフトさせようとしていた。
御上はそんな風潮に疑問を抱きつつも、生徒一人ひとりと真正面から向き合っていく。特に問題児扱いされていた生徒・結城涼(奥平大兼)との関係に注目が集まる。結城は、家では家庭崩壊、学校では孤立状態にあり、教師からも見放されかけていた。
御上は彼に「逃げてもいい、でも自分の中の声からは逃げるな」と語りかけ、徐々に心を開かせていく。だがそんな矢先、学校で起こった不正な内申書改ざん問題が表面化し、御上の立場は危うくなっていく…。
最後は、生徒たちが自発的に意見を発表し、学校への疑問をぶつける場面で幕を閉じた。御上が発した一言「これは、君たちの学校だ」が強く印象に残るエンディングだった。
💬 考察と感想
第1話を観終えたとき、心に強く残ったのは「教育の中にある政治性」と、それに抗う教師・御上陽一の姿だった。彼は理想論者ではない。現実を冷徹に見つめながらも、「それでも自分は変えられる」と信じて行動する、極めて能動的な教育者だ。松坂桃李が演じるその姿は、熱血でも狂気でもなく、ひたすらに「真っ直ぐ」だったのが印象的で、その真っ直ぐさが生徒たちの心を動かしていく過程がリアルだった。
御上が繰り返し生徒たちに投げかける「なぜそれを学ぶのか?」という問いは、今の社会全体に通じる深いテーマを含んでいる。単に正解を当てるのではなく、自分で思考し、自分で問いを立てる力。それは、受け身の教育で育った世代にとっても胸に刺さる問いかけである。
また、結城涼という問題児に対する御上のアプローチも見逃せない。多くの教師が「更生させよう」とする中で、彼は「一緒に悩む」姿勢を取る。「逃げてもいい。でも、自分の中の声からは逃げるな」と語る御上の言葉は、結城だけでなく、視聴者にとっても響くセリフだった。人を変えるのではなく、人と向き合う。それこそが教育の本質であり、ドラマの核心でもある。
一方で、学校運営の現実も丁寧に描かれていた。副校長(及川光博)は、政治家と教育現場の“接続点”として存在し、教育改革を「成果の見える化」「数値による評価」へと導こうとする。この構図は、現代社会でよく見られる“効率化”と“人間性”の衝突そのものだ。そこに抗う御上の姿は、単なる理想主義ではなく、教育を「制度ではなく人がつくる」という信念の表れだった。
また、演出面でも印象的な場面がいくつかあった。特に、教室での対話シーンでは、生徒の沈黙や表情、空気感を大切にした演出がなされており、「授業」という空間がいかに繊細なコミュニケーションの場であるかを感じさせた。BGMの使い方も控えめで、セリフや間に重みを持たせる効果があった。
このドラマの面白さは、「問題解決」を提示するのではなく、「問題提起」に徹している点にある。視聴者に答えを渡すのではなく、視聴者自身に「どう思うか」を考えさせる構造が貫かれている。その姿勢は、御上の授業スタイルそのものであり、ドラマの作り手が主人公と同じく「問い続ける姿勢」を取っているように感じた。
結論として、第1話が提示したのは「考えることを放棄せず、自分の頭で問い続けることこそが、社会を変える第一歩である」という強烈なメッセージだった。ドラマでありながら、現実に通じる警鐘として、この言葉を心に刻んでおきたい。
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