【映画】『ユリゴコロ』(2017年) 愛か、罪か。——母が遺したノートが暴く、人を愛することと殺すことの境界線 | ネタバレあらすじと感想

サスペンス/スリラー

◆映画『ユリゴコロ』(2017年)

【監督・脚本】熊澤尚人
【原作】沼田まほかる
【出演】吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、木村多江ほか
【主題歌】Rihwa「ミチシルベ」
【配給】東映、日活
【公開】2017年 【上映時間】128分 【製作国】日本
【ジャンル】サスペンス、ミステリー、ヒューマンドラマ
【視聴ツール】Amazon Prime、自室モニター、Anker Soundcore AeroClip

◆キャスト

  • ・美紗子:吉高由里子 代表作『横道世之介』(2013年)
  • ・亮介:松坂桃李 代表作『新聞記者』(2019年)
  • ・洋介:松山ケンイチ 代表作『デスノート』(2006年)
  • ・千絵:清野菜名 代表作『キングダム 運命の炎』(2023年)
  • ・美紗子(中学生):清原果耶 代表作『護られなかった者たちへ』(2021年)

◆あらすじ

亮介(松坂桃李)は、婚約者の千絵(清野菜名)とともに静かな高原のレストランを営んでいます。穏やかな日々の中、ある日突然、千絵が姿を消してしまいます。途方に暮れる亮介のもとへ、追い打ちをかけるように、父・洋介(松山ケンイチ)が末期ガンであることが判明します。そんな中、亮介は実家の押入れから一冊のノートを見つけます。その表紙には「ユリゴコロ」と書かれており、中には“美紗子”という女性の人生が綴られていました。そこに記された内容は、想像を絶するほど残酷で、そして哀しいものでした。物語が進むにつれ、亮介はこのノートの持ち主と自分の過去との間に、何らかのつながりがあることを直感します。やがて、「ユリゴコロ」という言葉が意味するものを探る旅が、彼の人生そのものを揺るがすことになっていくのです。

ここからネタバレありです

ノートの筆者・美紗子(吉高由里子)は、生まれながらに“心の拠り所=ユリゴコロ”を持たず、人を殺すことでしか心の平穏を保てない女性でした。幼少期に友人を池で溺死させ、中学では少年を殺すなど、常に死の衝動に支配されて生きてきました。やがて売春を通じて洋介と出会い、互いに過去の罪を抱えながらも心を通わせます。美紗子は誰の子とも分からない子を妊娠し、洋介と結婚して家庭を築きますが、罪悪感に耐えきれず、自ら命を絶とうとします。洋介は彼女を救おうとしますが、結局美紗子は姿を消します。亮介はこのノートを通して、自分こそが美紗子の息子であることを悟ります。失踪した千絵を救うため奔走する彼の前に現れた“細谷”という女性こそ、整形して身を隠していた母・美紗子だったのです。

◆考察と感想

『ユリゴコロ』は、観終わったあとに心の奥を静かにえぐる映画だった。最初は単なるサスペンスかと思っていたが、ページをめくるように真実が明かされていくたびに、「生きるとは何か」「愛するとは何か」を突きつけられる。

疲れた様子で横たわる吉高由里子と松山ケンイチ
〈冒頭〉疲労と虚無が同居する、寄り添うふたりの静けさ。

特に、吉高由里子演じる美紗子の存在感が圧倒的だ。彼女の中にある“欠けた何か”は、単なる異常性ではなく、世界と繋がるための不器用な叫びにも見えた。人を殺すことでしか生を実感できないという歪んだ心は、恐ろしいのにどこか切ない。

彼女の「ユリゴコロ」とは、結局のところ“愛”を知らずに生きてきた人間が、ようやく愛を知った瞬間に生まれた“心”そのものだったんじゃないかと思う。

夜空を見上げる吉高由里子(屋上のベンチ)
〈孤独と葛藤〉凍える夜、微かな光を探す眼差しが胸を刺す。

物語の構造は、現在と過去がノートによって交錯する二重構成。亮介がノートを読むたびに、美紗子の人生が鮮やかに立ち上がる。最初は冷たい観察者だった俺の視点も、次第に彼女の心に引き込まれていった。どんなに壊れていても、彼女の中には確かに“生きたい”という願いがある。

それが「ユリゴコロ」の正体なんだと思った。

暗がりで刃物を構える吉高由里子
〈絶望と衝動〉生と死の境界で震える手。心が最も深く揺れる瞬間。

松坂桃李が演じる亮介も見事だった。彼の静かな怒り、戸惑い、そして真実に近づくほどに崩れていく心の描写は非常にリアルだ。父・洋介(松山ケンイチ)との対比構造も秀逸で、罪を知りながら愛そうとする男と、愛を知っても赦されない女。その二人の間に生まれた亮介は、まさに「愛と罪の子」だ。

熊澤尚人監督の演出はとても繊細で、湿った空気、静寂に包まれた室内、薄暗い照明がすべて“心の闇”を映し出すように構成されている。殺人や死の描写があっても、それをグロテスクに見せないのは、監督の人間へのまなざしが温かいからだろう。

