映画『プリズナーズ』(2013年)レビューと考察
◆作品情報
監督 | ドゥニ・ヴィルヌーヴ |
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脚本 | アーロン・グジコウスキ |
製作総指揮 | マーク・ウォールバーグ |
出演 | ヒュー・ジャックマン、ジェイク・ジレンホール、ヴィオラ・デイヴィス 他 |
配給 | ワーナー・ブラザース、サミット・エンターテインメント/ライオンズゲート、ポニーキャニオン/松竹 |
公開 | 2013年 |
上映時間 | 153分 |
製作国 | アメリカ |
ジャンル | サスペンス、クライム、スリラー、ヒューマンドラマ |
視聴ツール | Netflix、吹替、自室モニター/iPad mini |
◆キャスト
- ケラー・ドーヴァー:ヒュー・ジャックマン 代表作『レ・ミゼラブル』(2012年)
- ロキ刑事:ジェイク・ジレンホール 代表作『ナイトクローラー』(2014年)
- フランクリン・バーチ:テレンス・ハワード 代表作『アイアンマン』(2008年)
- ナンシー・バーチ:ヴィオラ・デイヴィス 代表作『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』(2011年)
- グレイス・ドーヴァー:マリア・ベロ 代表作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005年)
◆あらすじ
感謝祭の午後、ペンシルベニアの郊外で、幼い娘アンナとその友だちジョイが忽然と姿を消す。残されたのは、近くに停まっていた古びたキャンピングカーの痕跡だけ。父ケラーは、事件を担当するロキ刑事の冷静な捜査に望みを託すが、手がかりは少なく、時間だけが過ぎていく。凍える雨、沈黙する町、揺らぐ信仰。守るべきものを奪われたとき、人はどこまで踏み越えてしまうのか――。祈りと暴力、正義と罪の境界が、二つの家族を容赦なく試す…。
ここからネタバレありです
手詰まりに苛立つケラーは、知的障害のある青年アレックスを独断で拉致し、廃屋に監禁して自白を迫る。ロキは別件で“迷路”に取り憑かれた男テイラーを追うが、彼は自傷し真相は霧散。やがて行方不明の少女ジョイが脱出し、「あなたもいた」とケラーに呟く言葉から、彼はアレックスの“叔母”ホリーの家へ戻る。ホリーこそ夫妻で子どもを誘拐し信仰に復讐する犯人だった。ケラーは庭の暗い穴に落とされ、ホリーはアナに薬を飲ませ再び連れ去ろうとする。ロキは雪の夜、発砲戦の末にホリーを制圧しアナを救出。後日、現場に残された笛の微かな音に気づいたロキが耳を澄ますと、地下の穴から助けを求める気配が――。救済は間に合うのか、答えは観客に委ねられる。アレックスの本名はバリーで、幼い頃にさらわれた被害者であり、ケラーの拷問は誤りだったと示される。残るのは罪悪感と祈り、そして止まない雪だけだ。
◆考察と感想
この映画を観て最初に思ったのは、「人間の正義ってどこまで信用できるのか」という問いだった。俺は普段から正義感を持つことは大切だと思っているが、いざ自分の大切な家族が事件に巻き込まれたら、果たして冷静に警察や法のシステムを信じ続けられるのか。『プリズナーズ』はその究極の状況を観客に突きつけてくる。
主人公ケラーは、娘が行方不明になった途端、表面的には冷静を装いながらも内心では爆発寸前のマグマのように怒りと恐怖を抱えている。俺はその姿に共感した。どんなに穏やかな人間でも、守るべき存在が危機にさらされれば鬼になる。ケラーの行動は理性を越えていて、暴力という手段を選んだとき、俺自身も「もし同じ立場なら…」と想像してしまった。だが一方で、その暴力が必ずしも真実に近づくわけではなく、むしろ人間を壊していくことも描かれているのが恐ろしい。
ロキ刑事の存在も印象的だ。彼は冷徹で理知的に見えるが、事件解決に執念を燃やす姿はケラーと同じく“囚われの人間”だった。娘を取り戻したい父と、正義を遂行したい刑事。立場は違うが、どちらも「囚人=プリズナー」であることに気づかされる。俺にとってこの映画の核心は、事件そのものよりも「人がどう囚われ、どうもがくのか」という心理劇だった。
