【野球】阪神・村上頌樹、静かなる完封劇──一球一球が語る物語

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「え、もう終わったの?」
そんな言葉が思わず出てしまうほど、あっという間の試合だった。
2025年5月9日、甲子園球場。阪神タイガースの先発・村上頌樹投手が、完璧に近い内容で中日ドラゴンズを封じ込めた。

結果は、9回完封・98球・無四球・6奪三振。これ以上ないほどの“効率美”で試合を制し、阪神に貴重な1勝をもたらした。
ちなみに、こうした100球未満での完封は、近年では「マダックス」と呼ばれることもある。

🧢 村上頌樹という投手

村上頌樹(むらかみ・しょうき)は1998年6月25日生まれ、兵庫県出身。
兵庫・智弁学園高校から関西学院大学、そして東洋大大学院を経て、2021年のプロ野球ドラフトで阪神から5位指名を受け入団した。

派手な経歴ではないが、着実に力を蓄え、2023年にブレイク。防御率1.75、10勝6敗という圧倒的な成績でセ・リーグ新人王に選ばれた。

身長174cmとプロ投手としては小柄ながら、抜群の制球力と緩急を活かした投球術で打者を翻弄する。
ストレートは最速でも145km前後だが、ボールの出し入れと緩急、そしてリズムがとにかく巧み。打者に「打ちにくさ」を感じさせるタイプだ。

🧮 98球完封、その意味

1試合完投するには、通常100〜130球が必要とされる。
打者との駆け引き、フルカウント、四球、粘られる打席……あらゆる場面で球数は自然と増えていく。

しかしこの日、村上はわずか98球で試合を締めくくった
これが「マダックス」として記録されるものだとすれば、プロ初の快挙となる。

しかも、味方打線の援護点は決して多くなかった。接戦の中で、無駄な四球もなければ、ストライクゾーンで不用意に勝負することもない。
「ここしかない」というコースに決める制球と、打者を泳がせる間の取り方が絶妙だった。

守備陣もそれに応え、失策ゼロでバックアップ。ベンチもファンも、自然と息を呑みながら投球を見守っていた。

🎬 派手な見せ場ではなく、静かに進む展開の魅力

村上の投球を観ていて思い出したのは、爆発シーン満載のハリウッド映画ではなく、静けさと緊張感で魅せるヨーロッパ映画のような展開だった。

三振をバタバタ奪うよりも、内野ゴロで簡単に片づける。テンポよく試合を運び、必要最低限の球数で終わらせる。
その中で生まれる“静かな迫力”が、マダックス達成者に共通する美学かもしれない。

見ていて思ったのは、「これが“背中で語る”ということか」ということだった。

🐅 背負っているものの大きさ

前カードでは阪神は中日にまさかの3連敗。この試合も流れが悪ければズルズルと負け越す可能性もあった。
だが、そんな悪い流れを断ち切ったのが村上のピッチングだった。

しかも、今回で2試合連続の完封勝利。今季通算6勝目は、セ・リーグ単独トップに躍り出る内容だ。

開幕からの安定感も含めて、「もうエースと呼んで差し支えない存在」に成長しつつある。

それでも本人は淡々と、ヒーローインタビューでも多くを語らず。「やるべきことをやっただけ」という風情がまたいい。

✍️ 観る者の記憶に残る“静かな主役”

試合後のSNSでは、村上の投球に対する賞賛の声が数多く上がった。
そのなかには「マダックスって日本でもあるんだ…」といった声も見られ、にわかにこの言葉が注目されつつある。

今のプロ野球界はスターが多く、球速や豪快さが話題になる傾向が強い。
だが、村上のように淡々とした表情で、野球の本質を突くようなプレーを見せる選手は、どんな時代にも必要だと思う。

“勝てばいい”じゃない。“どう勝つか”が、その選手の物語になる。
村上頌樹というピッチャーは、その意味をプレーで教えてくれる稀有な存在だ。

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