遠くを見つめる松山ケンイチの横顔
〈再生と赦し〉沈黙の彼方を見据える父。後悔と祈りが同居する表情。

特筆すべきは、ラストの“再会”の場面だ。整形して別人となった美紗子(木村多江)が息子の前に現れる。点と点がつながる瞬間の緊張感は凄まじく、罪を犯し、愛を失い、それでも最後に息子を守るために戻ってくる姿に涙が溢れた。

観終わったあとに残るのは、暗闇ではなく、かすかな光。人間はどんなに壊れても、誰かを想うことで救われる瞬間がある。重く苦しい物語なのに、なぜか温かくて、美しい映画だった。

◆考察(もて男視点だと…)

『ユリゴコロ』の本質は、“人を理解する力”にある。モテる男とは、表面的な優しさではなく、相手の心の闇を受け止められる男だ。亮介が母の罪と過去を受け入れたように、女性の「弱さ」や「痛み」を否定せず抱きしめること。恐れず向き合う勇気こそが、最も魅力的な男の証だ。愛は、赦す強さの中に宿る。

◆総括

『ユリゴコロ』の本質は、“人を理解する力”にある。モテる男とは、表面的な優しさではなく、相手の心の闇を受け止められる男だ。亮介が母の罪と過去を受け入れたように、女性の「弱さ」や「痛み」を否定せず抱きしめること。恐れず向き合う勇気こそが、最も魅力的な男の証だ。愛は、赦す強さの中に宿る。

◆教訓・学び

本当にモテる男とは、力を誇示するのではなく、信念で人を守る覚悟を持つ男である。

◆あわせて読みたい

行動できる男はモテる――正義も恋も、頭で考えるよりまず一歩踏み出す勇気が鍵だ。

  • 『すばらしき世界』(2021年)
    出所した元殺人犯が、社会の中でまっとうに生きようともがく人間ドラマ。過去の罪と向き合いながら“愛”や“居場所”を探す姿が、『ユリゴコロ』の亮介と重なる。
  • 『渇水』(2023年)
    水道局職員が仕事を通じて心の乾きを知る社会派ヒューマンドラマ。静かな絶望の中に人の優しさが滲むトーンは、『ユリゴコロ』の孤独と救いの物語に通じる。

◆評価

項目 点数 コメント
ストーリー 18 / 20 母と子、罪と愛が交錯する二重構造の脚本が見事。過去と現在をノートで繋ぐ手法が巧みで、静かな狂気と優しさの対比が際立っている。
演技 19 / 20 吉高由里子の静と動を行き来する演技が圧巻。松坂桃李と松山ケンイチの繊細な感情表現も素晴らしく、三者の芝居が心の奥を突き刺す。
映像・演出 18 / 20 熊澤尚人監督の美しい映像美と陰影のある照明が、心の闇を静かに描く。水や雨、光の使い方が詩的で、感情の温度を巧みにコントロールしている。
感情の揺さぶり 19 / 20 恐怖と哀しみ、赦しと愛。その全てが胸に押し寄せる。母の手記を通して息子が救われる構図に、人間の弱さと希望が深く響く。
オリジナリティ・テーマ性 18 / 20 サスペンスでありながら“母性の再生”を主軸に据えた構成が独特。人を愛することと殺すことの境界を描くテーマ性は国内映画の中でも異彩を放つ。
合計 92 / 100 美しさと残酷さが共存する稀有なヒューマンサスペンス。愛を知らなかった女が“心”を見つけ、息子が赦しを得る――その瞬間の静けさが、何よりも深く心に残る。

◆総括

『ユリゴコロ』は、単なるサスペンスではなく、“人間の心の起源”を探る壮絶な愛の物語だった。殺人という禁忌を題材にしながらも、そこに流れるのは暴力ではなく「赦し」と「救済」だ。吉高由里子が演じる美紗子は、狂気の中にある純粋さを見事に体現しており、観る者はいつしか彼女を“理解したい”と思ってしまう。松坂桃李演じる亮介がその真実に辿り着く過程は、母の罪を赦し、自分自身を受け入れていく“魂の再生”の物語だ。

熊澤尚人監督の演出は、感情を決して押しつけない。水面の波紋、静まり返る空気、ノートをめくる音――その一つひとつが登場人物の心を語っている。映像は美しく、音楽は静かに寄り添い、観終えた後には胸の奥に温かい余韻が残る。母の罪と子の赦し、そして“愛すること”の意味を問うこの映画は、どんなに壊れた人間にも希望があることをそっと教えてくれる。

『ユリゴコロ』とは、人が初めて“愛”を知った瞬間に芽生える心の記憶なのかもしれない。観る者の中にも必ずその記憶があるはずだ。静かで、痛くて、そして美しい――この映画は、心の奥底に眠る“優しさのかたち”を思い出させてくれる。

◆行動する人に、つながる力を。

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