物語の構造は二重三重に仕掛けられ、観客を迷路のように惑わせる。アレックスを犯人と疑い、次に迷路に取り憑かれた青年テイラーが現れ、さらに“叔母”ホリーの真実が暴かれるまで、すべてが伏線として絡み合う。俺は何度も「これが真相か」と思わされ、その度にひっくり返される感覚を味わった。この不確かさが、現実の事件にも通じるリアリティを生んでいる。
また、この映画は宗教的モチーフが濃い。ホリー夫妻が「神への戦争」と称して子どもを奪い続けた背景には、信仰の喪失と歪んだ復讐心がある。俺はそこに、人間が信じるものを失ったときの脆さを見た。祈りは人を救うが、逆に呪いのようにも働く。その二面性が、ケラーの行動とホリーの行動を重ね合わせている。どちらも“信念”に囚われ、破壊的な結末を迎える。
映像的にも凄まじい。灰色の空、冷たい雨、溶けかけた雪――全てが絶望の象徴として重くのしかかってくる。観ているだけで体温が奪われるような寒さがある。俺は映画を観ながら無意識に毛布を引き寄せていたほどだ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の演出は、余計な説明をせずに環境そのものを感情の代弁者にしている。
ラストの笛の音も忘れられない。ケラーが穴の底から吹く笛のかすかな音にロキが気づくかどうかで幕を閉じる。俺はあの瞬間、救いと絶望が同時に押し寄せてくるのを感じた。観客は希望を抱くこともできるし、逆に「間に合わなかった」と解釈することもできる。答えを突きつけず、観客自身に委ねる終わり方が、この映画の恐ろしい余韻を残す。
個人的に強く刺さったのは、「正義を行使する者こそ罪に堕ちやすい」という皮肉だ。ケラーは娘を救うために他者を傷つけ、結果的に無実の青年を拷問してしまう。ロキもまた、怒りと焦りの中でギリギリの選択を迫られる。俺自身も、自分の正しさに固執した経験がある。そのときは周囲を見失い、後から振り返ると愚かだったと気づく。だからこそ、ケラーの姿は他人事に思えなかった。
『プリズナーズ』は単なる誘拐サスペンスではない。人間の闇と弱さをえぐり出し、観客に「お前ならどうする?」と迫る作品だ。観終えた後もしばらく胸が重く、何度も考え直させられる。俺にとって、この映画は娯楽を超えた「試練」のような体験だった。
モテ男目線の考察
『プリズナーズ』は、男が「守る覚悟」を突きつけられる物語だ。娘を失った父は法を越え、刑事は信念を貫き、誰もが囚われながら闘う。女は強さと脆さを両方さらけ出し、男の行動を照らす鏡になる。モテる男に必要なのは、暴力ではなく揺るがぬ覚悟と冷静さだと教えてくれる。愛する人を守るとき、試されるのは筋肉ではなく心の強さ。
◆教訓・学び
モテる男は、怒りに囚われず冷静に愛する人を守り抜く強さを持つ。
◆評価
項目 | 点数 | コメント |
---|---|---|
ストーリー | 19 / 20 | ヒュー・ジャックマンとジェイク・ジレンホールの緊張感あるせめぎ合いが骨格。最後の笛の余韻が恐ろしくも美しい。 |
演技 | 19 / 20 | 激情のジャックマンと静のジレンホールの対比が見事。脇を固めるヴィオラ・デイヴィスらも重量感十分。 |
映像・演出 | 19 / 20 | 陰鬱な色調と雨・雪の体感が物語を増幅。説明を削ぎ落とす演出が観客の想像力を駆動する。 |
感情の揺さぶり | 18 / 20 | 「正しさ」が暴力に転化する恐怖が刺さる。観客自身の倫理が試され、後を引く。 |
オリジナリティ・テーマ性 | 19 / 20 | 信仰・復讐・家族の三層で“囚われ”を描出。定番題材に新たな重力を与える。 |
合計 | 94 / 100 | “もし自分なら”を避けられない道徳スリラーの到達点。レビュー対象としても格好の教材。 |
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